94.邪竜、ギルドで普通を演じてみせる
息子と中身が入れ替わった翌日。
朝。冒険者ギルドにて。
カルマ(リュージの体に入っている)は冒険者ギルドへとやってきていた。
「リュージくん。おはよーなのです!」
「おはよ、リュージ」
ギルドホールにはウサギ獣人のシーラ、および人狼のルトラがいた。
シーラとは同じ家で住んでいるが、今朝は先に出てもらったのだ。
息子との打ち合わせをしている現場を、この少女に見られたくなかったからだ。
「ええ、おはようございますシーラ! ルトラ! 今日もキレイですね、美しい花のようです。さすがりゅーく……僕の嫁だけはあるね」
「ふぇ……?」
「リュージ、あんたなにいってるの……?」
シーラは目を丸くし、ルトラは怪訝な目を向けてくる。
「そ、そんな……きれいだなんて。お嫁さんなんて……りゅーじくん気が早いよぅ……」
シーラは顔を真っ赤にして、照れていた。
「か、母さ……じゃなかった。りゅ、リュージ、変なこと言わないのっ……!」
するとカルマの背後から、女性の声がした。
振り返るとそこには、黒髪長身の美女が立っている。
そう……彼女こそは、【リュージ】の母親。名前を、
「りゅーくんっ!」
「違う!」
「ハッ……! そうだった。お母さん♡」
「はぁ……」
違った。この女性は中身はリュージだが、外はカルマなのだ。
「カルマさんっ。どーしたのです?」
シーラが無垢な瞳を、リュージに向ける。そうこのウサギ少女には、入れ替わりのことは伝えてない。
シーラには余計な心配をさせたくない、という天使の提案なのだ。
「えっと……リュージが心配で。何しでかすかわからないし……」
リュージが、しまったみたいな顔になった。
何でそんな顔になるのかよくわからないが、息子の演技は2兆点だと思った。
「そっかー。わかったのです! きょーはカルマさんと一緒に冒険できて、しーらうれしーなのです!」
「うう……ごめんよシーラ……」
なぜか知らないが息子が申し訳なさそうだ。
励まさねば!
「大丈夫だよお母さん! ぼく、お母さんと冒険できてウルトラハッピー! まいにちでもお母さんと冒険したいよー!」
うん、決まった……完璧な演技だ。
優しい息子は、母が落ち込んでいたら励ます。
そして息子は母のこと大好き。
ゆえにこんな感じだとカルマはひとり、自分の演技のできに惚れ惚れとした。
と、そのときである。
「ぷっ……」
「ぎゃはははは!」
「なんだよあいつぅ、ママと一緒に冒険できて嬉しいだってさ~」
ギルドホール。
リュージたちのそばにいた、冒険者たちが、こちらを見て馬鹿にしてきたのだ。
おそらくは最近入ったばかりの駆け出し冒険者なのだろう。
……リュージたちのこと、否、カルマを知らないとは、命知らずの冒険者もいたものだ。
「……ごめんね、かあさ……リュージ」
カルマの体に入っている息子が、息子にそう言ったのだ。
優しい子だ。
自分のせいで、カルマが馬鹿にされたことを気にしているのだろう。
そんなリュージが、優しくて、大好き。
だからこそ、カルマは彼を守りたいと思うのだ。
「おい」
カルマは、リュージたちを馬鹿にした冒険者たちのもとへ行く。
その一人の胸ぐらを、カルマがつかんでひねりあげる。
「誰だ……いま僕の大事なお母さんを馬鹿にした奴は?」
「か、かあさ……リュージ! やめてよ!」
息子が止めようとしているが、カルマはお構いなしに続ける。
冒険者の一人を、片腕1本で持ち上げる。
「な、なんだこいつ……!? こんな華奢なのに!」
「謝罪しろ。僕に謝れ。お母さんに謝りなさい」
「なんでマザコン野郎に謝んねえといけねーんだよ!」
冒険者が叫ぶ。
カルマは冷静な声音で、
「そうですか。では消えなさい」
冒険者を持ち上げたまま、ブンッ……! と真横に投げ飛ばす。
「うぁあああああああああああああああああああああ!!!」
どがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!!
冒険者は超高速で吹っ飛ぶと、そのままギルド入り口から遠く離れた壁に激突した。
カルマは近くのテーブルに置いてあったフォークを手にする。
軽く、壁に向かって、フォークを投げた。
ブンッ……!
びしぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!
「ひぎぃいいいいいいい!」
フォークはギルドの壁に易々と突き刺さった。
まるで豆腐に突き刺しているかのようだ。
「次は当てるぞ? 後の二人も……ああなりたいか?」
冷たい表情を、リュージたちを馬鹿にしてきた冒険者に向ける。
「す、すみませんでしたー!」
「馬鹿にしてごめんなさいいいいいいいいいいいい!」
壁に埋まっていた冒険者を放置して、残り二人がギルドホールから一目散に逃げていく。
出入り口を出たところで、
「待ちなさいな」
カルマ(リュージの体に入っている)は壁に埋まっている冒険者の元へ行く。
ベリッ……とそいつを引きはがす。
「忘れ物です。持って行きなさいな」
カルマは気絶するそいつの胸ぐらをつかんで、ブンッ……! と軽く投げる。
ビュォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
突風のように、気絶する冒険者が飛んでいく。
それは逃げていった二人に激突し、
「「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」」
と悲鳴を上げた。
カルマはふぅ……と吐息をつく。
「りゅーくんっ♡ 悪い奴らをやっつけたよー!」
ほめてー! と笑顔でカルマが言う。
だがカルマの体に入ったリュージが、頭を抱えてその場にしゃがんでいた。
ハッ……! と我に返る。
しまった……今はリュージなのだった!
つまり……。
「お母さんっ、僕、母さんを虐めた悪い奴らを倒したよっ! ほめてー!」
「そういうことじゃないからっ! もうっ! どうしてそうこらえ性がないかなー!」
なぜか知らないが、息子に叱られてしまった。
なにゆえ……?
とにもかくにも、こうして冒険者としての生活は、波乱の幕開けを迎えたのだった。
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