91.邪竜、息子のデートについていく【その3】
デートにやってきているリュージ。
街でウサギ獣人シーラ(と母)と合流した後、ふたりは街を見て回ることにした。
「じゃあ少し歩いて、12時くらいになったら、お店へ行ってお昼ご飯にしよっか」
「はいなのです! お昼ご飯楽しみだなぁ~」
じゅるり……とシーラがよだれを垂らす。
この小柄なウサギ少女、見た目に反して、かなりの大食いなのだ。
「それじゃ……いこっか」
リュージは恋人に、手を伸ばす。
シーラはうさ耳をぴょこっと立たせ、ぱたぱたと羽ばたかせる。
「はいっ!」
シーラがその小さな手を差し出す。
ふたりは手をつなぐ。
恋人同士なのだ。手をつないで歩くことくらいする。
シーラの手は小さく、そしてぷにぷにとしていた。
リュージはシーラの手の感覚に、顔を赤らめる。
それは向こうも一緒らしく、シーラも頬を赤く染めていた。
「りゅーじくん……手がゴツゴツしてる。男の子の手なのです。かっこいーのです!」
「えっと……その……ありがとう」
ふふふっ、とふたりは笑い合う。
そんな甘い空気を、ぶち破るドラゴンが
一匹。
「はいっ!」
カルマがすごい笑顔で、リュージに手を差し出してきた。
「えっ?」
「えっ?」
リュージも、そしてカルマさえも、目を丸くしている。
何驚いてるのだこのお母さん……?
「母さん、どうしたの?」
「え、手をつなぐのでしょう?」
「誰と?」
「お母さんと」
はぃ~? とリュージが素っ頓狂な声を出す。
「はいっ!」ずいっ。
「えっと……」
ここで強く拒めば、母は凹んでしまうだろう。
母は最強のチカラを持つわりに、メンタルが弱いのだ。
「あのね……母さん。僕らデートに来てるの」
「ええ、知ってますとも。息子と嫁候補がデートに来ている。とても良いことです。恋人にとって、仲を深めるデートという行為には、大いに意味がありますね」
うんうん、とカルマが訳知り顔でうなずく。
「しかしそれはそれ。これはこれ」
それは置いといて、とジェスチャーをするカルマ。
「見たくださいりゅーくん。この人混みを。こんな中で歩いていたら迷子になってしまいます」
キリッとした顔でカルマが言う。
「りゅーくんが迷子になったら大変です。お母さんと手をつなぎましょう」
「迷子って……僕もう15だよっ? 迷子になんてならないよ!」
母はまだ、リュージが小さな子どもと思っているらしい。
こうして息子を、ともすれば赤ん坊のように扱ってくる。
ただ勘違いして欲しくないのだが、母のこれに悪気はない。
本当に心配しているのだ。
「ダメです。町中で迷子になったら大問題。ということでりゅーくん、お母さんと手をつなぎましょう」
ガシッ! とカルマが手をつなぐ。
リュージは手を振りほどこうとするが……。
「う、動かない……!」
母は最強の邪竜。
腕力も最強。
ゆえに非力なリュージでは、母のホールドを振りほどけないのだ。
「ささっ♡ りゅーくん。恋人をいつまでも待たせてはいけませんよ。デートへ出発! れっつごー!」
「うう……どうしてこんなことに……ごめんねシーラ」
迷惑かけている恋人に、リュージは謝る。
しかしシーラは、「ふぇ……?」と首をかしげる。
「りゅーじくん、どーして謝ってるのです……?」
「いやあの……母さんが……その……」
なんと説明した物か。
まさか僕らの甘い時間を、母が邪魔してごめんね……みたいな。
プレイボーイみたいなことは、恥ずかしくて言えないリュージである。
「シーラ。お母さん何かあなたに、してしまったでしょうか?」
「ううん。カルマさんは何もしてないのです」
「でしょう? りゅーくんはどうして謝ったのでしょうか?」
「わからないのです……むむ、不思議なのです……」
ううーむ、と首をかしげるシーラと母。
ふたりともちょっと天然が入ってるのだ。
「はぁもう……いいよ。行こっか」
「「おー!」」
リュージは左に母、右に恋人という感じで歩く。
美女と美少女に挟まれたリュージは、とてつもなく目立った。
「どこへ向かいましょうか、ふたりとも?」
「しーらはりゅーじくんが行きたい場所に行きたいのです!」
「お母さんもです。ふふっ、シーラ。気が合いますね♡」
「あうのですー!」
仲の良い母とシーラ。
ふたりが手をつないでいたら、仲の良い親子に見えるだろう。
問題は間に、実の息子を挟んでいることだ。
なにゆえ母親同伴で、恋人とデートをしなければならぬのか……?
悩みもだえるリュージをよそに、三人はカミィーナの大通りを歩く。
休日と言うことで、外に出店が多数並んでいた。
仮設テントからは、甘い匂いや、香ばしい匂いがただよってくる。
ぐぅうう~~~~~……………………。
「あうぅう……」
シーラが顔を真っ赤にする。
今の音は、彼女のお腹から聞こえてきたのだ。
「まったくシーラ。あなたこれからりゅーくんとお昼ご飯を食べるというのに、もうお腹すいたのですか。こらえ性がありませんね。マイナス10ぽいんと!」
「あうう……ごめんなさいなのですぅ~」
母がきりっとした表情で言う。
シーラと仲良くなったが、息子関係ではまだまだ厳しいカルマであった。
「シーラ、謝らなくて良いから。お昼前だけど、何か軽くつまもうか」
「いいのですっ?」
リュージがうなずく。
「恋人に気を使える。息子の優しさ。5兆ポイント!」
カルマが息子も採点する。
だが激甘判定だった。
リュージたちは考えた末、クレープを食べることにした。
だが……。
「うわぁ……並んでるね」
「すっごい行列なのです~」
どうやら人気のクレープ屋であるらしい。
長蛇の列ができていた。
一番後の人が、【待ち時間2時間】というプラカードを持って立っている。
「二時間か……別のところにする」
「はいなのです!」
シーラが明るくうなずく。
しかしそのあと、見えないところで、小さく、残念そうに吐息をつく。
ここのクレープが食べたかったようだった……。
「やっぱり、並ぼっか」
とリュージが笑いかける。
「いいのっ?」
「うんっ。おしゃべりしながら待ってらすぐだよ、きっと!」
「えへへ~♡ りゅーじくん、優しくって大好きなのですっ♡」
リュージは恥ずかしくて、頬をかいた。
順番が車で、おとなしく待つことになったわけ、だが……。
おとなしくできない母が一人……。
ごごごごごご…………!!!!
そのとき上空から、すさまじいプレッシャーを感じた。
リューが上を見上げる。
カルマが空に浮いていた。
その右手には、巨大な火の玉が出現している。
「な、なんだぁ!?」「でけぇ!」「【火球】……いや、あれは最上級火魔法【煉獄業火球】だ!」
クレープ屋に並んでいた客たちが、母を見て瞠目していた。
「聞け。愚かなる人間どもよ」
カルマは冷たい表情で、右手に業火を宿しながら言い放つ。
「貴様らの命が惜しくば退け。でなければ、地獄の炎が貴様らの体を焼くだろう」
カルマが魔法の炎をかまえながら言う。
炎の球は、どんどんと大きくなっていく。
「10秒待ってやる。1つ……」
2秒もまたずに、その場にいた客たちが、蜘蛛の子を散らすかのように逃げていった。
ややあって、クレープ屋の前には、リュージたち以外誰もいなくなる。
カルマは魔法の炎を納める。
華麗に着地し、息子たちににっこりと笑いかける。
「さっ! 邪魔者いなくなりましたよ。クレープを」
「かーーーさーーーーーん! もーーーーーーーーーーー!!!」
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