103.邪竜、仲間とともに墳墓を探索する【前編】
カルマは墳墓探索の依頼を受けることになった。
仲間たちとともに、カミィーナから首都マシモトへと移動。
やってきたのはマシモト北西部。
誰も人が寄りつかないような荒野に、そのお墓はあった。
「こ、ここが【旧マシモト城跡地】なのですね……」
お墓を見上げながら、シーラが言う。
堀のようなものがあった。
だが水は完全に干からびている。
石垣が見られる。
なるほど城であるらしい。
しかし石垣以外の部分は焼け落ちていた。
「ここが墳墓なのですか、シーラ。焼け落ちたお城の跡地にしか見えないのですが」
カルマが(リュージの体で)、兎獣人を見て言う。
「はいなのです。大昔はお城だったそうなのです。戦争があって城が焼け落ちて、お城に住んでいた人がみんな死んじゃったらしいのです。その人たちの魂を鎮めるために、この城を撤去せず、お墓として残してるそーなのです」
シーラはこう見えて博識だ。
なんでも彼女のおばあちゃんが、この国最高峰の頭脳を持った大賢者だったらしい。
シーラはおばあちゃんから、たくさんの知識を教えてもらったのだそうだ。
「……宝ってどこにあるの?」
人狼の少女が、シーラを見て言う。
「地下にあるそうなのです。お墓は地下へ地下へと伸びて作られいるそーです」
「なるほど……われわれの目当ては残された城の財宝、埋蔵金ってやつなんですね」
こくこく、とシーラがうなずく。
「こ、この城の城主は、とってもとっても強欲な人らしくて、いろんなところから金銀財宝や、珍しいアイテムをしいれていたそーです」
「強欲ねぇ。人間の価値観は理解できませんね。金や希少なアイテムをいくら集めたからといって、最後にはみな塵になって墓の下へいくではありませんか」
カルマは思考が、基本的に魔獣である。
魔獣は人間と違って、常に弱肉強食の世界で生きていた。
つまり死が隣り合わせの世界に生きていたのである。
ゆえにそういう、人間の持つ価値観や考え方とは、異質なるものをもっているのだ。
「まぁそれはさておき。ちゃちゃっとお墓へ侵入して、ささっとお宝回収してかえりますよ」
カルマがお墓に向かって、一歩足を踏み入れようとしたそのときだ。
「りゅ、りゅーじくんっ! 気をつけて! 実はこの廃城……」
【ORORORORORORORO----------------N!】
入り口から、半透明のヒトガタが出現したのだ。
「ご、【悪霊】なのです!」
悪霊。モンスターの一つだ。
ダンジョンなどで死んだ魂が悪霊となって、人間に襲いかかってくるというもの。
悪霊には足がなく、ぼろ布をまとったような見た目をしていた。
布の中には黒色のガスのようなものが見える。
「き、気をつけてりゅーじくん! 悪霊には物理攻撃が……」
とシーラが忠告しようとしたそのときだ。
カルマは背中の剣を素早く抜いて、
「やー」
いつもより、やや強めに、縦に剣を振ったのだ。
びゅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
【O……ORO……………………】
すさまじ突風が吹く。
ガス状の悪霊が、すごい勢いで吹っ飛ばされる。
あとにはぼろ布だけが宙を舞い、それもパサッ……と落ちる。
「ん? シーラ、今なんか言いました?」
「あ、いえ……物理攻撃は効かないよって言いたかったのです……」
「剣は通らないのですね。覚えておきましょう」
剣での攻撃はきかないが、剣による風圧によって、悪霊の本体であるガスを跡形も無く吹っ飛ばしたのだ。
「……か、軽く振ってこの突風」
「お城の石垣が半壊してるのです……すごいのですー……」
はえーと感心するシーラ。
カルマが剣を振った直線上にあった石垣が、ぶっ壊れていたのだ。
「い、入り口がふさがっちゃったの」「ていやっと」
キキキキンッ…………!!!!
カルマは、今度は剣に魔力をこめて、潰された入り口の地面に剣をふる。
すさまじい速さで地面を四角形に切り取る。
ボコッ……!!
ずずぅうー………………ん。
「これで入り口は確保できたでしょう?」
「はわわ……りゅーじくん、すごーい……カルマさんみたいなのです!」
「ふふっ。シーラ、あなたうれしいこといいますねっ! ぷらす10兆点!」
「わーい! やったー!」
ぴょんぴょんっ、とシーラが笑顔でジャンプする。
そのとなりでルトラがこめかみに手を押さえていた。
「おやどうしましたルトラ?」
「……いや……なんかすごいなって思ったの」
「えへへっ、どーも♡」
いとしの息子の友達に褒められ、カルマは上機嫌になった。
「……ただリュージ。さっきの悪霊にやったみたいな無茶な剣の使い方はやめて」
ルトラがリュージに、真剣な表情で言う。
「おやどうして?」
「……あんなすごいのバンバン打ってたら、アタシたち生き埋めになるよ。ただでさえここ古い作りなんだし」
「ふむ……それもそうですね。ではチカラは最小限に。連携を駆使して戦うのはどうでしょう?」
「さんせー!」
「……それがベストだと思う」
探索の方針も決まったことで、リュージたちは地下の墳墓へと足を踏み入れる。
下へ続く階段を、リュージたちはくだっていく。
「しかし悪霊が住むと言うことは、他のアンデッド系のモンスターが出るということですかね」
「そ、その可能性は高いと思うのです……けどけどっ、しーら光魔法使えるのです!」
光魔法の中には、死霊系モンスターに聞く聖なる魔法があるのだ。
それを使えば墳墓に出るモンスターに対抗できるのである。
「たのもしいです、しーら。さすがりゅーくんの……おっと、ぼくの相棒!」
「え、えへへ~♡ りゅーじくんそんな……る、ルトラちゃんがいるのに恥ずかしー……」
わわわっ、とシーラが顔を両手で隠す。
ルトラがギリ……っとなぜか歯がみしていた。
「どうしましたルトラ?」
「……べ、つ、にっ」
ルトラが不機嫌そうに、ぷいっとそっぽを向く。
なんだろうか……わからん……。
「と、ところでりゅーじくん。このお墓、気をつけた方が良いのです」
「悪霊程度では後れを取りませんよ?」
「いえ……その、ここの領主が、吸血鬼の秘術に手をつけていた疑惑があるのです」
「吸血鬼……SSS級のモンスターですか」
たしかここの領主は権力欲が強かったという。
権力者の最後は、みな不老不死を求めるもの。
その課程で、吸血鬼の秘術に手を出したのかも知れない。
「ま、だいじょぶですよ。よゆーです」
そう言って、リュージたちは墳墓へと歩を進めたのだった。
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