112.邪竜、酒を飲んでエルフに甘える
リュージとルトラの後をついていった、その日の夜。
カルマたちの家の、リビングにて。
カルマとチェキータは、ソファに並んでいた。
最近晩酌をするようになったふたりは、この日もお酒を飲んでいた。
今夜は白ワイン。グラスを付き合わせて、くぴくぴとお酒を飲みはじめてから、しばらく立った頃……。
「ぶぇええええええええええええええええええええん! りゅーくーーーーーーーーーーーーん! お母さんが一番だよねぇーーーーーーーーーーーー!?」
わーーん! とカルマが机に頬をつけて、子供のように泣いていた。
「なぁああああああああんで他の女の子と仲良くするのぉーーーーーーー!? お母さんがいればそれでいいじゃないですかぁあああああああああああ! ぶぇえええええええええええええええん!!!」
……何を隠そうこの最強邪竜。
ものすごく……酒が弱かった。
お酒の味は好きなのだが、すぐに酔っ払ってしまうのである。普段から自制心のない彼女が、酒を飲むともっと理性のたがが外れるのだ。
「まあまあカルマ。いいじゃないの。りゅーに友達がイッパイできればあなたも嬉しいでしょう?」
一方でチェキータは涼しい顔している。
カルマよりも飲んでいるはずなのに、まったく酔う気配がしない。
「そりゃね、うれしいよ! 自慢の息子にたくさんの友達ができてめっちゃうれしいよ!? けどさぁ~~~~~! 女の子ばっかりなのってどうなの~~~~!? ねえねえどうなのどうなのー!?」
「そうねぇ。リューは顔が可愛いからね。女の子ってそういうの好きだから」
「やーだーーやーーーーだーーーー! りゅーくんはお母さんだけのものなのーーーーーー! お母さんだけ好きでいればいいの~~~~~~~~~~~~~!」
わーん! とカルマが泣いてわめく。
「少し大人になったかなと思ったけど、まだまだ時間かかりそうね」
「ひ~~~ん。チェキータぁ……」
カルマは隣に座るチェキータの、膝の上に頭をのせる。
「りゅーくん怒ってなかったかなぁ。嫌いになっちゃったなぁ」
「前後の脈絡なさ過ぎ……まあ酔ってるからしょうがないか」
「ちぇーきーたー。きいてるの~? ねぇ~え~、りゅーくん怒ってないかなぁ~」
……理性のたがが外れているため、カルマは普段のツンツンとした態度をやめていた。
これをされても、チェキータは別に驚きはしない。カルマの普段のきつい態度が、本心でないことは承知済みだからだ。
「ちぇきーたー? きいたてるの~?」
「はいはい聞いてる聞いてる」
カルマは据わった目で、チェキータをにらむ。
「りゅーくんおこってなーい?」
「怒ってない怒ってない」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
するとにへっ……! とカルマが笑うと、
「わ~~~~~~い♡」
まるで赤ん坊のように、無垢な笑みを浮かべて、カルマはチェキータの膝の上でぐりぐりと頭を動かす。
「りゅーくん怒ってなーい♡ やったぁ~♡」
「そうね良かったわねー♡」
「うんっ! ありがとちぇきーたー!」
にへーっとカルマが上機嫌に笑う。
「あのねちぇきーたー……おこってなーい?」
「ん? リューは怒ってないわよ」
「ちがうよぉー……。ちぇきーたが怒ってないか聞いてんの~? アホなのあなた~?」
ぷんぷんと頬を膨らませるカルマ。
「お姉さんが? 何を怒るというの?」
「だぁってさぁー……。わたしいっつもあなたにツンケンした態度とるじゃ~~~~ん? ちぇきーた、おこってないかなぁって……心配なの」
「あらまぁ……」
チェキータは嬉しそうに笑う。
「ごめんねちぇきーたぁ。きらいにならないで? あのね、あれはね、ちがうの。わたし、ほんとはちがうんだよ」
「うんうんわかってるわよぉ。つい減らず口になっちゃうのよね? リューの前ではお母さんでいたいものね。お姉さんがいると、お母さんブレないから嫌なんだもんね」
「そ~~~~! よーくわかってらっしゃるなぁ……!」
カルマがえへへと笑う。
「りゅーくんの前ではわたしお母さんにならないとダメなんだもん……。ちぇきーたがいるとあまえたくなるんだもん。だから嫌なの。でもきらいじゃないよ?」
「うん、大ぁ丈夫。わかってるわ♡ ちゃんと」
「えへ~♡ ちぇきーたー♡」
カルマが起き上がって、チェキータのほっぺにキスをする。
「すきー♡」
「はいはい」
「わたしね、ほんとはちぇきーたのことすごいかんしゃしてるし、すっごいすきなんだよ? ほんとだよ~?」
「ありがとう、嬉しいわ。大丈夫、わかってるからね」
「え~~~~? うたがわしいなぁ……ほんとはすきじゃないのかもーって、思ってなぁい?」
「思ってないから大丈夫よ~」
「ん~~~? じゃあキスしてよ! キッス! ん~~~~♡」
「もうっ……可愛い子ね、カルマ」
チェキータはカルマのほっぺにチュッ……っとついばむようなキスをする。
「これでわかってくれた?」
「ん~? ダメっ! もっかい!」
「はいはい」
チェキータは何度もせがまれて、カルマのほっぺにキスをした。
「えへ~♡ おかえしのちゅー」
逆にキスを返すカルマ。
チェキータは苦笑しながら、カルマの長く美しい髪の毛を、手ぐしでとかす。
「あなたまた髪の毛ごわごわしてきてるわよ。ちゃんとケアしてる?」
「してにゃーい」
「もう……。せっかくキレイな黒髪なんだから」
「ん~。だって自分でケアしちゃったらさぁ、チェキータにヘアケアしてもらえなくなるでしょ~?」
カルマのセリフに、チェキータは目を丸くする。
「あなたにやり方教わったけどさ~。結局それじぶんでやっちゃうとさ、もうちぇきーたにやってもらえなくなるじゃん。だからほっとくの。あ、ちぇきーたには黙っててね。はずかしーから……らら? なんか変?」
「あははっ! 変じゃないわ……うんうん、カルマ。あなたはほんと、いつになっても可愛い子ね」
チェキータは笑って、ちゅっとキスをする。
「ほら、お風呂行きましょう。きれいにしてあげるわ」
「わ~~~い♡ だいすきー♡」
……そんなふうな一幕があることを、もちろん息子は知らないのだった。
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