114.邪竜、活動拠点を作る【前編】
息子と一緒に、無人島へやってきているカルマ。
ここには息子たち以外の、冒険者パーティもいる。
冒険者たちはカルマが助けた……というが。
「……おそらく、あいつ、ですね」
姿形がカルマに似ていたことと。
そしてドラゴンの色が、金だったこと。
……カルマには心当たりがあった。
「この島の……どこに……?」
カルマは遠く水平線を見やる。
青い海が広がっている。
すごく遠くに、雷雲が見て取れた。
「…………」
「母さん?」
リュージがカルマを見上げてくる。
「ああ、いえごめんなさい。お母さんちょっとぼんやりしてました」
カルマは首を振る。
……【やつ】と大事な息子を、近づけてなるものかと。
「それでりゅーくん、どうしたのですか?」
「あ、えっと……お水出して欲しいんだ。ゴーシュ隊長たち、のどからからなんだって」
息子の頼みとあらば、素直に従うカルマ。……ただ、それがリュージ以外の人間を救うためというのが、気に入らない。
カルマが助けるのは、リュージ、そしてリュージの周囲にいる人間だけ。
ゴーシュ隊長を含めた冒険者は、今日あったばかりの他人だ。救うギリは一切ない。しかし……。
「…………」
もし、ゴーシュ隊長たちを助けたのが、【アイツ】だとしたら。……それを無下にすることは、できなかった。
「お水ですね。かしこまりました!」
カルマはぱっちんと指を鳴らす。
大きな樽と、人数分の木のジョッキが出てくる。
樽にはコックがついており、それをひねれば水が出る仕組みだ。
「さぁ人間ども。りゅーくんに感謝しむせびなきながら、水を飲むと良いです」
「母さん! 言い方っ!」
え? と首をかしげるカルマ。
ちゃんとした言い方をしたつもりなのだが……。
どうやら息子はお気に召さないらしい。
「いやっ! リュージ。いいんだよ」
「ゴーシュ隊長……」
黒髪長身の女性が、リュージの肩に触れて言う。
「カルマ様はドラゴンだな。しゃべり方が違ってくるのは当然だ」
ゴーシュ隊長はニコッと笑うと、頭を直角に曲げる。
「カルマ様、そしてリュージ。誠にありがとうございます! みなのために水を恵んでくださり、本当に感謝します!」
「「「ありがとうございます!」」」
ゴーシュが頭を下げると、他の冒険者たちも、いっせいにカルマたちにお礼を言ってきたではないか。
「お、おう……えっと、ま、まあいいです。よく冷えているのでさっさと飲んだ方が良いのでは?」
「お言葉に甘えさせていただきます。おいみんな! 水をもらったぞ! 配るから手伝ってくれ!」
「「「おっす!!」」
ゴーシュ隊長がしきり、みなに水を配っていく。リュージもシーラたちも、手伝っていた。
カルマは途中で見てられなくなり、カルマも手伝った。
「お手伝いいただきありがとうございますカルマ様」
にかっ! と爽やかな笑みを浮かべるゴーシュ。ううむ……人間のくせに、ちゃんと礼儀をわきまえているやつだ。
「ま、まあ……我が子が働いている間、ひとり何もしないわけにはいきませんからね」
「なるほど……優しいお母さんだ。リュージがうらやましいです」
ぐ、ぐぬぬ……やるなこの女。こっちが欲しい言葉を、的確に出して来やがる。あなどれぬ!
「ふ、ふんっ。まあいいです。水飲んだら少し休んでなさい。しばしの活動の拠点を作ってきます」
そう言って、カルマがまた万物創造スキルを発動。砂浜にパラソルとレジャーシートが出現する。
「「「ありがとうカルマさまー!」」」
「ま、まあいいです……では私はこれで」
そう言って、カルマは邪竜へと変身。
バサッ……! と翼を広げる。
【りゅーくん。お母さんちょっと島の様子の確認と、寝泊まりする場所作ってきます。帰ってくるまでシーラたちと遊んでいてください】
「わ、わかった……ていうか遊ばないけどね」
息子がうなずいたのを見て、カルマは翼を広げ、大空へと飛ぶ。
……行き先は、とりあえず島の外。
海を覆う、嵐の中だ。
……そこにいるはずの、黄金のドラゴンのもとへ。
書籍版、コミックスは7月25日に同時発売!
早い所では週明けくらいから販売されるそうです。
自分の持てる力すべてを積み込んで作ったので、たくさんの人のお手にとっていただけたら、作者として望外の喜びです。