表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

191/383

111.邪竜、息子と嫁2号のラブコメを支援する【その4】



 母がついてきているとはつゆ知らず、リュージはルトラとともに、街に買い物に来ている。


 その途中、休憩のため、喫茶店に入ったリュージたち。


 席に案内された後、ふたりはアイスティとアップルパイを注文した。


 ややあって、頼んだものが運ばれてくる。

「わぁ……! わぁ……! す、すごい……ちょーうまそう!」


 ルトラが目をキラキラさせて、サラの上のアップルパイを見やる。

 こんがり焼けたパイ。リンゴがごろっと入っており、そしてパイの上にはアイスクリームとシナモンが振ってあった。


「アイスがパイの熱でとろっと溶けて……アイスと一緒に食べるとすごいおいしんだ」

「! なにそれ……すっごいおいしそうな食べ方!」


 ルトラがたらりとよだれを垂らす。

 またしっぽブンブンしそうになっていたので、リュージが指摘する。


「ご、ごめん……」

「ううん。じゃあ……食べよっか」

「うんっ!」


 ルトラがフォークで、アップルパイの表面を割る。パリッ……と音とともに、キジが破ける。


 大きめにざっくりと切って、ルトラはアイスとともに、フォークで刺して、口に運ぶ。

 

 もぐもぐもぐ……。


「どう?」

「~~~~~~~!!!」


 ぴーんっ! としっぽも耳も立つ。


「うっま……! これちょーおいしいよ、リュージ!」

「そ、それは良かった……けどルトラ、抑えて抑えて」


 しかしルトラはもう、ぶんぶかとしっぽ振りっぱなしだった。リュージは辺りをキョロキョロと見渡す。


 喫茶店内の客は……こちらに注目してなかった。そりゃそうか。みんなそれぞれの時間を過ごしているんだ。一個人の動向なんて、注視してないか……。


【……ふふっ、認識阻害魔法ですよ】

【ばっちりのタイミングね。さっすがカルマ】

【【……いえーい!】】


 ……何か小声で聞こえてきたが、詳しい内容まで聞き取れなかった。


 それはさておき。


 ルトラはアップルパイを、あっという間に平らげてしまった。


「…………」


 ルトラが熱っぽく、リュージの皿のアップルパイを見やる。


「ルトラ。どうぞ」

「へっ? な、なに……?」


「これ欲しいんでしょう? あげるよ。食べて」

「……そ、そんな、ダメだよ。だってこれリュージのじゃん……」


 目を伏せるルトラ。

 だが……その実、しっぽはブンブンブン……! とすごい勢いで振られていた。


「アッ……! ち、ちが……これは……ちがくて……その……」


 顔を真っ赤にしてうつむくルトラ。

 その間もしっぽはビンビンだった。


「どうぞ。食べてよし」

「……アタシ、犬じゃないんだけど」


 むすっ、と口をとがらすルトラ。


「そうかな? 気持ちがしっぽと直結してるところ、すごく犬っぽいよ」

「も、もうっ、リュージの……いじわる」


 リュージが笑うと、ルトラはすねたようにそう呟く。

 怒ったかなと思ったけど、パタパタとしっぽが揺れていた。


「じゃ……お言葉に甘えて、いただきます」


 ルトラが頬を緩めて、アップルパイを見た……そのときだ。


『ぼくが食べさせてあげよっか?』

「え、ええ!? りゅー、リュージ何言ってるのさ!」


 ルトラが突然、素っ頓狂な声を出したではないか。


「ど、どうしたの?」

「どうしたのはこっちだよ! 食べさせてあげようかって、そ、そんな……だめだよ、あたしたち……付き合ってもないのに……」


 すると今度は、ルトラからこんな声が聞こえた。


『お願いリュージ、アタシにアップルパイ食べさせてほしいいわんわん♡』

「た、食べさせて欲しいわんわんって……る、ルトラどうしたのっ?」


「は、はぁ!? そんなこと言ってないし!」


 ルトラがクビまで真っ赤にして叫ぶ。


「いやでも確かに……」

「アタシもさっき変な声を……」


 と、そこでリュージが、ハッ……! と気付いた。


「……母さん! いるんでしょ、母さん!」


 リュージが立ち上がって叫ぶ。

 だというのに、喫茶店内の人たちは、まるでこちらに注目していなかった。


「やっぱり……母さん! どこにいるの!」


 しーん………………。


「……出てこないと、嫌いになっちゃうよー」


 リュージはぽそっと呟く。もちろん嫌いになんてならない


「うわぁあああああああああああん! ごめんねぇええええええええええええい!」


 バッ……! とカルマが、煙のように、突然出現したではないか。


 そしてリュージの体に、ダキィ……! と強く抱きつく。


「ごめんねりゅーくん出来心だったの! ごめんねごめんね嫌いにならないでーーーーーー」

「母さん……うん、別に嫌いにはならないよ」


「ほんとっ?」


 ぱぁ……! とカルマの表情が明るくなる。


「もちろん。……でも、母さん、風邪で寝込んでたんじゃなかったの?」

「嘘です」

「嘘って……なんでそんなことしたの……?」


「それはねリュー。お姉さんも悪いの。許して」


 すぅ……っとチェキータが、カルマのとなりにいきなり出現する。


「え、えっ、な、なんでチェキータさんが!?」

「それはねリュー。お姉さんもぐるだったの」

 

 リュージは目を丸くした。

 いつもしっかりしているチェキータさんが、こんなことするなんて……。


 意外というか、普通に疑問だった。


「お姉さん、どうでにもラブコメの波動に敏感で。つい……ね」

「お節介焼きばばあなんです、こいつ。だから許してあげてください。りゅーくん」


 ……ラブコメだのお節介だの、リュージはよくわからなかった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ