111.邪竜、息子と嫁2号のラブコメを支援する【その4】
母がついてきているとはつゆ知らず、リュージはルトラとともに、街に買い物に来ている。
その途中、休憩のため、喫茶店に入ったリュージたち。
席に案内された後、ふたりはアイスティとアップルパイを注文した。
ややあって、頼んだものが運ばれてくる。
「わぁ……! わぁ……! す、すごい……ちょーうまそう!」
ルトラが目をキラキラさせて、サラの上のアップルパイを見やる。
こんがり焼けたパイ。リンゴがごろっと入っており、そしてパイの上にはアイスクリームとシナモンが振ってあった。
「アイスがパイの熱でとろっと溶けて……アイスと一緒に食べるとすごいおいしんだ」
「! なにそれ……すっごいおいしそうな食べ方!」
ルトラがたらりとよだれを垂らす。
またしっぽブンブンしそうになっていたので、リュージが指摘する。
「ご、ごめん……」
「ううん。じゃあ……食べよっか」
「うんっ!」
ルトラがフォークで、アップルパイの表面を割る。パリッ……と音とともに、キジが破ける。
大きめにざっくりと切って、ルトラはアイスとともに、フォークで刺して、口に運ぶ。
もぐもぐもぐ……。
「どう?」
「~~~~~~~!!!」
ぴーんっ! としっぽも耳も立つ。
「うっま……! これちょーおいしいよ、リュージ!」
「そ、それは良かった……けどルトラ、抑えて抑えて」
しかしルトラはもう、ぶんぶかとしっぽ振りっぱなしだった。リュージは辺りをキョロキョロと見渡す。
喫茶店内の客は……こちらに注目してなかった。そりゃそうか。みんなそれぞれの時間を過ごしているんだ。一個人の動向なんて、注視してないか……。
【……ふふっ、認識阻害魔法ですよ】
【ばっちりのタイミングね。さっすがカルマ】
【【……いえーい!】】
……何か小声で聞こえてきたが、詳しい内容まで聞き取れなかった。
それはさておき。
ルトラはアップルパイを、あっという間に平らげてしまった。
「…………」
ルトラが熱っぽく、リュージの皿のアップルパイを見やる。
「ルトラ。どうぞ」
「へっ? な、なに……?」
「これ欲しいんでしょう? あげるよ。食べて」
「……そ、そんな、ダメだよ。だってこれリュージのじゃん……」
目を伏せるルトラ。
だが……その実、しっぽはブンブンブン……! とすごい勢いで振られていた。
「アッ……! ち、ちが……これは……ちがくて……その……」
顔を真っ赤にしてうつむくルトラ。
その間もしっぽはビンビンだった。
「どうぞ。食べてよし」
「……アタシ、犬じゃないんだけど」
むすっ、と口をとがらすルトラ。
「そうかな? 気持ちがしっぽと直結してるところ、すごく犬っぽいよ」
「も、もうっ、リュージの……いじわる」
リュージが笑うと、ルトラはすねたようにそう呟く。
怒ったかなと思ったけど、パタパタとしっぽが揺れていた。
「じゃ……お言葉に甘えて、いただきます」
ルトラが頬を緩めて、アップルパイを見た……そのときだ。
『ぼくが食べさせてあげよっか?』
「え、ええ!? りゅー、リュージ何言ってるのさ!」
ルトラが突然、素っ頓狂な声を出したではないか。
「ど、どうしたの?」
「どうしたのはこっちだよ! 食べさせてあげようかって、そ、そんな……だめだよ、あたしたち……付き合ってもないのに……」
すると今度は、ルトラからこんな声が聞こえた。
『お願いリュージ、アタシにアップルパイ食べさせてほしいいわんわん♡』
「た、食べさせて欲しいわんわんって……る、ルトラどうしたのっ?」
「は、はぁ!? そんなこと言ってないし!」
ルトラがクビまで真っ赤にして叫ぶ。
「いやでも確かに……」
「アタシもさっき変な声を……」
と、そこでリュージが、ハッ……! と気付いた。
「……母さん! いるんでしょ、母さん!」
リュージが立ち上がって叫ぶ。
だというのに、喫茶店内の人たちは、まるでこちらに注目していなかった。
「やっぱり……母さん! どこにいるの!」
しーん………………。
「……出てこないと、嫌いになっちゃうよー」
リュージはぽそっと呟く。もちろん嫌いになんてならない
「うわぁあああああああああああん! ごめんねぇええええええええええええい!」
バッ……! とカルマが、煙のように、突然出現したではないか。
そしてリュージの体に、ダキィ……! と強く抱きつく。
「ごめんねりゅーくん出来心だったの! ごめんねごめんね嫌いにならないでーーーーーー」
「母さん……うん、別に嫌いにはならないよ」
「ほんとっ?」
ぱぁ……! とカルマの表情が明るくなる。
「もちろん。……でも、母さん、風邪で寝込んでたんじゃなかったの?」
「嘘です」
「嘘って……なんでそんなことしたの……?」
「それはねリュー。お姉さんも悪いの。許して」
すぅ……っとチェキータが、カルマのとなりにいきなり出現する。
「え、えっ、な、なんでチェキータさんが!?」
「それはねリュー。お姉さんもぐるだったの」
リュージは目を丸くした。
いつもしっかりしているチェキータさんが、こんなことするなんて……。
意外というか、普通に疑問だった。
「お姉さん、どうでにもラブコメの波動に敏感で。つい……ね」
「お節介焼きばばあなんです、こいつ。だから許してあげてください。りゅーくん」
……ラブコメだのお節介だの、リュージはよくわからなかった。