12.邪竜、息子の冒険を見守る【前編】
前後編となってます!
ルーン文字で強化された武器を手渡された、翌日。
「るんたったー♪ るんたったー♪ FU~♪ 息子とお出かけー!」
リュージは獣人のシーラ、そして母を連れて、町の外へとやっていていた。
草原を歩くリュージたち。
母が上機嫌に鼻歌を歌う。
その前をリュージと、そしてシーラが歩いている。
「まさかりゅー君が自分からお母さんについてと言うとは! ふふふっ、お母さん張り切りすぎてもうやばいですよ!」
母とんでもなくデカいリュックサックを背負っている。
「お弁当たっくさん作りましたっ! あとで食べましょうねっ!」
……もはや完全にピクニック気分だった。
さもありなん。
最強邪竜にとって、モンスター退治などただのピクニックである。
だれも彼女にかなう存在はいないのだから。
「それにお母さんがいればりゅー君は安全に冒険ができます。お母さんがいればもう安心っ! あらゆる敵をお母さんが破壊してあげますよっ!」
母は大興奮で、右手に破壊の雷を出現させる。
「……母さん」
ぴたり、とリュージが立ち止まる。
「はいはいなんですかっ?」
「……今日は、後ろでただ見てて」
リュージの言葉に、はてと首をかしげるカルマ。
「後ろで見てるだけ……とは?」
「言葉通り。僕たちがクエストをこなすのを、後ろで見ていて欲しいんだ」
リュージは母の顔をまっすぐに見て言う。
息子の言葉を受けて、母の顔がさぁ……っと青くなる。
「だ、だめですだめですっ!!」
案の定、母が大反対。
「大丈夫だよ母さん。今日はスライムの討伐。僕らだけで十分だから」
「だからってそんなっ! あぶないですって!! 相手は弱くともモンスターなんですよっ!?」
母が本気で心配してくる。
そう……彼女はいつもそうだ。
リュージの身をいつも案じてくれている。
ダンジョンに先回りして掃除するのも、パワーアップご飯を作るのも、ルーン武器を作るも。
全部、息子の安全を思っての行動だ。
……リュージは、わかってる。
母の息子への思いは、ちゃんと伝わっている。
母をうざったく思っていても、邪魔なんて思ったことはない。
ただ……今は。
……リュージは、【あの人】からもらった助言に従って、カルマに伝える。
魔法の言葉を。
「見てて、欲しいんだ」
リュージが母を見て、はっきりと言う。
「僕が、ちゃんと仲間と、冒険できてるところを、成長してるとこを」
そして母を見て、まっすぐ告げる。
「後ろで、見守っていて欲しいんだ」
リュージの言葉を聞いたカルマ。
興奮気味に鼻息を荒くしていたのだが、ぴたり、ととまる。
「見守る……」
ぶつぶつ……とカルマがつぶやく。
「見守る……息子の成長を、見守る。……やばっ、なんですかそれちょー母親っぽい! お母さんっぽい!」
ぺっかー! と輝く笑顔を浮かべるカルマ。
……【彼女】の言ったとおりだった。
監視者の、彼女の。
リュージが今朝、冒険に出発する前に、監視者のエルフがリュージにアドバイスくれたのだ。
『カルマってほら、母親にあこがれてるところあるからね。息子の成長を見守っていて、ていったら、きっとおとなしくしててくれるわよー。お姉さんが保証する』
とのこと。
「息子を見守るお母さん……いいですっ。とても良いですっ! ああっ、お母さんっぽいとっても!!」
るんるんるんっ! と機嫌良さそうにその場でくるくると回るカルマ。
「わかってくれた?」
リュージが言うと、カルマはぴたり、ととまる。
「しっかたないですねー!」
ニヨニヨとカルマが嬉しいのを抑えきれないように、笑いながら、
「お母さんは息子の成長を、黙って見守ることにします! 見守る! 見守ることにします!」
母がすごい笑顔をうかべると、後ろからリュージに抱きつく。
ふわりと甘い花のような香りと、むにゅ~~……っと柔らかい乳房の感触が背中に当たる。
「やめてって! もうっ! やめてってばもう!」
同世代の女の子が見ているため、息子はぐいぐいと母を押しのけようとする。
きっとシーラは、自分のこと、いつまでたっても母離れできないださい男だと……思われてるに違いない……。
と心配するリュージだが、
「わぁ、わぁ、仲よしさんなのですー!」
……とどうやら好意的に解釈してくれたようだ。
「やっぱり仲良しが一番なのですっ!」
「そ、そうだね……うん……」
「シーラっ! 良いことをいいました! ぷらす3兆ポイント!」
……かつて面接時にマイナス数百近く引かれたポイントが、今のでいっきにプラスになった。
まあ、何のポイントなのか、リュージにはわからないが。
ともあれ、こうして母に邪魔されず、冒険に出かけることができたのだった。