114.邪竜、活動拠点を作る【後編】
無人島生活初日。
カルマは砂浜に集まる息子と、冒険者たちを前にしている。
「まずは住む場所ですね」
カルマはパチンッ……! と指を鳴らす。
すると浜辺から離れた場所に、住居がずらりと出現したではないか。
「「「なんじゃこりゃー!?」」」
冒険者たちが、みな一様に目をむいている。
「カルマ様。この建物は……いったいどうやったのでしょうか?」
ゴーシュ隊長が一同を代表して言う。
「私には万物創造という能力があります。それを使ってログハウスをちょいと作っただけです」
カルマがしれっと説明する。
別にこいつらに説明する義務はない……が、彼らに冷たくすると、ムスコが悲しむ。
「なんてことだ……カルマ様。万物とは文字通りなのですか?」
「ええ」
パチンッ! とカルマが指を鳴らす。
ログハウスの横に、大きめのショッピングモールが出現したのだ。
「「「は……?」」」
これにはみな、愕然としていた。
「か、カルマ様。この建物群……カミィーナも商店街のように見えるのですが?」
「ええ。建物をまるごと複製しました。服屋も食べ物屋もありますので、必要なものは個々人で調達してください」
震えるゴーシュ隊長と冒険者たち。
一方でリュージたちは平然としていた。
「りゅ、リュージ。君たちはまるで驚いていないのはどうしてなんだ?」
ゴーシュ隊長がリュージに言う。
「えっと……いつも通りなので」「いつも通りなのです」「……いつも通りだね」
カルマの破天荒な行動になれているメンバーたちは、これくらいじゃ驚かないのだ。
「パーティ数分の住居は用意しましたので、仲良く暮らしてください。必要最低限の家具は中に設えてます」
「なんと……カルマ様」
ゴーシュは直角に頭を下げる。
「あなたは素晴らしい……まさに神ですね」
「「「ありがとう神様ー!」」」
冒険者たちが無邪気に、カルマを褒める。
「ど、どうも……」
なんだろう、気恥ずかしい。
ムスコとその友達以外の人間に、好意を向けられたことがなかったから。
どうして良いのかわからない。
「ありがとう、母さん。みんなの家を作ってくれて」
「りゅーくん! ありがとう!」
むぎゅーっと息子をハグするカルマ。
このありがとうは、ありがとうを言ってくれてありがとう、のありがとうだ。
「りゅーくんたちのお家はちゃんと作りますからねっ! ほいさっ!」
万物創造スキルが発動。
ごごごご……っと、地鳴りの後。
ドンッ……!
と、砂浜に【城】ができた。
……砂の城、ではない。
砂浜に、文字通り、西洋風の城ができたのだ。
「息子が泊まる別荘ですもの。それにふさわしいものを……作らなきゃね!」
リュージは苦笑していた。
嫌がるそぶりを見せてこなかった。……目立つから辞めてと言われるかな、とちょっと思ったのだけれど。
「次はお水ですね。ほいさっ!」
ぽんっ! と井戸。水飲み場。噴水。そしてなぜかプールができた。
「家の中にも給排水は完備してあります。蛇口をひねれば水が出る仕組みです」
「じゃ、口……?」
はて、とゴーシュ隊長と冒険者たちが首をひねっている。
リュージは水飲み場にある蛇口をひねる。
するとじゃああ……っと水が出るではないか。
「「「おおー!」」」
冒険者たちが目を輝かせる。
「すげええ!」「なんだこれ無限に水が出るのかよ!」
この世界で上下水道はそこまで発達していない。上水はくんできて樽にため、コックをひねって飲む方式をとっている。
必然的に、水が出る量は決まってしまう。
なのでこのようにいつでもひねれば水が出るという環境は、現地人たる冒険者たちには珍しいのだ。
「りゅ、リュージ。きみらは平然としているのな」
「なれてますので」「なれてるのですー!」「……まあ、普通」
普段これ以上のハプニングをいつも起こしているから、別に驚いていないみたいだった。
「これで衣食住の最低限は備えましたね」
カルマが冒険者たちを見回して言う。
ゴーシュ隊長が、みなを代表して頭を下げた。
「ええ。何から何まで、本当にありがとうございます」
「「「ありがとうございましたっ!」」」
……なんだろうか。
本当に、よくわからないのだが……。
心が、なぜだか暖かくなるような気がする、カルマであった。
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