109.邪竜、日常に回帰する【前編】
吸血鬼を母がとんでもチートで葬り去った後。
リュージとカルマは、旧・マシモト城を出て、カミィーナの自宅へと帰ってきていた。
「ただい」ま、とリュージが言おうとした、そのときだ。
「ぶぇえええええええええええええええええええええん! りゅーじぐぅうううううううううううううううううううん!!!」
大泣きしながら、恋人の兎獣人シーラが、リュージの胸に飛び込んできたのだ。
体重の軽いはずの彼女に、リュージは吹っ飛ばされる。
それくらい、シーラは勢いよく、抱きついてきたのだ。
「良かったぁああああああああ! 良かったよぉおおおおおおおおお! ふたりが無事でぇええええええええええ!!!」
うぇーーーーん! と滝のような涙を、シーラが流す。
「愛しい息子とその嫁が感動の再会……くぅう! 感動だぁ……!」
カルマはそんな風に抱擁を交わす二人を、ばっちりと録画していた。
「かるまー!」
だきぃ……! と娘のルコが、カルマの細い腰に抱きつく。
「るぅ。しんぱい。るぅ。しんぱい!」
「心配ごめんなさいね、ルコ。バブコも」
カルマがルコを抱き上げて、ちょっと離れた場所で見ていたバブコを見やる。
「はぁ!? わ、われは心配などしておらんわ!」
「うそ。ばぶこ。めっちゃ。しんぱい」
「おぬしはだまっとれ!」
母は感極まったのか、バブコを神速で回収すると、むぎゅーっと抱きしめる。
「ありがとうふたりとも♡ けれどお母さんほら、無事帰ってきました。安心して!」
「おー」
「まぁ……最強無敵のおぬしがいたんじゃ。無事に帰ってこれるに決まっておろうに」
「てれてる?」
「照れてない!」
「ばぶこ。てれてる?」
「照れてないといっておろうが!」
ふしゃー! と歯をむくバブコたち。
「ぱぱー。ぶじ。なにより」
ルコがひょいっと飛び上がり、リュージの胸に納まる。
「ありがとうふたりとも。ごめんね」
「よいよい」
「ふん。無茶しよって……まったく……」
そんなふうに和気藹々する一方で、その様子を、ルトラが見ていた。
「…………」
「ルトラ」
「な、なに……?」
リュージはルトラに気付いて、彼女に近づく。
「本当にありがとう。おかげで僕も母さんも助かったよ」
「ありがとうございますルトラ! さすがはりゅーくんのBF!」
「B……F?」
「ベストフレンドのことですよ!」
なるほど……とリュージは納得する。
いつもの母の妙な造語だが、今回はしっくりときた。
「……ちがうよ」
ルトラは、くしゃりと顔をしかめる。
「……アタシは、リュージの友達を名乗る資格、ないよ。だって……リュージを……それに、カルマを……」
リュージはルトラを見やる。
彼女は、本当に辛そうだった。
……彼女には、何か人に言えない秘密がある。
きっと、そのとことをルトラが、すごく気にしているのだろう。
けれど……リュージは明るい笑みを返すのだ。
「大丈夫だよ、ルトラ」
「……リュージ」
「だって今、僕も母さんも、こうして無事だし」
「それに無事でいられるのは、ルトラ、あなたがりゅーくんを呼んできてくれたからです。大手柄ですよ。誇っても言いです」
カルマとリュージは、屈託なく笑った。
その笑みを、ルトラがまぶしそうに見やる。
ルトラは口を開いて……そして、辞める。代わりに……こう言った。
「……ありがとう、リュージ。カルマ」
そうやってお礼を言われて、リュージは首をかしげた。ありがとうはこっちのほうなのに……?
ルトラの目からは、止めどなく涙がこぼれおちていた。
「るとらちゃん、どうしたのです?」
シーラがちょこちょこと近づいてきて、んー、と背伸びして、ルトラの頭を撫でる。
「痛いの痛いの飛んでけなのです!」
「……シーラも、あり……ありが……と……」
「? よくわからないけど……わーい!」
えへーっと笑うシーラ。
その無垢なる笑みを見ていると、心が穏やかになる。
その場にいた全員が、シーラを見て笑みを浮かべた。
やがてルトラも、弱々しく、それでも、ちゃんと笑ってくれた。
「さてさてみなさん。そろそろお夕飯の時間ですよ」
母がポンポンと手をたたきながら言う。
「かるま。いまの。ままっぽい」
「ふっふーん♪ でしょう?」
えっへんとどや顔のカルマ。
「さぁリビングへれっつらごーです! 今夜はクエスト達成のお祝いですよ! 超豪華な料理を作ります!」
「わーーーーーーい! やったぁ! カルマさんだぁいすき♡」
「ほほっ♡ お母さんもシーラが好きですよ。ああもちろん、りゅーくんの次ですがね! そこはごめんなさい!」
「ううん、いーのです! カルマさんは……りゅーじくんが大事なのです!」
そんなふうにえへへと笑う母とシーラ。
ふたりはリビングへと向かう。
その後に、ルコやバブコが続いた。
その場には、リュージと、そしてルトラが残される。
「いこうよ、ルトラ」
「……けど、アタシは」
躊躇するルトラの手を、リュージが取る。
「ルトラ。君が僕らに何か、後ろめたいことがあるのはわかってる。けれど……気にしないで」
リュージが屈託なく笑って言う。
「言いたくないならいわなくていいよ。無理に聞こうとも思わない」
「けど……」
「いいんだって。みんないっぱい人には言えないものを持っているよ。一人で抱えているのが辛いなら相談にいつでも乗るし、今は一人で抱えていたいなら……無理に打ち明ける必要ないし、いつか打ち明けてくれるの……気長に待つからさ」
ね? とリュージは笑みを浮かべる。
ルトラは何度も何度も、涙を流しながらうなずいた。
「りゅーじ……アタシね……」
「うん。なに……って、え!?」
ルトラはリュージに抱きつく。
そして、耳元で……小さく言った。
「……好き」
「……………………え? ええ!?」
驚くリュージ。
ぱっ……とルトラが離れる。
「る、ルトラ……今のって……」
「なんでもない! ほら、リュージ……いこ!」
ルトラはリュージの手を取って、カルマたちの元へ行く。
そして全員で夕飯を囲った。
豪華な宴は、深夜近くまで続いた。
……そして、その日の夜。
ルトラは、リュージたちの家に、とまったのだった。
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