110.邪竜、息子と一緒に街へ買い物にいく【その2】
来週チェキータの誕生日と言うことで、リュージは母とともに、カミィーナの街へ、プレゼントを買いに行くことになった。
翌朝。
リュージは自宅のリビングにて。
「母さん遅いなぁ……」
朝食後、母は「準備あるから!」といって、自分の部屋に引きこもってしまったのだ。
何の準備だろうか……と思っていたそのときだ。
「りゅーくん! おまたせっ!」
「やっときた。どうしたの……って、何そのドレス?」
やってきた母の格好を見て、リュージは目をむく。
「りゅーくんと久々に街でお出かけデートですよっ? それにふさわしい格好でないと、りゅーくんに申し訳が立ちません!」
カルマはきらびやかなドレスに身を包んでいる。
漆黒のナイトドレスはキラキラと輝いている。
肩はむき出しで、真っ白なふわふわのストールだかファーだかを肩にかけている。
長い髪はアップにされて、氷菓子のようにくるくるとまとめられていた。後に母はこれを【ヤカイマキ】とかいっていたが、よく意味がわからなかった。
「さぁいこう! りゅーくん! ふたりのデートへ!」
「うん、そうだね。けど母さん、着替えて」
「なにゆえですかー?」
「目立たないようにね」
ちぇーっと不満そうにしながら、カルマは普段着に着替えて戻ってきた。
「こんな地味な格好で良いのですか?」
ロングスカートにセーターという、いつも通りの、簡素な服装になっていた。
「うん。普段通りが一番だよ」
「ふむ……そうですか。まっ! りゅーくんがそういうなのならそうなのでしょう! なにせりゅーくんは全知全能の神のごとき存在ですからね!」
「そんなたいそうな人間じゃないから」
いつも通りの母を見て、リュージは苦笑する。
「それじゃ……いこっか」
「はいはい♡」
リュージは母を連れて家を出る。
ドアを開けると、びょぉおおお……っと、木枯らしが吹いた。
「寒いね~」「おっけー!」「待った、母さんストップ」
カルマがしゃがみ込んで、どこかへいこうとしていたので止める。
「どこいくの?」
「宇宙へいって、ちょっと太陽の位置を動かしてきます」
「この星が焼け死ぬからやめて……」
「では太陽をもう一つ作りましょう」
「そういうのいいから!」
その後母を説得した。
結局はマフラーと手袋を母がスキルで作り、それをリュージが身につけることで解決した。
「りゅーくんに寒い思いをさせるこの星がいけないのに、どうしてりゅーくんがこの星にあわせてあげないといけないのですかっ?」
ぷんぷんしながら、カルマがリュージのとなりを歩く。
「この星よりりゅーくんのほうが重要度上なのに……上なのにっ!」
「まあまあ母さん。僕は大丈夫だから。ほら、母さんが作ってくれた防寒具、すっごく暖かいし」
「ぬへへ~♡ ほんとですか~♡ はぁあああん♡ うれしーですぅ~♡」
怒り顔から一転、蕩けた笑みを浮かべるカルマ。
「お母さん嬉しくって、天に昇りそう~♡」
「か、母さん降りてっ! 昇ってるから天に!」
リュージは慌てて、カルマの腕をつかんで、下ろす。
「はっ! こ、これは伝説の! おててつないで仲良し親子デートではないですか!?」
カルマがくわっ! と目を見開く。
リュージは離そうとして……やめた。
またぞろ手を離したところで、無理矢理手をつなごうとするし、目を離すと何をしでかすかわからない。
それに母が嬉しそうだった。
手をつないで歩くのは恥ずかしいけれど、それはちょっと我慢すれば良いだけだ。
「いこっか」
「いえっさー!」
リュージはカルマとともに、並んで歩く。
行き先はカミィーナの繁華街だ。
休日と言うこともあり、人の数が普段よりも多い気がした。
「人が多くてりゅーくんが歩きにくいです。殲滅します?」
「大丈夫だから、これくらい」
人の流れに従って、リュージたちは歩く。
子供連れから冒険者、商人たちが、往来をひっきりなしに行ったり来たりする。
「この街にはこんなに人間どもがいたんですねぇ」
「そうだよ。母さんあんまり外出ないから、知らないと思うけど、お昼になるともっと増えるんだから」
カルマは基本家の中にいる。
外出するときはリュージ関連のときだけだ。
自分から街へ行くことはほぼなかった(買い出しは万物創造スキルがあるため必要としない)。
「もっと外へ行けば良いのに」
「必要ありません。りゅーくんやシーラ、ルコにバブコ。大事な人たちと過ごす時間が何より大事なので。外へふらふらする暇などありませんよ」
そうはいっても、もうちょっと母には、自分の時間を持ってもらいたいなと思うリュージである。
世界はもっと広いのだ。世の中にはたくさんの面白いものや出来事にあふれているのに。
母は頑なに、狭いコミュニティから出ようとしない。
それはどうしてかというと、やはりカルマの抱える【過去】が原因なのかも知れないと思う。
母は邪神王を倒して、最強の力を手に入れた。
だがそれゆえに、同族や人間たちから畏怖されていた。ゆえにカルマは、長い間洞窟に引きこもった次第である。
チェキータから教わった歴史だ。
しかしここには、おそらくだが少しのフィクションが加わっている
たぶん、母は一部の人間たちから……。
「どうしました、りゅーくん?」
「え、あ、なんでもないよ。どこ行く? まずは服屋とかかな?」
「えー、やっぱりプレゼントの買い物するのですか? 二人きりでもっと親子デートを楽しみましょうよぅ」
カルマが子供のように駄々をこねる。
「遊園地とか水族館とか……映画館とかいこう!」
「いかないから。ほら、服屋へれっつらごーしよう?」
ユウエンチが何か知らない。
が、どう見てもカルマは、チェキータへのプレゼントを買うことよりも、リュージとの過ごす時間を楽しんでいるようだった。
「お母さん、やだな~」
「母さん、僕に似合う洋服選んでよ」
「っしゃー! かしこまっ!」
やる気を出すカルマ。
それを見てリュージはほっとする。
街へ出て、人と触れて、いろんな体験をするうちに、リュージは母への対処の仕方を学んだのだ。
「では参らん! りゅーくんに似合う服を……選ぶため! で、どこにブティックはあるのです?」
「こっちだよ。ほら」
リュージ母の手を引く。
服屋の場所はわかっている。カミィーナは、もう初めて来た場所ではない。
住み慣れた土地、見知った街なのだ。
「りゅーくんは物知りですね。賢神なのでしょうか?」
「違うよ。暇なときは街を見て回ってるだけ」
街へ出て、いろんなものを知って、今に至る。
たくさんのものを見て知って経験したから、今こうして、母の手を引いて、道案内できていた。
洞窟暮らしだったときでは、考えられなかった。
いつも母に守られて甘やかされてばかりだったから。
こうやって、母に何かしてあげられていることが、本当にリュージにとっては嬉しいのであった。
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一生懸命書いたので、どちらもぜひお手にとっていただけると嬉しいです!