114.邪竜、活動拠点を作る【中編】
無人島に流れ着いたリュージたち。
母は島の外の様子を見てくると、飛び立っていった。
砂浜に残された、リュージたち冒険者。
今は母の用意してくれたパラソルの下、みな横になり、体力回復につとめている。
船が沈み、長い時間海水にさらされたのだ。
くわえて、この炎天下。
みなの体力は極限まで削れているのだ。
かくいうリュージたちも、限界だった。
リュージのパーティメンバーたちも、パラソルの下で、すぅすぅと寝息を立てている。
「…………」
リュージはレジャーシートに三角座りをして、母の帰りを待っていた。
「眠らないのか、リュージ?」
「ゴーシュ隊長……」
やってきたのは黒髪長身の人間、ゴーシュだった。
「眠れなくて……」
「眠れなくても、体を横にしているだけでだいぶ楽になるぞ」
「いやそうじゃなくて、ですね。その……母さんが、今外行ってるので、眠れなくて」
「? ああ、そうか」
ゴーシュはにかっと笑う。
「母親であるカルマ様が、危険を顧みず島の外の調査をしてくださっている。そんななかで自分ひとりのうのうと眠れない……というところかな?」
リュージは瞠目した。
どうしてこの人は、まるで心を見抜いたように言えるのだろうか。まるでチェキータのようだった。
「リュージは優しいやつだな」
「いえ……普通ですよ」
ばしっ! とゴーシュがリュージの背中をたたく。
「そんなことはない。おまえは優しいやつだ。みんなに水を配るときも率先して手伝ってくれたしな」
爽やかな笑みを浮かべるゴーシュ。
な、なんてイケメンなんだ……。
いやでもこの人、男じゃなくて女の人なんだよな。
顔は男っぽい。
体つきもがっしりしてるが、ちゃんと胸と尻が出ている。
「ん? どうしたリュージ?」
「い、いえっ。なんでもないですっ」
リュージは立ち上がると、ゴーシュから距離を取ろうと、パラソルの外に出る。
「ぼ、僕ちょっと向こう見てきます」
「それは良いが、あまりみながいるところから離れるなよ。危ないからな」
わかりました、といって、リュージはうなずく。
白い砂浜を歩く。
「無人島だ……ほんとうに、なんにもないや……」
あるのは海に砂浜。そして密林。
どうやらこの島には樹木が生えているようだった。
リュージは木々の生い茂る方を見やる。
普段暮らしてる地域では、あまり見られないような種類の植物だ。
「前にチェキータさんに図鑑で見せてもらった、熱帯地域の植物っぽいな……」
興味はあったが、森には近づこうとしなかった。ゴーシュの忠告もあったことだし……とそのときである。
【……りゅーじ】
リュージの脳内に、誰かの声が響いたのだ。
「だ、だれっ?」
慌てて周囲を見回すが、誰もいなかった。
「……空耳、かな?」
おとなしくゴーシュ太刀之本へ戻ろうとしたのだが。
【……りゅーじ。かるま。りゅーじ】
「やっぱり聞こえる……だ、だれっ?」
リュージは辺りを見回す。
すると……森の入り口に、人影が見えた。
「…………っ」
その瞬間、リュージは時間が止まったかと思った。
そこにいた人物に……目を奪われたのだ。
しかし……。
流れるような金髪も。
すらりと長い手足も。
そして……目を見張るほどの大きな胸も。
……すべて、気にならなかった。
一番、リュージの目にとまったのは……その顔の作りだった。
「かあ……さん?」
森の入り口に立っていたのは、母カルマアビスそっくりの顔をした、女性だったのだ。
「…………」
女性はきびすを返すと、森の中へと消えていった。
「……今のは、いったい?」
誰だったのだろうか、と思っていた、そのときだ。
「りゅーーくんっ!」
上空でカルマが、人間の姿へと変身し、リュージの元へ降りてきたのだ。
だきっ! とそのまま抱きつく。
「りゅーくんとっても力持ち! すごい!」
「あ、ありがとう……」
リュージは母をよいしょと下ろす。
「……ねえ、母さん。変なこと聞くけど、今森の中にいなかった?」
「…………。いいえ。お母さん島の外の調
査に行ってましたし」
カルマは首を横に振る。
「……そう、だよね」
では森の入り口で見た、母そっくりの金髪の女性は、誰だったのか?
カルマでないとなると……あれ、いったい……?
「それよりりゅーくん。暑かったでしょう? お母さんが不便をかけてごめんなさいね」
カルマはスキルでハンカチを出すと、リュージの額の汗を拭う。
「すぐにお母さん、涼めるところ作りますからっ!」
そう言って、カルマはリュージの手を引いて、冒険者たちのいる砂浜へと歩き出す。
母に手を引かれながら、リュージは背後を振り返る。
……そこにいただろう、金髪の女性が、気になってしょうがなかった。見間違いじゃないとすると、あれはこの島に住んでいる現地人だろうか。
わからないことだらけだ。
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いよいよ発売日まであと3日!
早いところでは明日くらいから店頭に並ぶそうです!
一生懸命描いた作品なので、お手にとっていただけると幸いです!