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93.息子、母になる


 冒険を終えて、仲間のルトラと別れ、シーラとともに家に帰ってきた。


 それから数十分後。

 リュージたちの家のリビングにて。


「ハァイ、カルマ。リュー。元気?」


 突如として現れたのは、長身で、垂れ目のエルフだ。

 くすんだ色の金髪。

 人の顔よりもさらに大きなバスト。

 紅の引かれたその唇は、ぷるんとみずみずしい。


 このエルフお姉さんは、邪竜カルマアビスの【監視者ウォッチャー】。

 名前をチェキータと言った。


「チェキータさんっ」


 カルマの体に入っているリュージが、彼女を見て嬉しそうにする。

 このお姉さんは、すごく頼りになるからだ。


「またあなたですか。こちらの許可なく家に入ってくるとか。毎度不法侵入はやめてくださいよ。即刻お帰りください」


 リュージの体に入っているカルマが、チェキータを見てけっ……! と悪態をつく。

「あらあら。これはこれは……」


 チェキータが頬に手を当てて言う。

 いつもの余裕は少しなりを潜めていた。


「チェキータさん……あの、実は大変なことが……」


 母となったリュージが、チェキータのそばまでやってくる。


 すると、すぅ……っとチェキータが消えた。

 どこへ行ったのかと思った……そのときだ。


 ふにゅんっ♡


 チェキータが背後から、リュージの胸をもんできたのだ。


「ちぇ、チェキータさん何を……?」

「ふむふむ」


 ふにゅっ♡ ふにゅっ♡


「ひゃあっ……! あ……や、やめてくださいチェキータさん……ひゃんっ!」


 チェキータがもみもみと、リュージのおっぱいをもむのを辞めない。


「や……やぁ……やめ……て……」

「やめろこの無駄肉エルフー!」


 リュージ(の体に入った母)が、憤慨しながら、チェキータの元へ近づく。

 軽く助走し、チェキータめがけて、母が蹴りを食らわせる。


 母の蹴りが決まる前に、チェキータがすぅ……っと消える。


「チッ……! 消えやがったか……」


 母がリュージの顔のママ、周りをにらんみつける。


「えい♡」


 はぷっ♡


「はひゃぅうう!」


 今度は母(INリュージ)の背後に、チェキータが出現。

 カルマの耳を、はぷっと甘噛みしてきたのだ。


「あ・な・た・は! 何してくれるんですかこらー!」


 母がウガーと吠えながら、手を振り回しす。

 チェキータはちょうのような身軽さでそれを避ける。


「ふーむ……本当にリューとカルマとで、中身が入れ替わっているみたいね」


 チェキータが真剣な表情で、リュージたちを見て言う。


「私がそういったではありませんか!」


 チェキータを呼んだのはカルマだ。

 ある程度の事情は軽く説明してある。


「こういうのは実際に目で見て確認しないとね。まぁ座ったら、ふたりとも」


 チェキータがイスに座る。

 リュージたちもまた座った。


「さて……いったいぜんたい、どうしちゃったのかしらね?」

「わかりませんよ。さっぱり」


「カルマ。またあなたが何かしたんじゃないの?」

「またってなんですかまたって」


「こういうロクデモナイ自体のだいたいの原因はカルマ、あなたにあるじゃない?」

「まさか……そんなことないでしょう。ね、りゅーくん♡」


 カルマが、リュージの顔で笑顔を向けてくる。


「えっと……そんなこと、ない、かも?」

「ほーーーーーーーーーーら! りゅーくんがそんなことないって! じゃあそんなことないの!」

 

 カルマは立ち上がると、拳を握りしめて言う。


「りゅーくんが言ったことが世界の摂理なのですから!」

「か、母さん辞めてよ……」


 なんだかいつも以上に母の言動が恥ずかしかった。

 自分リュージの体で、カルマが言っているからだろうか。


「まぁカルマの言ってることはほっといて。リュー、何か心当たりない?」

「えっと……入れ替わる寸前、僕と母さん、激突してるんです」


 カルマは宇宙空間へと飛び立っていった。

 用事を済ませて、地上へと降りてきた。

 そのあまりのスピードにブレーキがきかず、カルマとリュージは激突。

 結果、中身がいれ変わっている次第。


「単純に考えると、ぶつかった衝撃で中身が入れ替わった……ってことかしら」

「信じられないですよね……そんなこと、ありえるなんて……」


 チェキータとリュージが、ふたりとも首をかしげる。

 その一方で、カルマがきょとんとして言う。


「そうですか? 結構ベタなシチュエーションではないですか」


 真顔で小首をかしげるカルマ。


「頭と頭がごっつんこ! もしかしてアタシたち……入れ替わってるー! 的なよくあるやつじゃないですか」


 と母が説明しているのだが……。

 リュージとチェキータは、母の言っていることがよく理解できないようだった。


 まあ今日に限らず、カルマはちょいちょい妙な言動を取るから、いつも通りと言えた。


「……【願望成就】スキルが無自覚に発動した? いやでもスキル発動の形跡はないようだし……」


 ぶつぶつぶつ、とチェキータが何事かを呟く。


「チェキータさん……僕たち、どうなっちゃうんでしょうか?」


 リュージが不安げに、エルフを見やる。

 お姉さんエルフは、「だぁいじょうぶよ♡」と微笑むと、リュージの頭をぽんぽんと撫でる。


「大丈夫、お姉さんがすぐに原因調べてくるから」

「ほんとですかっ?」

「ええ♡ しかし……えいっ♡」


 チェキータは楽しそうに、リュージの体に抱きつく。


「わわわっ」

「ふふっ♡ リューとカルマが中身入れ替わっているから、カルマが急に素直でかわいい女の子になったみたいでかわいいわぁ♡」


 むぎゅーっとチェキータがくっついてくる。


「離れろこのセクハラエルフ!」


 ぶんっ! とカルマがまた跳び蹴りをくらわせる。

 チェキータは楽しそうに避ける。


「そしてリューは年相応のやんちゃな男の子になったみたいで……とってもかわいい♡」

「うっさい! さっさと調査に向かいなさいな!」


 はいはい、といってチェキータはカルマとリュージから毛髪を採取し、その場から消えた。

 王都にある国立研究機関へともっていき、状態を調べるらしい。


 後にはリュージと、そしてカルマだけが残される。


「これから……どうしよう」


 リュージは不安げに声をひそめていう。

 もしもこの先もずっと、中身が入れ替わったままだったら……。


 母に立派に成長したところを、自分は永遠に見せられないではないか。


 浮かない表情のリュージとは対照的に、カルマは超ご機嫌だった。


「大丈夫! りゅーくん、お母さんにお任せあれっ☆」


 びしっ! とカルマがリュージの体で、横ピースする。

 リュージは猛烈に嫌な予感がした。


「お母さん、見事りゅーくんを演じきって見せます!」

「え、え、え? なになにどういうこと?」


「つまりりゅーくんは、周りから奇異な目で見られるのが嫌なのでしょう? おまかせあれ! お母さん、りゅーくんの特徴とかもうばっちりしっかり頭にインプットされてますから!」


 こ、この母……もしかして……。


「え、まさか僕の体で日常生活を送るつもり!?」

「はい」


「まさか冒険もいくつもりなの!?」

「もちのろんです。お母さんにお任せを。ちゃんとりゅーくんの変わりを、努めて見せます!」


 リュージは青い顔をしてその場にへたり込んだ。

 この常識知らずの破天荒お母さんが、今リュージの体に入っている。


 つまりは、リュージの体で、カルマが【やらかす】ということだ。


 何かしでかすのでは、ではない。

 この母が何もしでかさなかったことなど一度たりともなかった。


 ……今回は、リュージの体で不始末をつけるつもりだ。


「母さん……その、チェキータさんが帰ってくるまで、おとなしくしてない?」


「まさかっ! せっかく息子の体には入れたのですよ……」


 カルマが目を閉じて、自分の体を抱きしめる。


「お母さん今……息子と一体化している……ああ……とてつもない充足感を覚えます……」


 ……どうやらこの最強ドラゴン、この状況を、楽しんでいた。


 リュージはため息をついた。


「不安だ……めちゃくちゃふあんだ……」

「どうしたのりゅーくん? いじめられたの。誰に? 教えてこの聖剣エクスカリ棒でむ゛んっ! ってやっつけてやるから!」


 いつの間にか取り出した金棒を見て、リュージは深々とため息をついた。


 ……かくして、受難の冒険者生活(親子入れ替わり版)が、スタートしたのである。

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