117.邪竜、バーベキューする【前編】
無人島生活2日目。
昼が近づいた頃。
リュージはシーラ、ルトラ、そして母と供に、砂浜で海水浴をしていた。
リュージは母とともに、浅瀬で泳いでいた。
「りゅ、りゅーくんっ! 手はなしちゃだめですからねっ!」
現在、リュージは母の水泳の訓練につきあっていた。
何でもできる万能ママなのだが、泳ぎは苦手らしい。昔海で溺れたことがあったそうだ。
リュージは母の手を掴んで、後ろ向きで歩いている。
「大丈夫。絶対に離さないよ」
「きゃ~~~~♡ りゅーくんかっこ……げほっ! ごぼ!」
「か、母さん大丈夫っ?」
「ぺぺっ、……は、はい……海水が口に入っただけです」
ほっ、とリュージが吐息をつき、厳しい調子で言う。
「だめだよ母さん。泳いでる途中で大口開けちゃ。肺に水が入ったら危ないんだからね」
「うう……ふぁ~い……えへへっ♡ 我が子に注意されるのってとっても新鮮♡ えへ~……げほごぼぼぼっ!」
リュージは母の手を引いて、バタ足の練習をする。
母の用意した【びぃとばん】の方が、練習に適していた。
沈まない板らしいので、これを使えばバタ足は楽に練習できる。
しかし母は拒否。
理由は明確。
息子と手をつなぎたいから。ただそれだけだった。
そんなふうに海でバタ足の練習をすることしばし。
太陽がちょうど真上にやってきた頃。
ぐぅう~~~~~~………………。
「はぅッ……! ご、ごめんなさいなのです~……」
シーラが大きな腹の音を立てたのだ。
リュージたちは海から上がる。
「ではお昼にしましょうか」
……と、そのときである。
「カルマ様。おはようございます」
冒険者たちの暮らすログハウスから、黒髪長身の女性がやってきたのだ。
彼女はゴーシュ隊長。
今回の無人島調査の、隊長を務める女性だ。
「あらどうも。おはようございます」
カルマがゴーシュ隊長にペコッと会釈をする。
……他者に対して無視が基本のカルマが、きちんと挨拶をしていた。リュージはうれしくなった。
「よく眠れましたか?」
「はい。カルマ様の用意してくれた家と神具がとても快適で、こんな時間までぐっすりと眠ってしまいました」
ゴーシュは20代後半。
一方でカルマは、見かけ上は10代後半から20代前半。
カルマの方が年下(に見えるはず)なのに、ゴーシュの態度は実に謙虚だった。
「ところでカルマ様たちは、お昼ご飯をすませましたか?」
ゴーシュ隊長がカルマとリュージたちを見やる。
「いえ。これからご飯に使用と思っていたところです」
「それは重畳! 実は私たち、今からバーベキューの準備をしようと思っていたんです」
「「「ばーべきゅー!」」」
リュージたちが目をキラキラとさせる。
夏になると、チェキータとよく河原で肉を焼いて食べていたことがあった。
「わぁ! わぁ! たのしそー! ばーべきゅー!」
シーラがよだれを垂らしながら、笑顔で飛び跳ねる。
「りゅーくんはどうします?」
「僕もバーベキューしたい!」
「むぅ……。わかりました。りゅーくんの意思を尊重しましょう」
若干母がふてくされていた。
どうやら昼食の用意を、ゴーシュたちに取られたと思ったらしい。頼られたかったのだろう。
リュージはすかさず、母にこう言った。
「母さん。バーベキューの道具や食材、出して欲しいんだ」
するとカルマはパァ……! と明るい笑顔を浮かべる。
「わかりました! そいッ!」
パチンッ!
砂浜に大量の食材と、バーベキューセットが出現した。
「「「すげー! さっすがカルマ様ー!」」」
冒険者たちがキラキラとした目を、カルマに向ける。
「ま、まぁ。りゅーくんに食べていただくのですから。これくらいの準備と食材は出して当然ですね」
母はまんざらでもなさそうだ。
良かった……とリュージは笑う。
「お心遣い感謝いたします、カルマ様。では我々は用意をしますので、ご子息とも用意ができるまでお待ちください」
ゴーシュ隊長がそう言う。
リュージが、自分も手伝う、と提案する前に。
「いえ、私も手伝います」
と、母が自ら、そう買って出たのだ。
リュージはびっくり仰天する。
「どうしましたか、りゅーくん?」
「う、ううん! なんでもないよっ!」
リュージは心からの笑みを浮かべた。
母が誰かと協力して、何かをしようと、自分から言い出してくれるなんて……。
「僕も手伝うよ、母さん! みんなで一緒にご飯の用意しよう!」
「ええっ! なにそれちょーたのしそー! よーうし、お母さん張り切っちゃうぞ~!」
かくしてリュージたちは、冒険者たちと一緒に、バーベキューをすることになったのだった。
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