111.邪竜、息子と嫁2号のラブコメを支援する【その6】
息子とルトラが仲良くしている、一方その頃。
夜。
カルマはリビングにて、チェキータと一緒にいた。
テーブルを挟んで、ふたりは向かい合っている。
「うんうん、良い雰囲気……ふふっ♡ ふたりめの嫁が我が家にくるのも、秒読みかも知れませんね~♡」
カルマは今、メガネをかけている。
これはたとえどんなに離れていても、我が子の様子をバッチリと捉えることのできる魔法のメガネだ(録画機能付き)。
「あなたそれ盗撮よ? いけない子ね~」
「なーにいってるのやら。盗撮というのは他人を無断で取るから盗撮なのではないですか。撮る相手は愛する我が子。罪に問われるわけでしょう。常識で考えてくださいよ」
「あーおっかし~。あなたに常識を問われるとはねぇ~♡」
カルマが息子の様子を監視していても、チェキータはそこまで強く注意してこない。基本的にこの女は、とりあえずはカルマのやりたいようにやらせる。
その上でやり過ぎた場合は助言をする……というある種、中立な立場にいるのだ。
「しかしリューも恋人だけじゃなく異性の友達ができるようになるとはね。月日が経つの早いわね。そう思わない?」
「まあそうですね。光陰ビームのごとしですよ」
「あなたのそのちょいちょい変な単語、どこから仕入れてるのかしらね」
「さぁ……興味ないです」
リュージ以外のすべてはどうでも良いことなのである。ときおりカルマは、不思議な言葉や概念がふっ……と沸いてくることがある。だがその根源てきなものについて、深く考えたことはなかった。
リュージ以外のことについて考えるのは、時間の無駄なのである。
「あなたいっつもリューばっかりだけど、自分の趣味みたいなものはないの?」
「ないですね。りゅーくんが生きがいであり、我が生涯がりゅーくんなので」
「そんなことないでしょう? リュー以外にも楽しいことはあるわ」
「そんなもの……」
ない、とカルマは即に断言しようとした。だが少し考えを巡らせると……確かに、あった。
「ふふっ♡ カルマ……ほら、いってごらんなさい? あるのよね、最近は、リュー以外の楽しいこと」
「まぁ……そうですね」
カルマは深々とイスに腰掛ける。
パチンッ……! と指を鳴らすと、テーブルの上に温かい紅茶が出現する。
……それが、2つ出ていたのは、無意識だったのか。あるいは、カルマの心境の変化があったからなのか。
カルマは紅茶をすすって……言う。
「最近は……りゅーくんがそばにいない時間も、楽しめるようになりました」
「うんうん、そうねぇ。具体的には?」
「…………」
カルマは紅茶のカップを置いて、微笑む。
「朝、孫たちを起こしに行くこと。ふたりは結構ねぼすけさんで、起こすのが大変です。それにシーラは……孫たちよりも寝起きが悪いです。彼女を起こしてお風呂場へ連れて行くのが最近の朝の日課です」
カルマの語りを、チェキータが静かに聞いている。この女普段やかましいくせに、ときおり真面目になるときがあるから調子が狂う。
「りゅーくんの監視をしながら、時々危ないことがあったらテレポートで即刻向かいます。けど空いてる時間は孫とおうちで遊ぶことが増えてきました。最近はりゅーくんごっこしてました」
「なにそれ?」
「誰が一番りゅーくんのものまねが上手いか選手権です」
ちなみにぶっちぎりでカルマがトップである。息子のことはすべてわかっているのだ!
「ルコたちがお昼寝したら、姿を消してこっそりりゅーくんのそばへゆき冒険の応援です。ですが前よりはハラハラしなくなりましたね。信頼できる仲間が増えたからでしょうか。ミスをカバーし合える、仲間がいるって素晴らしいことですね。心労が軽減しました」
「そっかそっか」
チェキータをちらっと見る。相変わらずな何を考えてるか判然としない、微笑みを浮かべていた。
だがその目の奥に、きらりと光る物があったような、気がした。
「夜はご飯を食べて孫たちとお風呂に入り、りゅーくんにお休みのキッスをしたら、孫たちを寝かしつけるためにご本を読みます。孫たちが寝たら……」
カルマは口を閉ざす。
「……まあ寝ます」
「あらカルマ、抜けてるわよ。時々寝る前に、お姉さんと晩酌してるじゃない」
うぐぐ……と言葉に詰まるカルマ。
寒くなってきた頃から、ときどきチェキータと寝る前にお酒を飲みながら、語り合うことが増えてきたのだ。
「あれって何がきっかけだったんでしたっけ?」
「魂交換騒動のあと、あなたがお礼にってお酒プレゼントしてくれたじゃない? あれからよ」
「ああ……じゃあ結構最近ですね」
あれ以来、カルマがお酒を買った、そのお礼にチェキータが酒を買ってきて、カルマがそのお礼に……とプレゼントの送りあいみたいになってるのだ。
別にお返しをくれと強要されたことは一度もないのだ。あげるのをやめればそれで終わる。だが……なんとなくこのラリーを途絶えさせたくなかった。
「今日も買ってきてるわよ。じゃーん」
「おっ! お、おー……白ワインですか。ふ、ふむ……まぁ、飲んでやってもいいですね」
カルマの目がちらちらと、チェキータの持つボトルに行く。
「あなた結構お酒好きよね」
「う、うるさいな……」
「弱いくせに」
「うるさいですね!」
「酔うと情緒不安定になってかわいいのに~♡」
「あーもううっさい! ほらさっさと開けなさい!」
ぱちんっ! とカルマが指を鳴らして、万物創造スキルを発動。ワイングラスが二つ出る。
チェキータが栓抜きを探していたので、それを作ってやる。
「ありがとカルマ♡ まぁまぁすっかり気の使える立派なお母さんになっちゃって♡ お姉さん嬉しいわ~♡」
「あ、あっそ……ま、まぁ! あなたに言われても、ぜんぜんうれしくないですけど!」
とは言え……まあほんのちょびっと嬉しかったのは秘密である。
チェキータはワインをグラスにつぐ。
カルマはグラスを一つ取る。
「それじゃカルマ……。乾杯しましょう。今日はリューが友達と仲良くなったことに」
「そうですね」
チンッ。
「「かんぱい」」
書籍版、コミックスは7月25日に同時発売です!
また、新連載、始めました。
自由を奪った状態で倒すなんて、この卑怯者!」と追放された最強の暗殺者、人里離れた森で魔物狩りしてたら、なぜか村人たちの守り神になってた
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最強の影使いの暗殺者が無双するお話です。頑張って書いたので、読んでくださると嬉しいです!
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