111.邪竜、息子と嫁2号のラブコメを支援する【その2】
翌日。その日は休みの日だった。
昼下がり。リュージはカミィーナの街の、噴水公園の前にいた。
「…………」
そわそわと落ち着きのないリュージ。
その手には買い物かごと、その中にはメモが入っている。
「…………」
リュージはこれから、ルトラとともに買い物に出かけることになっていた。
ルトラは「……準備あるから」とのこと。ここで待ち合わせをしている次第だ。
「なんだろう……あの日から、ルトラと手が触れただけで胸がドキドキする……」
それまでは普通に仲の良い友達同士だったのだが。
あの日ルトラに好きと言われてから、妙に意識するようになったのだ。
【それは恋ですよ、りゅーくん……!】
「そうかなぁ……って、え? 母さん?」
きょろきょろ、と辺りを見回す。
だが母の姿は見当たらなかった。
「……気のせいか。母さんの声が、聞こえたような気がしたんだけど」
空耳だったようだ。年がら年中りゅーくんりゅーくんとべったりだったので、耳に母の声が残っているのだろう。
さておき。
リュージがしばし公園で待っていると、待ち人がやってきた。
「……お、お待たせ」
「………………あ、えと」
やってきたのは、人狼の少女ルトラだ。
藍色のパサパサとした髪。
金色の瞳は夜空に浮かぶ月のよう。
顔の作りは恐ろしく整っており、その大きな胸は目を引く。
普段から美少女のルトラだが、今日はその美に磨きがかかっていた。
「スカート……はくんだね」
手段のルトラは、ショートパンツが多い。
だが今彼女は、ミニスカートをはいていた。
むっちりとした太ももが、惜しみなくさらされている。
「……ほ、ほんとは嫌いなんだ。しっぽのせいで中が見えちゃいそうになるから」
現在ルトラは、しっぽを下に垂らしている状態でスカートをはいている。たしかにこの状態だとしっぽを立てるとスカートがめくられてしまいそうだ。
「そ、そうなんだ……けどその……あの……えっと……」
【リュー。ダメよ。女の子が新しい服を着てきたら、どうするんだっけ?】
「あ、そうだ……すっごく似合ってるよ、ルトラ!」
リュージは笑顔で答えた。
……今一瞬、チェキータの声がしたような気がしたが……まあ空耳だろう。
「……あ、その、あ、ありがと」
もじもじとルトラが身をよじる。
スカートだけでなく、ルトラは真っ白なニットのセーターを着ていた。肩がむき出しになるタイプだ。普段見えない部分が見えて、ドキドキするリュージ。
【その気持ちをストレートに出すんです、りゅーくん!】
【女の子は男の子の率直な意見を待っているのよ。ほらリューがんばっ】
……なんだろう。
さっきから明確に、母とチェキータの声がするような気がする。
だがふたりの姿は見えない。……疲れているのだろうか。
「い、いこっか」
「……そ、そだね」
二人はもじもじしながら、その場から離れる。
行き先はマーケットだ。
「……けどリュージ、カルマって風邪引くんだね。知らなかった」
「うん、たまにね。体は頑丈だけど風邪は別らしいんだ」
さてなぜリュージたちが、街を歩いているのかというと、母が風邪を引いたからだ。
『ごめんねりゅーくん、お母さん風邪引いちゃって……お夕飯作れないの』
とのことで、リュージたちは自分たちで料理を作るべく、こうして買い出しに来ている次第だ。
ちなみに今夜は鍋の予定。
「……なべって、煮るときに使うなべだよね? アレ食べるの?」
ルトラが不安そうに尋ねる。
「違う違う。あれにお魚とかの魚介類や、野菜とかお豆腐とかたっぷりいれて、だしで煮て食べるんだ」
「……な、なにそれすっごくおいしそーじゃん!」
ぴーんっ! とルトラのしっぽが立つ。 かぁ……っとリュージが顔を真っ赤にした。
「る、ルトラ……その……気を静めて。その……み、見えそうだよ」
「え………………あっっ!!!」
かぁあああ……とルトラの顔も、リュージと同様に真っ赤になる。
スカートをバッ……! と両手で押さえて、体をよじる。
「……み、みたでしょっ?」
「えぇっ……っと、見てないよ」
気まずくなって、リュージはそっぽ向いて言う。
「……嘘つき」
「いや、ほんとだって、見てないってばっ」
「…………わかった。信じる」
ほっ……とリュージが安堵の吐息をついた、そのときだった。
【お母さんストームー!】
びょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
どこからともなく、突風が吹いた。
ルトラのスカートが、リュージの目のまで、ばっちりとまくれ上がったのである。
……青色だ。
そこにあったのもを、リュージは認識してしまった。い、いかん! と首を激しく振るリュージ。だがその目には、ルトラの下着の色もデザインも、やきついていた。
「~~~~~~~~~! ばかりゅーじ!」
ルトラが顔を真っ赤にして、ぺんぺんとリュージの肩をたたく。
ややあって、ルトラの落ち着くまで待ってから、リュージが謝る。
「ご、ごめん! ほんとにごめんね! 嫌だったよね……ふかいにさせてごめんね」
するとルトラが、そっぽ向きながら、ぽしょっと言う。
「………………そ、そこまでじゃ、なかったけど」
「え……? そ、それって……」
「………………いこっ」
ルトラが顔を真っ赤にすると、リュージの手を引いて、街へと向かって歩き出す。
【ナイスよカルマ。ナイスアシスト!】
【ふふん、見ましたかお母さんの華麗なるサポートてくにっく!】
……背後で聞き慣れた声が聞こえたような気がした。
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