11.邪竜、息子の武器を強化する
お世話になってます!
リュージがお母さんのご飯でパワーアップした、その日の夜。
「むぅ……こっぴどく怒られてしまいました」
カルマはリビングにて、【とある作業】をしながら、ひとりごちる。
息子とその友達は、すでに2階で寝ていた。
「いったい何がいけなかったのか……さっぱりわかりませんね」
と、そのときである。
【カルマ、あなたそんなこともわからないの?】
……と、どこからともなく、女性の声がするではないか。
「うるさい黙れ」
【はいはいごめんなさいよーっと】
あたりには、だれもいない。
リビングにはカルマしかいないはずなのだが……。
「てゆーか姿を消して声をかけてくるのやめてくれませんか?」
【だぁって姿見せたら監視の意味ないじゃない?】
「すでに私に話しかけてる時点で、監視の意味ないでしょうが。とんだ【監視者】もいたものです」
するとすぅ……っと、どこからともなく、一人の女性があられた。
長身のエルフだ。
長い金髪を髪留めでアップにしている。
特筆すべきは長い耳と、そしてとんでもなく大きな乳房。
巨乳のカルマを、さらに上回るほど大きな、爆乳という言葉がふさわしい乳房をしていた。
「ハァイ、カルマ、こんばんは」
「……けっ。私を監視する人間が、どうどうと姿をあわらすんじゃないですよ」
「まあまあ。いーじゃないのよ」
ケラケラと笑うエルフ。
カルマは顔をしかめる。
エルフの顔は、赤らんでいた。目が潤んでいる。
「……あなた酒臭いですよ」
「だって酒飲んでたもの~」
「酒飲みながら国王からの任務にあたっていたのですか。人選ミスってませんかね?」
「まあまあ」
……とは言うものの。
このエルフは、ついさっきまで姿を消していた。
声をかけられるまで、その存在を完全に隠していた。
しかしエルフは酒を飲んでいて、そのにおいが服についている。
……だのに、カルマはエルフの姿を見つけることができなかったのである。
エルフが姿を現した瞬間、においが鼻をついたのである。凄まじい隠匿スキルだ。
「ところでカルマ。あんた何してるの?」
エルフがカルマのそばによる。
カルマは、リビングの端っこで【とある作業】をしていた。
カルマの手元には、銅の剣がある。
「それ【リュー】の剣じゃない」
「ええそうです。りゅー君がギルドから支給された剣です」
「それを何してるのよあんた?」
「別にあなたに答える義務はない」
カルマは銅の剣を持って、右手を差し出す。
ブンッ……! と右手が光る。
カルマはそのまま、剣の腹に、指先で文字を刻んでいく。
それはこの国の言語ではなかった。
「【ルーン】文字ね。あんたそんなのも知ってるの?」
「邪神を食ったことでその知識も引き継いでるんですよ。てゆーか近寄らないでください。酒臭い」
顔をしかめるカルマ。
エルフはカルマの背中に密着している。
「【火属性】と【高速化】と【武器攻撃力上昇】ね」
「あなたもルーンを知ってるのですか?」
「まー、お姉さん長く生きてますからな」
「なーにがお姉さんですか。この年増。子供をふたりも産んでいるくせに」
いっけんすると若く美しいエルフだが、こう見えても二児の母なのだ。
「身体は母でも心はいつでもお姉さんなのよ。わからないかなー」
「あなたの言ってることは1ミリたりとも理解できませんね」
カルマはエルフを無視して、銅の剣に文字を書き込んでいく。
ややあって完成。
「ふぅ……クリア……」
やりきった職人の顔で、カルマが満足そうにうなづく。
「あんたまたリューに余計なことするつもり?」
エルフがあきれ口調で言う。
「余計なこととはなんですか? 必要なことでしょう」
「いやぁ、カルマ。それ、余計なお節介だと思うわよ」
エルフはカルマから銅の剣をひょいっと奪う。
そして軽く剣を振るう。
ずばぁあああああああああああん!!!
と、軽く振っただけで、リビングの壁にふかい傷を作る。
そして次の瞬間、ごおぉおおお…………!!! と壁が燃え出した。
カルマは即座に万物破壊のスキルを発動。炎と、傷ついた壁をすぐさま消す。
そして万物創造スキルを使って、壁を元通りにする。
「何するんですか。監視者から放火魔にジョブチェンジですか?」
「違うわよー。ごめんね。けどこんな強い武器、あの子に扱えるのかしらね」
ひょいっ、とカルマに剣を投げてよこす。
カルマはそれを受け取り、首をかしげる。
「天地創造の神にしてこの世唯一の神であるりゅー君に、不可能なんてあるわけないじゃないですか?」
「真顔でとんでもないこと言うわねー」
はぁ、とエルフがため息をつく。
「……前から言ってるけど、あの子は普通を望んでるのよ」
エルフの言葉に、カルマが「けっ……!」と悪態をつく。
「よそ者はすっこんでてください。これは家族の問題です」
「まー、そうなんだけどさ」
エルフを放っておいて、カルマは息子の道具に【ルーン文字】を刻んで強化する。
その間、エルフが話しかけてくる。
「親の過干渉って、この時期の男の子には辛い物よ」
「知ったような口をきくんじゃないですよ」
「二児の母だもの。子供のことはわかるつもりよ」
するとカルマがキッ……! とエルフをにらむ。
「あーそうですね。あなたは母親ですよ。私は所詮腹を痛めて子供を産んだことないドラゴンですよ! だからって偉そうにすんじゃないですよ!」
カルマからの怒気を当てられても、しかしエルフは「はいはいごめんねー」と軽く受け流す。
……受けただけで、オークたちが死んだ覇気をあびても、エルフはまったく平気そうだ。
「あんたまだ、お姉さんがリューにおっぱいあげたこと妬んでるの? もう15年も前のことじゃない」
「息子にお乳をあげるのは母の役目なのっ! それを私から奪いやがって!」
「無茶言うんじゃないわよあんた、あのときも処女でしょ? 今もだけど」
すると「だからなんだよばーーーか!」と顔を真っ赤にして怒鳴るカルマ。
「リューにご飯あげないとあの子死んじゃうでしょ。だからお姉さんがやってあげたんじゃない。ほんとは監視者は対象に干渉しちゃいけないのよ」
「じゃあ干渉しなくていいじゃないですかっ!」
「そしたら死んでたけど良いの?」
「うぐ……うぐぐぐ……うごごご……」
懊悩する母。
確かにリュージが赤ちゃんだった頃、食事は主にこのエルフから与えてもらっていた。
そのほか赤ん坊の世話など一度もしたことないカルマに、あれこれと教えてくれたのも……この女である。
悔しい。
母として、負けた気がして、悔しい。
だからこそ……カルマはこいつが嫌いだった。
「というかエルフの身体はどうなってるのですか。子供を産んだのってもう何年も前なのに、どうしてあのとき母乳が出たのです?」
「ま、そういう体質なのよエルフって。今も出るわよ、飲む?」
「飲みませんよっ!」
馬鹿の相手している間に、リュージの道具を全て強化し終える。
「完璧です。これでりゅー君は安全に冒険に出れます」
ふふっ、と微笑むカルマ。
「あーあー、知らないわよぉ。リュー絶対怒るから」
頭の後ろで腕を組み、エルフが言う。
「うっさい。監視者はおとなしく監視だけしてれば良いんですよ」
「そーね。……ま、失敗するのもあんたには必要なことか」
うんうん、とエルフがうなづく。
「その訳知り顔、最高にむかつくのでとっとと消えてください」
しかめっつらでカルマが言う。
エルフは「はいはい。んじゃね、カルマ」
挨拶した瞬間……エルフは消えた。
どこかへ行った……ではない。
その場で、消えたのだ。
音もなく、前触れもなく、消滅したのである。
【リューのこと、あんまりいじめないようにね~】
と声だけ残して出て行った。
……らしい。ドアも窓も閉まっているのに、どうやって出て行ったのだろうか。
「ふんっ。いじめてなんてないですよ。これは母の愛。まざーずらぶですよ」
ふふっ、と笑う母。
「息子のために夜なべする……すごくお母さんっぽいですよ、今の私っ!」
うふふふえへへ、と笑うカルマ。
こうして、強化された武器を作った母だったが。
その翌日の、夜。
ダンジョンから帰ってきたリュージは、
「母さんっ! 余計なことしないでっていったじゃん! もうっ! なんなのあの武器ー!」
と怒っていた。
珍しくあの女の言ってることは、正しかったなとカルマは思ったのだった。
夕方ごろにまた更新します!できるように、頑張ります!
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ではまた!