表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

201/383

115.邪竜、息子と一緒に、家に帰ることを誓う


 無人島に流れ着いた、初日の夜。


 リュージは母の作った城の最上階。

 見晴台にいた。


「…………」


 遠くに潮騒が聞こえる。

 夜の海は暗く、まるで底なし沼のように思えて怖かった。


 海から風が吹く。

 ぶるり……と身震いするリュージ。


「風邪引きますよ」

「母さん……」


 ふわり、とカルマがリュージの前に降り立つ。

 カルマは万物創造でカーディガンを作ると、リュージの肩にかける。


「ありがと、母さん」

「いえいえ。……どうしたの、りゅーくん? こんなさみしいところで1人で」


「うん……ちょっとね」


 リュージは海を見やる。

 いや……水平線の向こう側だ。


「僕たち……帰れるのかなって」


 リュージたちはこの無人島に流れてきた。カルマという神のごとき力をもつ彼女がいるおかげで、どうやらここでは不自由なく暮らせるだろう。


 だが……この先は?

 この先リュージたちはどうなるのか……?


「僕たち……一生この島で暮らすのかな」

「……そう、ですね」


 カルマが目線を落とす。


「お母さんは……それでもいいかなと思います。お母さん、りゅーくんがいればそれでいいので」


 リュージは母を見やる。

 それはちょっと……と口を挟もうとしたのだが。


「と、昔は即答できたんですけどね」


 カルマは顔を上げる。

 リュージと一緒に、水平線の向こうを見やる。


「今は帰りたい……いや、帰らなきゃって、思ってます」

「それは……どうして?」


 カルマはリュージを見やる。

 静かに微笑む。


「りゅーくんと同じです。残してきた人たちに……また会いたいから」


 リュージは母を見て、目を丸くした。

 ……あの、息子以外どうでも良い母が、息子以外のひとを、気にかけている。


「ルコにバブコ……りゅーくんの友達たち。そして……まあ、いちおう……あの無駄肉エルフもです」


 チェキータのところだけ、露骨に嫌そうな顔をした。

 だが……リュージは知っていた。母は本当は、チェキータとまた会いたいと思っていることを。


「お母さん、なんだか最近ね、不思議なんです。りゅーくんが世界の中心で、世界はりゅーくんだったんです。けど……世界にはいろんな人が、思ったよりいるんだって……最近思うようになったんです」


「母さん……」


「あっ、もっ、もちろんりゅーくんが1番ですから! オンリーワンでナンバーワンなお母さんの愛しい息子ですからね!」


 カルマは慌ててリュージに抱きつく。

 そしてむぎゅーっ、と力強く抱きしめる。

「怒った? りゅーくん以外の人間に興味を示したから、怒った?」


「まさか。そんなことないよ、母さん」


 リュージは顔を上げる。

 そして笑った。


「僕……うれしい」

「へ? う、うれしい? なにがですか?」


 リュージは照れくさくて、頭をかく。

 言葉にするのが、恥ずかしかった。


 母に友達ができたことが、母に自分以外の好きなものができたことが、嬉しかった。

 だが口に出すと気恥ずかしかった。


「いろいろ」

「あーん、ひどいですよぅ。いろいろってなぁに? 教えてりゅーくん♡」


「ひみつ」

「けちー♡」


 カルマが楽しそうに笑うと、リュージをまたハグする。

 今度は後から、リュージを抱きしめていた。


「大丈夫です。お母さん必ず、りゅーくんたちを……元の場所へ返してあげます」


「テレポートは……使えないんだっけ?」


 そう、なぜだか知らないが、この島で、カルマは【転移テレポート】スキルが使用できないのだ。


「はい。ですが……そうしている原因はわかりました。そいつを見つけ出し、倒せば……お母さんは転移を使えるようになります」


 カルマは険しい表情をする。

 ……表情が、少し悲しそうに、リュージには感じた。


「おそらく転移を使えなくしている犯人が、この島の嵐を起こしている張本人です」


「つまりいずれにしろ……その犯人を見つけ出さないとダメってこと?」


 ええ、とカルマがうなずく。


「犯人さえ見つけ出せれば、あとは簡単です。邪神王のチカラがあれば……犯人には勝てるでしょう」


 また……母が暗い表情になる。

 リュージは憶測を口にする。


「もしかして……その犯人に、心当たりあるの?」


「えっ!?」


 カルマがガバッ……! と顔を上げる。

 

「ど、どうしてッ!?」


 母の目が泳ぐ。声が裏返っていた。

 ……やっぱり。


「勘だよ。そんな気がしたんだ」

「……そう」


 カルマが、いつもニコニコ笑顔のカルマが、暗い表情になる。


「……ねえ、りゅーくん」


 カルマが顔を上げる。

 真面目な顔で言う。


「あのね……」


 カルマが口ごもる。目を伏せて、口を閉ざしている。

 リュージはすぐにわかった。


「わかった。詳しくは、聞かない」


 リュージの言葉に、カルマが目を丸くする。


「どうして……?」

「言いたくないんでしょう。わかるよ、母さんの思っていること。だって……」


 リュージは笑った。いや、笑おうと思った。

 だって……母には笑っていて欲しいから。

 いつだって母は笑い、リュージに元気を分けてくれた。

 だから今度は自分の番だ。自分が、母に元気をチャージする番。


「だって僕たち、親子だもん」


 カルマがじわ……っと目に涙をためる。

 勢いよくガバッ! とリュージを抱きしめた。


「約束します! 必ず……必ず! りゅーくんを、家に帰しますと!」


 カルマがつよく抱きしめる。

 その体は……震えていた。……泣いているのかも知れなかったが、リュージは聞かなかった。


 かくしてリュージとカルマは、ここを出て行く決意を、固めたのだった。

コミックス、書籍、いよいよ明日発売です!!

すごい頑張って書きました!お手にとっていただけると嬉しいです!!


またあと数分で漫画版が、マンガup で更新されます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ