13.邪竜、息子からプレゼントもらう【前編】
前後編となってます!
リュージが仲間と協力して、自力でモンスターを倒した。
その日の夜のことだ。
リュージたちの家、1階の部屋のベッドには……母が眠っている。
仰向けに眠り、すぅすぅと寝息を立てていた。
リュージは母の寝るベッド、そのかたわり座り、母が目覚めるのを待つ。
「…………」
その手に、【とあるもの】を握らせながら。
「……母さん、喜んでくれるかな」
なにせ母の趣味というものを、リュージは知らない。
いつも息子ラブ! を全開にしているので、じゃあ息子以外で何が欲しいのか。
リュージにはわからなかった。
だから【監視者】のエルフの助力を仰ぎ、市場へと向かって、買ってきたのである。
「……母さん」
仰向けに眠る母は、意外にあどけない表情をしていた。
母の実年齢は、何歳なのかわからない。
だが人間の姿のカルマは、ともすれば19とか18とか、下手したら姉に見えなくもない。
もっと言えば、カルマはその言動も含めて、幼い感じを見受けられる。
……まあ、体つきは、まったく幼くないのだが。
呼吸するたび、母の柔らかくも大きな二つの丘が、ぷるぷる……と震える。
花のつぼみのような可憐な唇が、むにゃむにゃ……と、今はだらしなく緩んでいた。
ややあって、母が目を覚ます。
「んがっ……。ここは……?」
カルマは寝ぼけ眼で、半身を起こし、「あ、りゅー君はっけん」
と言って、びょんっ! と飛び起きて、息子に抱きつて来る。
でかすぎる乳房が、リュージの顔につぶれる。苦しい。だが柔らかくて気持ちいい。だが離れて欲しい。
……こんな姿、シーラに見られた恥ずかしくて死んでしまう。
「ああ、ムスコニウムが補充されていきます~……」
カルマはリュージを胸に抱くと、思い切り抱擁してくる。
「なにそれ?」
ただ母は力を加減してるようで、強く抱きしめられていても、しかし、苦しくはなかった。
「息子に触れてないと身体から失われる成分です。こうして息子をぎゅーっとすることで補充されます。ぎゅー」
「聞いたことないよそんなの……」
あきれ口調でリュージが言う。どうせ母が作ったでたらめだろう。
「それはさておきりゅー君っ」
カルマがパッ……っとリュージを離す。
「お祝いしないとですねっ!」
にぱーっと子供のような、あどけない笑顔を浮かべる。
「りゅー君が初めて自力でモンスターを倒した記念です。これも記念日に登録しましょう。全世界のひとにとって、この日は国民の祝日にするよう、ヒルダに頼んでみます」
今にも母は竜に変身して、王のいる城へとすっ飛んでいきそうだった。
「そういうのいいからっ、おおげさすぎるからやめてっ!」
そうですかー、と残念そうなカルマ。
「ではごちそうを作りましょう。何が良いです? お母さんステーキですか?」
「なんだよそれ……」といいかけて、思い当たる物体が脳裏をよぎり、「いやいいや聞かないでおく……」
とやめた。
その間、母が立ち上がってリビングへ移動する。
料理を用意しようとしているのだろう。
「……必要ないよ、って言いそびれた」
リュージがつぶやいた、そのときである。
「なんですか、これはーっ!」
リビングの方から、母の大声がした。
リュージは立ち上がって、母のいるリビングへと移動する。
そこにいたのは……リビングのテーブルを凝視する、母の姿だ。
「りゅー君……これは、この料理は……いったい……」
カルマが息子を見て、わなわな……と唇を震わせている。
テーブルの上には、オムレツがのっていた。
……と言っても、母が作るような、きれいな、そして上手そうな物ではない。
あちこち焦げてる、不格好なオムレツだ。
「……僕が、作ったんだ」
リュージの言葉に、カルマが目を大きく見開く。
「作った……。万物創造スキルのない、りゅー君が? どうやって……?」
……別に料理の仕方は、スキルで作るだけじゃないと思うのだが。
しかし母にとっては、料理とは作るものじゃなくて【出す】もの、あるいは食材を【料理へと変化させる】ものだった。
「シーラさんに……教えてもらったんだ。彼女、料理上手なんだ」
カルマをベッドに寝かせた後、リュージはシーラの力を借りて、夕食を作ったのである。
だれに?
それは……もちろん、母に。
「母さんさ、いつも僕に記念日記念日ーって、言うくせに、自分の記念日忘れてるんだもん」
「ふぁ? お母さんの、記念日?」
リュージはうなずいて、母に近づく。
ポケットから箱を取り出して、母に渡す。
「これは……?」
震える手で、母が箱を受け取る。
カルマが息子を見やる。そして、中を開けると……そこには、
「ネックレス……ですか?」
それは、銀のチェーンのネックレスだった。
デザインはシンプルで、ついてる飾りも安物。
それでも……これは。特別な物だ。
「りゅー君、これはいったい……どうやって? どこから……?」