12.邪竜、息子の冒険を見守る【後編】
前後編の後編です!まだの方は前話から!
監視者の助言によって、母が手を出さないことを約束してくれた。
ありがとう、あとで感謝しておこう、とリュージは心に決めた。
さておき。
今回のリュージたちのクエストは、野外でのスライム退治だ。
時刻はまもなく昼になる。
母の作った大量の弁当を食った後、いよいよ仕事に取りかかる。
……ちなみに弁当には普通の食材が使われているのを、リュージは監視してた。
閑話休題。
さてリュージたちは今、レベルがふたけたに上がっており、本来ならスライム退治なんて楽勝だ。
リュージたちが受けるレベルのクエストではない。
それでもリュージは、このクエストをこなそうとしたのは……。
これが、自分たちだけの実力で挑む、初めてのクエストだからである。
今まで、母が忖度したり、パワーアップご飯を作ったり、強い武器をくれたから、冒険は楽々とこなせた。
裏を返せば、それはすべて母の力があったからこそ。
自分たちだけの力で、どこまでやれるかは未知数だ。
よってリュージは安全策をとって、下位のクエストを受けた次第である。
「準備はいい、シーラさん?」
背後に魔術師の杖を持ったシーラ。
「はいなのですっ! しーらはいつでも、準備おっけーなのです!」
おー! と両手を挙げて気合いをあらわにする兎獣人。
「こちらも録画準備はおっけーですよ!」
母は記録の水晶をかまえて、息子の勇姿を記録に残すつもり満々だ。
「…………よし、行こう」
リュージは草原を突き進む。
徐々に背の高い草が増えてきた。
ガササッ! と草が動く。
「お母さんビームっっっ!!!!!!」
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!
「母さん!!!」
「はぅあっ!! 失敗してしまったぁ!」
……息子の危機を、野生動物並の鋭さで感知し、スライムが出る前に魔法で倒してしまったカルマ。
「母さん! 見守っててっていったの、忘れたの……?」
リュージが母を見上げて言う。
母は「すすすすみません、もうしませんから。そんな悲しい顔しないでください……」
しゅん……と肩を落とす母。
……悲しい顔、してただろうか。
気持ちを切り替えて、リュージは先を進む。
草が動く。そこから「ぴぎー!」っと巨大な水の玉が出現。
「あぁああ出たなりゅー君に危害をおよぼす害虫がぁあああああ!!! 私が滅してやろうかぁああ!!!」
母が破壊の雷を出現させようとして、「はぁ……! 我慢しないと-!」と雷を収めてくれる。
どうやらリュージの言いつけを、母は守ってくれるみたいだ。
ありがとう……と心の中で感謝し、リュージは腰の剣を抜く。
「いくよシーラさん! 手はず通りに!」
「はいなのですっ!」
シーラは杖を構えて精神を集中させる。
「【火球】なんて詠唱せずとも出せないのですか! ほら、口からごぉおおおって! お母さんなら楽勝にできますよっ!」
シーラが呪文を詠唱しているさまを、母がはらはらしながら見守る。
そっちは放っておいて、リュージは皮の盾を構えてスライムの前に躍り出る。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぶ゛な゛い゛ぃ゛!!」
全てに濁点がつくほどの大声を出して、真っ青のカルマ。
リュージに向かってスライムが突進してくる。
母が万物破壊スキルを発動させようとして……こらえてくれた。
リュージは盾を構えて、スライムのたいあたりを受ける。
ずしんっ、と身体に衝撃が走る。
「ひぃいいいえぇええええ!!! 息子が死んだぁあああああああ!!!」
悲鳴を上げる母に、いや死んでないから……とツッコミを入れる。
大丈夫、耐えられる。
……スモール・バットを1500匹もたおして、レベルが上がっているのだ。
丈夫さも上昇しているのだろう。
「きぃいさまぁあああああ! りゅー君に手を上げた不届きものがぁああああ!! 消し炭に………………って、だめだめっ! りゅー君ふぁいっとー!」
母が、応援してくれる。
正直言って、恥ずかしいけど、
……でも、嬉しかった。
いつも守られてばっかりだったから。
いつも母を背中に見ていたから。
自分の背中を、母が見てくれていることが。
母が自分を、応援してくれていることが。
とてもとても……嬉しかった。
「リュージくんっ。準備おっけーなのですっ!」
ややあって魔法が完成する。
リュージは皮の盾でスライムをはじく。
即座に後ろに下がるリュージ。
「集え火よ! 球体となりて、敵を討て! 【火球】!」
シーラの言葉に従い、魔力が魔素へと変換。魔素が燃やされ火の球体となり、
ごぉお……!!
とスライムめがけて飛んでいく。
「ぴーーー!!!」
炎に焼かれるスライム。
しかし致命傷には遠い。
リュージが剣を構えて飛び出す。
「やぁあああああああああ!!!」
リュージは上段に、剣を構える。
剣の振り方なんて、だれにも教わってない。
型もなく、技術もない、ただ振り上げて、剣を下ろす。
そんな不格好な一撃が……スライムの脳天に炸裂する。
「ぴぎぃいい……………………」
断末魔をあげて、やがて……。
「…………」
スライムは、絶命する。
その後には……魔力結晶が、残る。
「…………」「…………」「…………」
その場にいる全員が、固まっていた。
目の前の光景に、動けないでいる。
リュージはしっかりと、手応えを感じた。そして、胸を満たすのは……巨大な達成感。
やってやったという、気持ち。
「やった……」
声が震える。感情が溢れ、流れ出る。
「やったぁあああああ!!!!」
歓声を上げるリュージ。
嬉しいと身体が震えていた。
リュージはついに、自分1人の力で、何かをやり遂げたのだ!
「リュージくんっ、おめでとーなのですー!」
真っ先に駆け寄ってきたのは、獣人のシーラだった。
彼女の垂れたうさ耳が、ぴょこぴょこと飛び跳ねる。
シーラがリュージと手をつないでくる。そしてその場で、ふたりともぴょんぴょんとジャンプした。
「やったね!」「はいなのですー!」
と、感動するふたり。
そしてその一方で……。
「…………」
母が黙って、その場に突っ立っていた。
リュージはシーラから手を離し、母に向かって手を振る。
「母さん! 僕、やったよ! ひとりで倒せたよ!」
……だが母は、返事をしない。
動かない。ただ突っ立っているだけだ。
「母さん……?」
不思議に思って、リュージはカルマに近寄る。
顔の前で手を振っても、彼女はまばたきすらしてない。
まさか……と思ってカルマをつつくと、
びたぁあああああんっ!
……と倒れた。
どうやら、母は嬉しすぎて、失神してしまったようだった。
お疲れ様です!
次の話で1章終了となります。
次回もお昼頃更新する予定です!
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ではまた!