115.邪竜、息子と一緒に、家に帰ることを誓う
無人島に流れ着いた、初日の夜。
リュージは母の作った城の最上階。
見晴台にいた。
「…………」
遠くに潮騒が聞こえる。
夜の海は暗く、まるで底なし沼のように思えて怖かった。
海から風が吹く。
ぶるり……と身震いするリュージ。
「風邪引きますよ」
「母さん……」
ふわり、とカルマがリュージの前に降り立つ。
カルマは万物創造でカーディガンを作ると、リュージの肩にかける。
「ありがと、母さん」
「いえいえ。……どうしたの、りゅーくん? こんなさみしいところで1人で」
「うん……ちょっとね」
リュージは海を見やる。
いや……水平線の向こう側だ。
「僕たち……帰れるのかなって」
リュージたちはこの無人島に流れてきた。カルマという神のごとき力をもつ彼女がいるおかげで、どうやらここでは不自由なく暮らせるだろう。
だが……この先は?
この先リュージたちはどうなるのか……?
「僕たち……一生この島で暮らすのかな」
「……そう、ですね」
カルマが目線を落とす。
「お母さんは……それでもいいかなと思います。お母さん、りゅーくんがいればそれでいいので」
リュージは母を見やる。
それはちょっと……と口を挟もうとしたのだが。
「と、昔は即答できたんですけどね」
カルマは顔を上げる。
リュージと一緒に、水平線の向こうを見やる。
「今は帰りたい……いや、帰らなきゃって、思ってます」
「それは……どうして?」
カルマはリュージを見やる。
静かに微笑む。
「りゅーくんと同じです。残してきた人たちに……また会いたいから」
リュージは母を見て、目を丸くした。
……あの、息子以外どうでも良い母が、息子以外のひとを、気にかけている。
「ルコにバブコ……りゅーくんの友達たち。そして……まあ、いちおう……あの無駄肉エルフもです」
チェキータのところだけ、露骨に嫌そうな顔をした。
だが……リュージは知っていた。母は本当は、チェキータとまた会いたいと思っていることを。
「お母さん、なんだか最近ね、不思議なんです。りゅーくんが世界の中心で、世界はりゅーくんだったんです。けど……世界にはいろんな人が、思ったよりいるんだって……最近思うようになったんです」
「母さん……」
「あっ、もっ、もちろんりゅーくんが1番ですから! オンリーワンでナンバーワンなお母さんの愛しい息子ですからね!」
カルマは慌ててリュージに抱きつく。
そしてむぎゅーっ、と力強く抱きしめる。
「怒った? りゅーくん以外の人間に興味を示したから、怒った?」
「まさか。そんなことないよ、母さん」
リュージは顔を上げる。
そして笑った。
「僕……うれしい」
「へ? う、うれしい? なにがですか?」
リュージは照れくさくて、頭をかく。
言葉にするのが、恥ずかしかった。
母に友達ができたことが、母に自分以外の好きなものができたことが、嬉しかった。
だが口に出すと気恥ずかしかった。
「いろいろ」
「あーん、ひどいですよぅ。いろいろってなぁに? 教えてりゅーくん♡」
「ひみつ」
「けちー♡」
カルマが楽しそうに笑うと、リュージをまたハグする。
今度は後から、リュージを抱きしめていた。
「大丈夫です。お母さん必ず、りゅーくんたちを……元の場所へ返してあげます」
「テレポートは……使えないんだっけ?」
そう、なぜだか知らないが、この島で、カルマは【転移】スキルが使用できないのだ。
「はい。ですが……そうしている原因はわかりました。そいつを見つけ出し、倒せば……お母さんは転移を使えるようになります」
カルマは険しい表情をする。
……表情が、少し悲しそうに、リュージには感じた。
「おそらく転移を使えなくしている犯人が、この島の嵐を起こしている張本人です」
「つまりいずれにしろ……その犯人を見つけ出さないとダメってこと?」
ええ、とカルマがうなずく。
「犯人さえ見つけ出せれば、あとは簡単です。邪神王のチカラがあれば……犯人には勝てるでしょう」
また……母が暗い表情になる。
リュージは憶測を口にする。
「もしかして……その犯人に、心当たりあるの?」
「えっ!?」
カルマがガバッ……! と顔を上げる。
「ど、どうしてッ!?」
母の目が泳ぐ。声が裏返っていた。
……やっぱり。
「勘だよ。そんな気がしたんだ」
「……そう」
カルマが、いつもニコニコ笑顔のカルマが、暗い表情になる。
「……ねえ、りゅーくん」
カルマが顔を上げる。
真面目な顔で言う。
「あのね……」
カルマが口ごもる。目を伏せて、口を閉ざしている。
リュージはすぐにわかった。
「わかった。詳しくは、聞かない」
リュージの言葉に、カルマが目を丸くする。
「どうして……?」
「言いたくないんでしょう。わかるよ、母さんの思っていること。だって……」
リュージは笑った。いや、笑おうと思った。
だって……母には笑っていて欲しいから。
いつだって母は笑い、リュージに元気を分けてくれた。
だから今度は自分の番だ。自分が、母に元気をチャージする番。
「だって僕たち、親子だもん」
カルマがじわ……っと目に涙をためる。
勢いよくガバッ! とリュージを抱きしめた。
「約束します! 必ず……必ず! りゅーくんを、家に帰しますと!」
カルマがつよく抱きしめる。
その体は……震えていた。……泣いているのかも知れなかったが、リュージは聞かなかった。
かくしてリュージとカルマは、ここを出て行く決意を、固めたのだった。
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