110.邪竜、息子と一緒に街へ買い物にいく【その3】
チェキータに贈るプレゼントとして、服を選びに来たリュージたち。
カミィーナの繁華街にあるブティック。ここは巨大商業ギルド【銀鳳商会】系列の服屋だ。
この世界最大のギルドの店であるからか、品揃え豊富で、品質も良い。
その上で驚くべきことは、どの服も非常に安価なことだ。
ほぼ原価なのではと思うほどの値段で、どの服も売られているのであった。
銀鳳商会の大量生産の方法と高品質な商品のでどころは、この世界に数ある不思議の一つである。
それはさておき。
「ほぅ……なかなか垢抜けた服が多いですね」
立ち並ぶ洋服を見渡しながら、母カルマが感心していた。
「しかし最高可愛大天使が着るにふさわしい服が、果たしてあるでしょうか……お母さんアイをぎらんぎらんに光らせてチェックせねば」
「お母さんアイってなに?」
「たとえ世界の裏側にりゅーくんがいたとしても、ばっちりくっきり監視できる母の目です」
なにそれ怖い。
母の行き過ぎた行動には、笑って流せるときもあれど、時折こうしてしゃれにならないこともあるので要注意だった。
「お店の中てきとうにぐるっと見ようか」
「わかりました。りゅーくんがそうしたいというのなら、たとえ世界を破壊したいといっても従っちゃいますよ」
なにそれほんと怖い。
リュージは母とともに店内を練り歩く。
品揃えは豊富だ。大人から子供まで、男性用、女性用と幅広い。
「チェキータさんは女性服だから……あっちか」
婦人服コーナーへとやってきたリュージ。
そこに並ぶ服の、なんと多いことか。
「す、スカートにこんなにたくさん種類あるんだ……チェニック? どういう服だろう……うわぁよくわからないや」
基本的に衣類関係に、男は興味を示さないものである。
ファッション用語を見ても、それがどういうものなのか、男のリュージにはよくわからない。
「母さん、このチェニックって……母さん?」
そこでリュージは、母がいないことに気がつく。
どこへいったのだろうか……と探すと、レジカウンターに、母がいるではないか。
店員に話しかけている。
嫌な予感がして、リュージは慌てて母に近づく。
「そこの店員。わが子が服を所望です」
「はい、どのようなお洋服をお探しですか?」
すると母が店員に向かって、指を鳴らす。
パチンッ……!
ドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサドサ!!!!!!
レジカウンターの上には、まばゆい金の延べ棒が、山のように積まれていた。
「どひー! な、なにこの大金!?」
「この金でこの店をまるごと買い取ります。店員あなた方も雇います。全店員の知識を総動員して、我が愛しの息子にふさわしいお洋服を選びなさい。今すぐに」
……また母がやらかしていた。
リュージは慌てて金塊を母に回収させ、店員にペコペコと頭を下げる。
騒動を収めて、リュージは母とともに、婦人服売り場へと再度戻ってきた。
「まったくもう……母さんは乳幼児よりも目が離せないよ」
「それはまたお母さんに幼児化してもらい育てたいなという、りゅーくんからのリクエスト?」
「違うから……ほら、一緒にチェキータさんの服を選ぼうよ」
「え~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~?」
超不満そうなカルマ。
「お母さんはりゅーくんのお洋服を選びに来たんですよぅ。あの無駄肉の服なんて後回しで良いではないですか?」
「主目的はチェキータさんのプレゼント選びだからね」
「いやですっ! お母さんりゅーくんのお洋服を選びに来たんですからね!」
母は驚くほど素直なときと、驚くほど頑固なときがあるのだ。今は後者らしい。
「……わかった。じゃあ僕の服を選んで」
「かしこまっ!」
そう言って、母はリュージを連れて、子供服売り場へと向かう。
「これとかどうかなりゅーくん!」
「うん、メイド服は無理かな」
「じゃあこっちどうっ!?」
「うん、チャイナ服は無理だって」
「それではこれでどうだー!」
「だからどうしてスカート持ってくるの!? 僕男だってばもー!」
母曰く「りゅーくんは可愛い顔しているから、可愛いお洋服がとっても似合うと思うの!」だそうだ。
リュージは確かに童顔だ。
鏡に映る自分の姿は、華奢な体躯も相まって、女の子に見えなくもない。
リュージはこのなよっとした自分の容姿が余り好きではなかった。
男ならば、もっとたくましくありたいと思うのである。
「もっと男っぽい服がいいな」
「むぅ。かわいいお洋服の方が似合うのに……」
渋々と母が男性服売り場へと移動。
ジャケットやズボンを散々着させられた後。
「これだ……これがりゅーくんに似合うジャケットとジーンズ……。店員、この服とズボンに【ベストりゅーくんで賞】を受賞したお洋服として展示を」「しなくていいからもーーーーーー!」
母の暴走を止め、リュージは自分の服を買った後、いよいよチェキータの服を選ぶ。
婦人服売り場にて。
「チェキータさん、どういうのが似合うかな?」
「布でも買って自分で作らせるくらいで良いのでは?」
先ほどまでの興奮ッぷりから一転、カルマは心底どうでも良さそうに言う。
「そんなことできないよ」
「はぁ……お母さん、りゅーくんを構成するすべてが大好きだけど、りゅーくんがあのエルフが好きってことだけは、許容しかねます」
はふん、とカルマが悩ましげに吐息をつく。
どうあっても、カルマはチェキータのためにプレゼントを贈りたくないようだった。
やる気の無い母をなだめながら、リュージは服を選ぶ。
「うーん……スカートとかどうかなぁ……。あんまり着てるところみたことないし」
良いかもしれない……と緑色のスカートを手に取ろうとした、そのときだ。
「あの女はスカートを好みませんよ」
そっぽを向きながら、カルマが素っ気なく言う。
「そうなの?」
「ええ。ズボンみたいなぴちっとした服が好きなんです」
「へぇ……じゃあズボン買おうかな」
「それもちょっと辞めた方が良いかもしれませんね」
カルマが胸の前で腕を組んで言う。
「どうして?」
「丈が合わない可能性があるでしょう? それにズボンはジャケットと違ってウエストやら足の長さやらの問題があって、本人がいないと自分に適さないものを買ってしまい無駄になってしまいかねません」
リュージは目を丸くする。
「服よりも装飾品を選んだ方が……って、どうしました、りゅーくん?」
「……ううん」
リュージは目尻を垂らして、母を見やる。
口では無関心を装いながらも、ちゃんと、チェキータのために、プレゼントを考えてくれているようだ。
「なんでもない。それより母さんの言うとおりだと思う。アクセサリーショップが近くにあるから、そっちいってみようよ」
「え~~~~…………まあ、りゅーくんに似合う宝石を選ぶと考えれば、いっか!」
リュージはクスッと笑う。
この母は、本当に素直じゃないなと。
「はぁあああああん♡ 天使! 天使がスマイルしてるぅううううううう!」
「はいはい店の中で騒がないの。ほら、いこ」
そんなふうにしてリュージは、母を連れて、プレゼントを選ぶのだった。
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頑張って書いたので、どちらもお買い求めいただけます嬉しいです!