110.邪竜、息子と一緒に街へ買い物にいく【その5】
そして迎えた、チェキータの誕生日当日。
夜。リュージはチェキータを家に招待する。
カノジョが玄関のドアを開けた瞬間……パンパンパン!
「「「チェキータさん、お誕生日おめでとー!」」」
リュージたちは【くらっかー】なる異世界の道具を使って、チェキータを出迎えた。
「あらあら♡ これは……まぁ♡」
チェキータの垂れた目が、少し丸くなる。そして目尻がまた垂れ下がる。
「リュー、お姉さんの誕生日、覚えていてくれたのね♡」
「もちろんです!」
大切な家族の一員である、チェキータの誕生日を忘れるわけがないのだ。リュージも、そして……カルマも。
「カルマも覚えててくれたのね♡ お姉さんとっても嬉し~♡」
「……ふん。わたしは覚えてませんでしたよ。我が子が覚えててくれたのです泣いて感謝しなさい」
カルマはちょっと離れたところで、そっぽ向いている。
チェキータはさらに嬉しそうに、笑みを濃くした。
「ご馳走作ったのです! それにケーキも! プレゼントもあるのですー!」
「あらあらまあまあ♡ しーちゃんも、それにルトラちゃんも……お姉さんを祝ってくれるのね~♡」
「……まあ、世話になったし」
この場にはリュージたち親子だけでなく、シーラやルトラといった仲間。そしてルコ、バブコといった娘たちもいる。
「チェキータさん、こっちにケーキあるのですー!」
シーラが手招きする。
リビングのテーブルの上には、イチゴのショートケーキがのっていた。
「あらぁ~。手作り?」
「はいなのです! るとらちゃん一緒に、作ったのです! ねっ!」
「う、うん……」
シーラがルトラと肩を組んで、笑顔で報告する。
ルトラは気恥ずかしいのか、頬を赤く染めていた。
「ちぇきーたー」
「あらるーちゃん。どうしたの~?」
娘のルコが、チェキータの足にしがみついている。
「るぅ、かざり、がんばった。みて」
「あらあらぁすごいわ。折り紙のリースがいっぱいねぇ」
「ちぇきーた。かるま。せわに。なってる。るぅ。おかえし」
「いいのよぉ♡ るーちゃん。お姉さんカルマのことは好きで面倒見ているんだからね」
よしよし、とチェキータがルコの頭を撫でる。ぬふーんと、ルコは満足そうだった。
「……けっ。別にわたし、あなたに面倒見てくれなんて頼んでませんよぅ」
依然としてカルマは、チェキータから距離を取ってそっぽむいている。
「カルマ、あなたはお姉さんに何かくれないの~?」
「ないですよ。あなたにあげるものなんて、これ~~~~~~~っぽっちもね」
ふんだ、とカルマがチェキータから顔をそらす。
リュージは苦笑した後、チェキータの前に行く。
「チェキータさん。これ……僕【たち】からのプレゼントです」
そう言ってリュージは、包装された小箱をチェキータに手渡す。
「ありがとう♡ あけてみてもいい?」
リュージがうなずくと、チェキータは包装を解く。小箱を開けるとそこには……。
「あらぁ……素敵♡ 髪留めね」
緑色の、葉っぱをもした髪留めが、そこにあった。
チェキータが嬉しそうに目を細める。
「しかもお姉さんの趣味にドンピシャの……本当に素敵な髪留め。リューが選んでくれたの?」
するとリュージは、首を振る。
「母さんが一緒に選んでくれたんです」
「ちょっ、りゅーくん!?」
カルマが慌てて、リュージに詰め寄ってくる。
「それは秘密のはずでしょう!」
「いいでしょう? だって本当のことじゃないか」
「しかしですね……」
カルマが嫌そうに、チェキータを見やる。
チェキータは「……あはっ」と、小さく微笑んだ。
「なぁに、カルマ。表ではツンツンしてるけれど、本当はお姉さんのこと、大好きなの~?」
チェキータは煙のように消える。
次の瞬間には、カルマの背後に立っていた。
チェキータが母を、背後からキュッと抱きしめる。
「そんなことひとっっっこともいってないでしょうが!」
「いってるわよ~♡ カルマのお姉さんへの愛、ビンビンに伝わってくるわ♡」
「うぎゃー! やめろ気色悪い……耳をはぷはぷするのはやめろー!」
チェキータが楽しそうに、カルマをからかう。
母はそのたびオーバーリアクションでチェキータを払いのけようとする。
「カルマさんとチェキータさん、とっても仲良しさんなのです~♡」
「そうだねぇ。うん、本当に、仲良しさんだよね」
リュージとシーラは、ふたりの姿を見て、同じ意見を抱いているようだ。
あんなに楽しそうな母と、そしてチェキータを見れば、誰だってわかることだろう。
ややあって、チェキータがカルマから離れる。
「チェキータさん、お料理あるんで、食べましょう」
「ええ、そうねリュー。せっかくのカルマの手作りお料理が、冷めたら大変だものね」
「けっ……! わたしが作りたくって作ったんじゃない……だからひっつくなくっつくな耳をはぷはぷするなー!」
そんなふうに、チェキータの誕生日会は、賑やかに執り行われたのだった。
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