111.邪竜、息子と嫁2号のラブコメを支援する【その1】
魂交換騒動から、半月あまりが経過したある冬の日のこと。
カミィーナの自宅、リビングでは、愛しい家族たちが集っていた。
「はぅうう……こたつあったかいのですぅ~……」
リビング中央には、背の低いテーブルが置かれている。特殊な形をしており、テーブルの天板の下に、布団が引かれいているのだ。
「……なにこれすっごい。ちょー暖かいんだけど」
人狼少女ルトラの耳が、ピクピクと動く。孫二人は体を布団の中に突っ込んで、ぐーすかと気持ちよさそうに寝ている。
「カルマさんっ、おこたつとっても暖かいのです!」
これはカルマが作った、異世界の暖房器具【こたつ】だ。カルマには万物創造という、あらゆるものをゼロから作れるチート能力がある。
それはこの世界に存在しないものでも作れるのだ。
「…………」
「カルマさん?」
「あ、ごめんなさいシーラ」
カルマはこたつに入りながら、ぼんやり考え事をしていたのだ。
「どーしたのです?」
「いえ……ちょっと考え事を」
考え事とはつまり、愛する我が子のことだ。息子と、家族。そして息子の友達。カルマが考えるのはその狭い範囲だけである。
さてカルマが何を考えていたかというと……。
視線の先には、人狼の少女がいる。
女性にしては大柄。
バサバサとした、深い藍色の髪。
月のように輝く瞳。
そして大きな乳房……。
なかなかに美少女だ。
そんな彼女は、さっきからぽーっと息子のことを見つめているではないか。
「ふむふむ……ふぅむ……」
カルマは真剣な表情でルトラと、息子とを見やる。
「ん? どうしたのルトラ?」
「へぇっ? いやぁ……別に……?」
愛しの息子がルトラの視線に気付いたようだ。さすが慧眼を持つりゅーくん。
「何かじっと見つめてなかった?」
「ふぁ、は、へ? そんなこと……ないけどっ?」
ルトラは顔を真っ赤にして、素っ頓狂な声を出す。
心拍数が上がっているのか、顔が赤い。額に汗をかいている。
「ほほう……ほほうほう」
普段鈍いカルマだが、息子関連になると鋭くなるのだ。
「これは……来てるな」
「カルマさん、なにがー?」
「しっ……! お静かに」
カルマは息子たちを再び見やる。
「あ、わかった」「ち、ちがっ……」「ミカン食べたいんでしょう?」
息子が食べていたのは、蜜柑だ。
「えぁ……その……」
「え、違うの?」
「ち、ちがくないっ。たべたいっ。ちょうだいっ」
ルトラがぶんぶんと激しく首を振る。
リュージはみかんを一つ手に取って、ルトラへ手渡す。
そのときだった。
ぴたっ……。
「「ひゃあ……!」」
リュージたちは慌てて、ふれあった手を離す。
「「ご、ごめん……」」
かぁ……っと二人が顔をあらかめて、うつむく。
「これは……2号確定ではないですかっ」
カルマが弾んだ声で言う。
ウキウキしていた。
「りゅーじくん、みかんもっとほしーのです!」
「う、うん。はいどうぞ」
「わーい♡」
一方で現嫁はのんきにみかんをほう張っている。なんてのんきなんだ。
「その……リュージ。アタシにもちょうだい」
「え、あ、うん……。いいよ」
「な、投げてよこして」
「え? えっと……はい」
ぽいっとリュージが蜜柑を投げて、ルトラがそれを受け取る。
「「…………」」
ふたりが黙り込む。
「「あの……」」
かぶる。
「「どうぞ……」」
またかぶる。うんうん、いいね! 相性も良いみたいだ。
「ぬふっ♡ ぬふふふん♡ ふたりめ……さすがりゅーくん♡」
カルマは息子のモテっぷりに嬉しく思っていた……そのときだ。
「ハァイ、カルマ」
「……何の用事ですか?」
チェキータがいつものように、前触れもなく、カルマのとなりに出現したのだ。「寒いわぁ……」と言って、こたつに入る。
「わたしは今忙しいんです」
「何に忙しいのよ?」
「息子の嫁2号の観察ですよ」
「2号って……るとちゃんのこと?」
「なんですかその妙ちきりんなあだ名は……? まあルトラのことですけど」
肩を寄せ合って、ひそひそと話し合うカルマたち。
「……あなたいつもは鈍いくせに、今回ばかりは鋭いわね」
「……うるさい無駄肉。これ以上無駄話はしませんよ」
「……ごめんごめん。それでカルマ。リューとるとちゃん、良い雰囲気だと思わない?」
リュージとルトラは、ちらちらと互いを見ては、顔を赤らめている。
「魂交換事件後くらいからでしょうか。りゅーくんは、妙にルトラを意識するようになったんですよ」
「そういえば好きって告白したんだったわね」
「え、そうなの?」
「もー、情報遅いわよ」
チェキータに先を越されて、ぐぬぬ……とカルマは歯がみする。息子のことは、つねに一番に把握しておきたいカルマであった。
「リューたちは前々から良い雰囲気とは思ってたけれど、リューがるとちゃんを異性って意識してなかったからそれ以上発展しなかったのよね」
「ほぅ……しかしりゅーくんがルトラをメスとして認識したと」
「メスってあなた……まあそのとおりよ。ラブがコメったのね」
はぁ……っとチェキータが感嘆の吐息をつく。
「いいわぁ……青春ねぇ」
「せーしゅんかどうかはわかりませんが、これはお母さんの出番ですね」
うむっ、とカルマが力強くうなずく。
「ふたりをくっつけて……嫁2号をゲッツです!」
「あなたいいの? リューに他の女が出てきも」
「メスが増えると言うことは、愛しい息子がそれだけ魅力的で格好いいってことです。誇らしいですよ」
それに嫁2号ができれば家族も増えてカルマも嬉しいのだ。
「これは是非とも二人をくっつけねば……」
この世界は重婚オッケーな世界である。
リュージにはすでに第一夫人がいるが、第二夫人を構えても、何ら問題ない世界なのだ。
「カルマ……」
「おっと止めても無駄ですよ。息子を思う母は誰にも止められないのです」
しかしチェキータは止めることはしなかった。むしろ目をキラキラとさせる。
「お姉さんも、協力しましょう」
「ほう……珍しい。どういう風の吹き回しですか?」
「いやねお姉さん、こう……ラブコメの波動をキャッチするとね、うずうずするのよ。くっつけたくなるのよね」
「お節介焼きですねあなた……しかし今回ばかりは、利害が一致してます」
カルマとチェキータは、互いに見てうなずき合う。
「力を合わせましょう」
「ええ。最強のコンビ誕生ね♡」
かくしてリュージたちのあずかり知らぬところで、ふたりをくっつけようと計画がスタートしたのだった。ちなみにシーラはその間ずっとのんきにみかんを食っていたのだった。
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