表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

197/383

113.邪竜、無人島へ行く【後編】



 無人島に流れ着いたリュージたち。


 ここでどうやって暮らそうと途方に暮れていたところ……チート母がやってきた。


「母さん……どうして、ここに?」


 無人島の砂浜にて。

 リュージたちは濡れた服をぬいて、水着に着替えていた。


 カルマはいつものセーター+ロングスカートという出で立ち(ただしサマーセーター)。


「どうして? ……愚問を!」


 カルマは胸を張って言う。


「息子のあるところ……母あり! ですよ!」

「……いつも通りついてきたんだね」

 

「そゆことです。姿を消してこそっとね」


 はぁ~……とリュージはため息をつく。

 母の過保護っぷりは、健在だった。


 だが今回ばかりは、母がいてくれて、心から良かった。

 無人島にカルマがいる。

 これほど……安心することはないだろう。

「どうしたのりゅーくん?」

「ううん。母さん……いつもありがとう。今回も……助かったよ」


「いえいえ♡ 息子を助けるのは母として当・然! それが母というものですよ!」


 ぐぐっ……! と拳を握りしめて、カルマが叫ぶ。


「さてっ! それではりゅーくん。ご飯にします? それともビーチで海水浴? あ、バーベキューでもいいですね!」


 カルマはぱっちんぱっちん! と指を鳴らしまくる。

 スキル万物創造だ。文字通り、あらゆる物体をゼロから作れるチートスキルである。

 ……母は、すっかりバカンス気分だった。

 だがりゅーじたちにとっては、遊んでいられる心持ちではない。


「僕たちここで遭難してるんだよ……?」

「遭難? バカンスでは?」

「違うってば。早く家に帰らないと。みんな心配してるし」


 みんなとはルコやバブコ、そしてチェキータだ。

 きっとみんな、リュージたちの安否を心配しているに違いない……。


「えー、大丈夫ですよ。だってお母さん転移スキルがあるんですよ。ぱっちん1発でゴーホームです。ならもうちょっとこの温かい島を楽しみましょうよぅ」


 母はこうみえて寒いのが苦手だ。

 まあ、は虫類ドラゴンだからしょうがないのかもしれにない。


「だとしても1度帰ろう。みんな心配してるから」

「ちぇー……。わかりました」


 しぶしぶ、カルマがパチンッ、と指を鳴らした。


 ……シーン。


「あ、あれ?」


 珍しいことに、カルマが焦る。


「どうしたの?」

「いえ……あれ? えいえいっ!」

 

 ぱちんっ、ぱちっ。


 ……カルマが指を鳴らす。

 しかしいつものように、転移が発動しなかった。


「か、母さん。そんなに帰りたくないの?」

「ち、違います!」


 カルマが青い顔をして、ぶんぶん! と首を振る。


転移テレポート……できないんです」

「「「…………」」」


 リュージも、そしてパーティメンバーたちも、息をのんだ。

 そんな……。


「まっ♪ 大丈夫でしょう♪」


 けろっとカルマが言う。


「「「かるっ!」」」

「いやほら、いざとなったらお母さんが邪竜かして、りゅーくんたちを抱えて島から脱出すれば良いですし」


 そういえばそうか……とリュージがうなずく。


「で、でもでもっ。カルマさん、島の外はすごい嵐だったのです」

「ふむ……そういえば」


「……それに嵐の中には金のドラゴンがいたって言うし」

「ふむ……なるほどなるほど」


 カルマは腕を組んで、沈思黙考する。

 考え込むカルマは、黙っていれば美人だった。


 ややって、カルマが言う。


「うんっ、大丈夫! お母さんに……お任せあれ!」


 最強邪竜がいうと、ここまで安心できるのか。


「嵐とそのドラゴンを相手にするには、まずは情報が足りません。島で暮らしつつ脱出の手立てを考えましょう。生活は……お母さんがいるから大丈夫です!」


 まあ何でも作れる最強のお母さんがいるのだ。

 無人島で、楽々と暮らせるだろう。


「お母さんが脱出手段を整えますので、りゅーくんたちは島でバケーションを楽しんでくださいまし」


「う、うん……」


 どうにか今後の方針を立てたリュージたち。


 ……しかし1つ問題があった。


「あのさ……母さん。僕らの船に乗ってた……他の冒険者たちって、どうなったの?」


 おそらく母は、船が難破する際、リュージたちを助けた。

 だが……他の人たちは?


 ここへは他の冒険者たちも乗っていた。

 同じく船は沈んだ。

 彼らは……どうなったか?


 ……嫌な予感がした。


「え?」


 カルマはきょとんと首をかしげて、こうう。


「さぁ」


 ……大方の予想通りだった。

 母は、息子リュージと、その周りの小さな世界の住人しか興味がない。


 船に居合わせただけの、他人を……このお母さんが、助けるはずがない。


 わかっていた。母は人間じゃない。ドラゴンなのだ。人間の価値観、生死観は持ち合わせていない。


 それでも……。


「……母さん。他の人たち、助けなかったの?」


 母が口を開いた……そのときだった。


「……ぅい」


 ぴくっ、と耳の良い獣人二人が、獣耳を立てる。


「りゅ、りゅーじくん! 今、人の声がっ!」

「……あっちの砂浜の方!」


 ふたりが指を指す。

 そこにいたのは……。


「ぼ、冒険者の、ひとたちだっ!」


 なんと驚くことに、船に居合わせた冒険者たちの集団が、こちらに向かってくるではないか。


 先頭を歩くのは、背の高い、黒髪の女性だ。


 20代くらい。髪質はバサバサしている。

 若干の垂れ目。そして大きな胸に、シャツにズボンというワイルドな格好。


 リュージは、その人に、見覚えがあった。


「隊長! 【ゴーシュ】隊長ッ!」

 

 そこにいたのは、今回の無人島調査団の団長、ゴーシュだった。


「おーリュージ! 無事だったか! シーラにルトラも……良かったなぁ!」


 ゴーシュはリュージたちのもとへくると、心からの安堵の吐息をつく。


 リュージもまた、心から安堵した。

 良かった……と。


「他の方たちは無事ですかっ?」


 リュージはゴーシュ隊長を見上げて言う。向こうの方が背が高いのだ。


「ああ、無事だ。安心しろリュージ。みんな【ドラゴン様】のおかげで無事だ」


「ドラゴン……さま?」


 はて、とリュージが首をかしげる。

 その一方で、ゴーシュ隊長が、母の元へ行く。


「……なんですか、人間?」


 カルマが冷ややかな目を、ゴーシュ隊長に向ける。基本的にカルマは、息子たち意外には塩対応なのだ。


 ゴーシュが何をするかと思いきや……がばっ! と直角に頭を下げたではないか。


「このたびは私どもの命を救っていただき、ありがとうございました、ドラゴン様!」


「「「ありがとうございました!!」」」


 ……ゴーシュを含めた、その場にいた冒険者全員が、カルマに向かって、頭を下げているではないか


 これにはリュージも、そしてカルマも、仰天していた。


「な、なんのことです……? わ、私は息子たちの命しか救ってませんよ?」


 困惑するカルマをよそに、ゴーシュ隊長が「リュージ。君のお母さんはなんて名前なんだ?」と尋ねてくる。


「か、カルマアビス……です」


 戸惑いながら、リュージが答える。

 ゴーシュ隊長はうなずくと、カルマに向かって頭を下げた。


「ありがとうございます、カルマアビス様」

「「「ありがとー!」」」


 カルマは頭に? をうかべて、首をひねっていた。


「どういうことですか? 私は何もしてませんけど」

「ご謙遜を。私どもを含めたメンバーは、見ているんですよ」


 ゴーシュ隊長が、丁寧な言葉遣いで、カルマに言う。


「見てる? なにをですか人間?」

「私たちを救う、カルマアビス様のお姿をです」


 ……はぁ? とカルマがさらに困惑を深める。

 ゴーシュ隊長が続ける。


「私たち冒険者の船は、嵐に飲まれて沈みました。海に投げ出され、もうダメかと思ったところに、あなた様がドラゴンの姿になられて、私どもをおすくいになったのです」


 え? とリュージは本気で驚いた。

 そして……うれしくなった。

 母は、助けてくれたんだ! リュージ以外の人たちを!


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。私が? 人間を? 悪い冗談はやめなさい」


「いえ冗談ではありません。私どもは見ているのです。あなた様が救出する姿も、そして浜辺へ運び、人間の姿になって、またどこかへ行かれたところを。なあおまえら!」


「「「みましたー!」」」


 ……その場にいた冒険者たち全員が、手を上げるではないか。


「怖い顔のドラゴンだったよな」

「ああ。けど人間になったらすげー美人なの。おっぱい大きいし!」


「ちょ、ちょっと待ちなさい! あなた方が見たのは、本当に私と、そして私の変身した姿だったのですか?」


 そう言って、カルマは邪竜へと変身する。

 それを見た冒険者たちは……。


「これこれ!」「この怖そうなドラゴン!」「この姿……一度見たら忘れないって!」


 ……と、どうやら本当に、母が邪竜の姿になって、冒険者たちを助けたらしい!


 カルマが人間の姿に戻る。


「人間の姿も、こんな顔でしたか?」


 カルマの問いに、皆がうなずく。


「あーでも、髪の色が……」


 冒険者のひとりがつぶやく。

 ゴーシュ隊長は声の主に言う。


「髪の色がどうした?」

「あ、はい。隊長。おれの見間違いかも知れませんが……」


 冒険者が、こう言った。


「髪の色が違ったような……たしか、金髪だったような……気がします」


「!?!?」


 カルマがくわっ……! と大きく目を見開く。


「…………そう、ですか。ここに、やつが」


 ぽつり……カルマが呟く。

 リュージにはわからなかったが、とにかく。


「母さん!」


 リュージは嬉しくなって、カルマの細い腰にしがみつく。


「はひゃぅ!?」

「ありがとう! みんなも助けてくれて……本当にありがとう!」


 リュージは心からのお礼を言った。


「母さん……本当に、ぼく……嬉しいよ……」

「りゅーくん……」


 カルマは、複雑そうな顔をしていた。

 いつもなら、息子に褒められて喜色満面となるのだが。


 このときばかりは……憂い顔をしていた。

「……いえ。当然のことをしたまでです」


 カルマはニコッと笑うと。


「あなたたちも濡れた服をたき火で乾かしなさいな」


 そう言って、カルマが人数分のタオルとたき火を用意する。


「おお! おまえら、カルマアビス様がお恵みをくださったぞ! お礼を言おう!」


「「「ありがとう、カルマ様ー!」」」


 ……かくして。

 無人島での生活が、スタートしたのだった。

書籍版、コミックスは7月25日に同時発売!


いよいよ来週発売です!

たくさん頑張って描いた作品です。お手にとっていただけますと幸いです!


コミックスも書籍も現在Amazonなど通販サイトで絶賛予約受付中です!どちらもお買いもとめくださると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ