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95.邪竜、護衛任務も普通にこなす



 母がギルドホールで騒動を起こした、数時間後。

 リュージは仲間たちとともに、カミィーナの外にいた。


 がらがらがらがらーー………………


 草原を馬車がゆっくりと走っている。

 その横をリュージたちが警戒しながらついていく。


「りゅーくんりゅーくん」

「……母さん、今は違うでしょう」

「おっとそうだった。お母さん! 今日の任務は商人の護衛任務でいいんだよね!」


 母がリュージの体で、そう言う。

 体が入れ替わったからといって、仕事を休めるわけには行かない。

 なのでリュージは、入れ替わりの事実を隠して、こうして冒険者として任務に就いている。


「そうだよか……リュージ。隣町まで行く商人さんの馬車を守るのが任務」


 ちらっ……とリュージは仲間たちを見やる。

 ルトラは荷台の上に乗り、あたりを警戒している。

 シーラは荷台の中で、戦闘に備えていた。

 母とリュージは、荷台の横を歩いている。

「……本当に大丈夫なの、母さん?」


 リュージが母に、声をひそめていう。

 今、母の体に入っているリュージの方が、カルマより背が高い。

 腰をかがめて、母の耳元で言う。


「なにがですか?」

「だからその……力加減とか」


 先ほどのギルドホールでのこと。

 母はすごい力を発揮していた。


 大人を軽々と持ち上げて、ぶんなげ、それを壁にめり込ませていた。

 またフォークを投げただけで、壁につきさせていた。


 リュージでは、考えられないほどの腕力だ。

 ……そこにリュージは違和感を覚えた。


「力加減は大丈夫です! お母さんにお任せあれっ! りゅーくんのすべてはお母さん、把握してますからっ」


 笑顔でそう言う母に、リュージはやはり一抹の不安を覚える。


 そう……今の母は、リュージの体に入っている。

 つまり、母の体には、邪神のチカラはない。


 母が規格外チート能力を発揮できるのは、その身に邪神王ベリアルのチカラを宿しているからだ。


 隕石を破壊し、万物を創造できいるのは、カルマの持つ邪神のチカラがあってこそ。


 今の母は、リュージの体の中にいる。

 邪神のチカラを、母は持っていないはず。

 だのに、あのギルドでのとんでもパワー……。

 あれは、どういうことなんだろう……?


「りゅーくんどうしたの? 浮かない顔してますよ?」

「大丈夫だから。それと演技忘れてるよ」

「おっとすみませんっ! お母さん! 笑って! ぼくお母さんの笑顔だぁいすきっ♡ なんって! なんつって~!」


 えへへ~と上機嫌の母。

 それを見ていると……考えるのがアホらしくなった。

 やめよう。

 きっと母も魔力操作の技を使ったんだ。


 以前冒険者学校に通っているとき、リュージは魔力を使って身体強化するすべを身につけている。


 それを使えば、大人を投げ飛ばすことは可能だ。

 つまり母はその力を使ったのであろう。

 ……とは言え疑問がある。

 母はいったいいつ、魔力操作による、身体強化を身につけたのか……と。


 考えていたそのときだ。


「リュージ! 前方! ゴブリンの集団!」


 荷台に載っていたルトラが、警戒しながら言う。

 リュージは思わず背中に手を回す。

 ……が、そこに剣がないことに気付いて、正気に戻った。

 今のリュージは、母カルマの体の中にいる。

 いつも持っている剣は、今母が持っているのだ。


「…………」


 母は、リュージの体を自在に操っていた。

 だが反面、自分はどうだろうか。

 リュージはカルマという、最強のチカラを手にしているはずなのに、何もできない。

 どうすれば母のように、最強無比のチカラを使えるのか……わからない。

 チカラ不足は前から痛感していたこと。


 今はチカラを手にして、どうしていいかわからない……という情けない自分に、嫌気がさしていた……そのときだ。


「だぁいじょうぶです、りゅーくん♡」


 カルマが、にこりと笑ったのだ。

 そして背中の剣を抜く。


「お母さんにお任せあれ。きっちり、冒険者としての仕事と、そして息子の演技をしてみせます」


 カルマはそう笑うと、剣を持って……荷台の上に乗った。

 リュージも慌てて、荷台の上によじ登る。

 遙か遠く、ゴブリンが集団をなして、こちらへとやってくる。

 まだ距離があるものの、ぼやぼやしていたら、あっという間にゴブリンの波に飲まれてしまうだろう。


「どうする、リュージ?」


 ルトラが弓矢を構えながら言う。

 カルマはこくりとうなずく。


「さがりなさいルトラ。ここはぼくがやります」


 そう言って、カルマは荷台の上を歩く。

 少し歩いて、腰を落とす。


 剣を構えている。

 ……あれはこの間、冒険者学校の卒業試験で使った、リュージの剣技だろう。


 母はリュージの力を持って、ごぶりんと戦おうとしているのだろう……とおもったそのときだった。


 すっ……とカルマが右手を構える。


「母さ……リュージ?」

「大丈夫。手加減は得意なのですよ」


 にこりと笑うと、カルマは言う。


「超初歩の魔法……初級火属性魔法、【火球】!」


 それは、魔術師ならレベル1から使える、超レベルの低い魔法だった。


 そう、魔法だ。

 カルマは指先に、魔法の炎を宿していた。

 ありえない。

 リュージの体では、魔術師ではないから、使えない。

 なら、母はいったい……どうやって……?

 

 困惑するリュージをよそに、カルマが指先に出した魔法の炎を、ぴん……っとはじく。


 小さな火の玉は、前方へと飛んでいく。

 やがてゴブリンの集団の前で……。


 どおっっごおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!


「…………」

「…………」


 リュージも、ルトラも。

 その場に腰をついて、腰を抜かしていた。

 カルマが指先から放った火の魔法は、ゴブリンたちのところで、一気に爆ぜたのだ。

 激しい爆炎が周囲一帯を焼け野原にしたのだ。

 爆心地はくぼみ、地面はガラス化している。


 そしてゴブリンは一人残らず、消滅していた。


「ふぅ……」

「りゅ、リュージあんた! なにしてるのさっ!」


 ルトラが驚愕で目を見開き、カルマの胸ぐらをつかむ。


「え? ゴブリンを魔法で消し飛ばしただけですけど?」

「けしとばしたって……あんたいつの間に魔法を?」


「ふふん。おか……ぼくはいつだって進化してるんです。魔法使えるようになっていたんですよ」

「……だからって、あの威力はおかしいでしょ!?」


 するとカルマが、きょとんとしながら、こう言った。


「え? りゅーく……ぼくなら、あれくらい普通にできますよね?」


 こ、この母……!

 リュージを……過大評価しまくっている!


「「あんなの普通じゃないから! おかしいからー!」」


 ルトラも、そしてリュージも、カルマに向かってそう叫んだのだった。

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