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104.息子、母が無事帰ってくるか心配する



 カルマたちが旧マシモト城での探索クエストを行っている、一方その頃。


 リュージはカミィーナにある自宅にて。


「…………」


 リュージは台所の前に立っている。

 やかんに火をくべて、ぼーっとしていた。

「…………」


 ぴーーーーーーー!


「…………」


 ぼーっとしてて、やかんが吹き出しそうなことに、リュージは気付いていなかった……そのときだ。


「りゅーじ! 火を止めろ!」


 リュージははっとして、慌てて火を止める。

 やかんの沸騰音が止まり、ほっと一息つく。


「まったく、何をぼうっとしておる、りゅーじよ」


 振り返るとそこには、緑が身をした幼女がいた。

 第二子バブコが、あきれ顔でため息をつている


「バブコ……ごめん……って、えっ!」


 リュージは瞠目した。

 さっきこの少女、自分を【リュージ】と呼んだ。

 言うまでも無く、現状、りゅーじはカルマの体の中に入っている。

 だからカルマと呼ばないとおかしいのだが……。


「そう動揺せずともよい。事情はなんとなく察しておる。カルマと入れ替わっているのであろう?」

「う、うん。よくわかったね……ほかのみんな気付いてないのに」


「あほ。所作を見ていれば一発じゃろうに。気付けない他の連中がアホなだけじゃ」

「そ、そう……」


 リュージはマグカップにインスタントコーヒーを煎れて、リビングへと移動。


 バブコとリュージは、リビングテーブルを挟んで座る。

 リュージはこうなったいきさつを軽く説明する。


「なるほど……魂交換ソウル・エクスチェンジか。意外じゃった」

「意外って?」


「またぞろカルマのやつが【息子になりたい!】とかいいだして、魂を入れ替えたのかと思ったのじゃ」

「あ、あはは……」


 確かにバブコの言うとおり、母ならやりかねなかった。


「それでりゅーじよ、さっきおぬし物思いに浸っていたようじゃが、どうかしたのか?」

「あ、うん……」


 リュージはマグカップをにぎりしめる。

 言うか言うまいか迷う。

 しかし結局、思いのままを口にした。


「母さん、だいじょうぶかなって、思って……」

「はぁ? 大丈夫に決まっておろう。あの最強邪竜じゃぞ?」


「うん……けど、母さん、いま僕の体に入ってて、自分の力を百%引き出せるわけじゃないみたいだし」


 カルマ曰く、ちょっと出力が落ちているそうだ。

 それはしょうがないだろう。

 なにせ今、自分の体ではないのだから。


「今行っているところ、吸血鬼がでるみたいなんだ。普段の母さんなら何も問題ないんだけど、弱体化した状態でSSS級相手に立ち回れるかなって……」


 きゅっ、とリュージがマグカップの取っ手を強く握る。


「りゅーじ……おぬし、本当はカルマたちについていきたったんじゃないか?」


 バブコに指摘され、ハッ……! とリュージが顔を上げる。

 カルマに、ついていきたかったか……だって?


「……そう、かも」


 少し考えた後、リュージは絞り出すように言う。

 

「……そう、だね。うん、ついていきたかったんだと思う」


 人から言われて、ようやくリュージは、わかったのだ。

 言葉をいくつ並べても、結局のところ母の身が心配であった。ついて、いきたかったのだ。

 母の冒険に。


 だって目の前にいないと、いろいろと想像してしまうのだ。

 もし何かあったらどうしよう。

 もし、吸血鬼に襲われて、母のみに危機が迫ったら……と。


 本人がいないから余計に、悪い想像はどんどんと、膨らんでいく。

 そして、ついていきたくなる。

 ついていき、様子を見に行きたくなる。


「……やっとわかった」


 リュージは弱々しく笑った。


「何がわかったのじゃ?」

「母さんが……どうして、あそこまで僕の冒険について行くって、頑なだったのかって」


 今までも十分理解してるつもりだった。

 けどそれは、所詮頭で理解しているというだけのこと。


 本当の意味で、母の心の中はわかっていなかった。

 だがこうして、立場が逆転して、ようやくリュージは理解できた。


 なぜ母が自分の冒険について行くのかを。

 なぜ母が、あんなにも自分のそばにいたがるのか。

 言葉で無く、理屈で無く、魂で、やっとわかったのだ。


「……こんな異常事態にならないと、わからないなんてね」


 自嘲的にリュージが笑う。

 自分は母のことを、わかっているつもりだった。


 けどそんなことはなかったのだから、凹んでしまう。


「りゅーじ。それは仕方ないことじゃ。われらはエスパーじゃない。相手の頭の中は見えない。相手の考えは相手しかわからない。そういうもんじゃろう?」


 バブコが諭すように言う。


「相手を完璧に理解するなど、無理なことじゃ。誰にもできないことだ。気に病むことは無い」

「…………うん。ありがとう、バブコ」


 リュージは弱く笑うと、バブコの頭を撫でる。


「こ、子ども扱いする出ない」


 ぷいっ、とバブコがそっぽ向く。

 だが嫌がるそぶりは見せなかった。


「そう、だよね。そんな当たり前のことに凹んでるのは、おかしいよね」


 うん、とリュージはうなずく。


「ありがとうバブコ。僕、母さんの帰りをおとなしく……」


 と、そのときだった。


 ピシッ……!

 パキッ……!


「あッ……!」

「カップの取っ手が……とれたの」


 リュージは呆然と、取っての取れたマグカップを見やる。


「新品同様だったのに……」

「……りゅーじ。事故じゃ。よくあることじゃ。偶然じゃ」


「そう……だよね。うん。大丈夫……だよね」


 それは自分に言い聞かせた言葉では無かった。

 母さん、と続けるつもりで、母に向けていった言葉だった。


 だがその答えはすぐに帰ってこない。

 届けに行くわけにも行かない。


 今はただ、母の帰りを信じて待つだけだ。

 大丈夫、母は絶対、無事で帰ってくる。


 ……そう自分に言い聞かせることしか、今のリュージには、できなかったのである。

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