116.邪竜、息子と海水浴する【中編】
母の作った朝食を食べた後。
リュージは母やシーラたちと供に、砂浜へとやってきていた。
「わわっ! ま、まぶしー……のです~……」
直射日光が肌を焼く中、シーラは目を細めて言う。
「シーラ。このサングラスを使いなさい」
「わーい! カルマさんありがとーなのですー!」
カルマが万物創造で出したサングラスを、シーラが受け取る。
「ルトラ。りゅーくんも必要なものは出しておきますので、好きに使ってくださいな」
カルマはパチッ! と指を鳴らす。
レジャーシートやパラソル、そして大量の【海の道具】が出現する。
「わー! 浮き輪もあるのですっ!」
シーラがてててっ、とレジャーシートの前に座り、使うものを選んでいる。
一方でリュージ、そしてルトラは、その場に突っ立って動けないでいた。
「……シーラ、楽しんでるね」
「うん……すごいなぁ」
「……アタシ、不安でさ。この状況、心から楽しめないよ」
ルトラがはぁとため息をつく。
それはそうだ。
いくら万能お母さんがそばにいるからといって、ここは無人島で、自分たちは漂流してきているのである。
家に帰れるか不透明。
しかも何がある変わらない無人島。
……純粋に、この南国の島を楽しめないでいた。
「りゅーじくんっ、ルトラちゃんっ」
ててーっ、とシーラがリュージたちの元へ来る。
「行こっ♡」
「で、でも……」
「いいからいこいこっなのですー!」
シーラが笑顔で、リュージたちの手を引いて、海辺へと向かう。
「りゅーじくん、るとらちゃん、あんまり不安がってちゃだめなのです」
カルマから距離を取ったところで、シーラがふたりを見上げて言う。
リュージは、シーラが何のことを言ってるのか、わからなかった。ルトラも同様らしい。
「ふたりが暗い顔してると、カルマさんもかなしー気持ちになっちゃうのです」
「どういうことなの、シーラ」
シーラがしゃがみ込む。
ちょいちょいと手招きする。
リュージたちもまたしゃがみ込んで、小声で言う。
「……カルマさん、しーらたちが不安にならないようにって、いつも以上に明るく振る舞ってくれてるのです」
ルトラは首をかしげた。
リュージはシーラに指摘されて、「確かに、いつもよりテンション高いかも」とうなずく。
妙な話だったのだ。
こんなシリアスな状況下で、カルマは普段通り……いや、普段以上に明るく振る舞っていた。
それは……なるほど。シーラの言うとおり、リュージたちをこの状況下で悲しませないように、自分から明るく振る舞ってくれているのだろう。
「しーらも不安なのです。けどカルマさんも不安なのです。りゅーじくんを家に帰さなきゃーって、頭の中にはいろんな悩みがパンパンになってると思うのです」
りゅーじはカルマを見やる。
普段はニコニコーっとしているカルマ。
しかし目を離していた今、母の表情は曇っていた。
黙り込み、考えている。
……普段よりも、たくさんいろんなことに、頭を悩ませないといけない状況下なのだ。
「無理に明るく振る舞う必要はないとは思う……のです。けど、必要以上に後ろ向きに考えちゃめ、なのです。くらーい顔してたら、くらーい気持ちになっちゃうのです」
ハッ……! とリュージが気付かされる。
「僕……くらい表情してた?」
「はいなのです。いつも以上に……こう、眉間がきゅーっと寄ってたのです」
シーラが自分の眉間をつつき、むぎゅっ、と寄せる。
「ルトラちゃんも、こーなんてたのです」
「……そう、だね。アタシも、不安だった」
ルトラが首を振る。
「……けどだめだよね。アタシたちの暗い顔見たら、余計暗くなっちゃうよね」
「そうなのです! すまいる一番、なのですー!」
にこーっとシーラが笑う。
リュージも恋人の明るい笑みを見て、ほほえむ。
「そうだね。……うん、ルトラ。いろんなことはいったん置いといて、とりあえず楽しもうよ」
「……そうだね」
リュージはシュノーケル。
ルトラはビーチボール。
そしてシーラは浮き輪を手にする。
「母さん。僕ら海に行ってくるね!」
リュージは努めて明るく、そういった。
カルマは息子の表情を見て……ほっ、と安堵の吐息をついていた。
シーラの言うとおりだったのだろう。
「ええわかりました……! ああ、その前にちょっとまってね!」
カルマが砂浜をかけてくる。
じゃぶじゃぶと浜辺に入っていくと、
「ではりゅーくんたちが安全に海で遊べるようにします。あ、りゅーくんたちは下がっててね」
リュージはうなずいて、慌てて逃げる。
……母と長く暮らしていて、さすがにカルマが何をするのか、見当がついていた。
いや、何かするのは確実だったから、危機回避したのである。
「くらえ……! 破壊の雷っ!!!」
カルマは右手に、万物破壊の黒い雷をやどす。
そして思い切り、海にたたきつける。
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!!!!!!
海に大量の電気が流れる。
ややあって……ぷかぁ……っと、大量の海や、そして海生モンスターたちが、浮かぶ上がってきたのだ。
「ひぃっ……! お、思っている以上にデンジャラスな海だったのですー!」
そこらにたくさんいるモンスターたちを見て、シーラが青い顔をする。
「ですがこれで安全です♡ ささっ、れっつら海水浴~♡」
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