91.邪竜、息子のデートについていく【その1】
リュージが冒険者学校を卒業した、その日の夜。
我が家にて。
彼は自分の恋人である、ウサギ獣人の部屋を、尋ねていた。
コンコン……。
『だれなのですー?』
「僕だよ、リュージ」
どたばたがっしゃーん!
ドアの向こうから、大きな音がしたではないか
何かが落ちる音、崩れる音がした。
「だ、大丈夫シーラ!?」
『だだだっ、大丈夫なのです! そそっ、それより……ど、どうしたのです?』
「えっと……シーラと二人きりでお話したくてさ。その……いいかな?」
どんがらがっしゃーん! ぱりーん!
「し、シーラっ? 大丈夫ッ? 何か割れた落としたけど?」
『へへへへ、へいちゃらなのです!』
「そう……ならいいけど」
『その……準備があるから、ちょっとお外で待っててほしーのです!』
リュージは了承。
しばし恋人の部屋の前で待つ。
中からはドカーン! だのガッシャーン! だのと、大きな音が連続して聞こえてきた。
いったい、中で何が……?
ややあって。
『ど、どうぞー!』
「うん。えっと……失礼します」
返事があったので、リュージはドアを開ける。
中は、リュージと同じ間取りの部屋が合った。
だが壁紙や小物が実にファンシーである。
ぬいぐるみがところかしこにある。
そしてなんだか甘い匂いがする……。
「あうぅ~……じろじろ見ないでぇ~……」
シーラが顔を真っ赤にして、両手で顔を隠す。
うさ耳がぺちょんと垂れてかわいかった。
「ご、ごめんね! 部屋の中じろじろ見て」
「あぅ……でも……でも……りゅーじくんは、特別なのです。見ても、いいのです……」
上目遣いのシーラ。
そこで気付いたのだが、彼女がなんだか、薄着をしていた。
真っ白なワンピース。
その上から、薄手のピンクのカーディガンを羽織っている。
スカートの丈から伸びた生足が、ふっくらとして健康的だった。
シーラの肌を見て、ドギマギとしてしまうリュージ。
「あうぅ……あう……」
それは向こうも同じらしく、リュージを前に、シーラは顔を赤らめていた。
「「あの……」」
声が重なる。
「ごめんね。先どうぞ」
「えっと……中に、どうぞ」
言われ、そういえば立ちっぱなしだったと気付く。
リュージは恋人の部屋に入るということと、恋人の薄着に、見とれてしまっていたのだ。
リュージはシーラに言われ、部屋の中に入る。
クッションをそっ……とシーラが出してくれた。
その上に座る。シーラは正面に座った。
「それでその……あのえと……あうぅう……おばーちゃん……緊張するよぅ」
もじもじとシーラが身をよじる。
まだ緊張しているのか、そわそわと体をせわしなく動かしている。
「シーラ……その、そうだ。ちょっと待ってて」
リュージはいったん外に出る。
台所で湯を沸かし、シーラの部屋へと帰ってくる。
手にもつお盆には、ポットと、ティーカップがのっていた。
「それはなんなのです?」
「イボンコ……学校の友達にもらったんだ。ハーブティ。飲むと落ち着くって」
リュージはポットからお茶をつぎ、カップをシーラに渡す。
シーラはふぅふぅと冷まして、ずず……っと飲む。
「おいしぃ~……」
ほぅ、とシーラが吐息を付いた。
しばしふたりで、くぴくぴとお茶を飲む。
「良かったー……」
ほっとリュージは吐息を付いた。
だいぶリラックスした様子のシーラ。
「とってもおいしかったのです。ありがとーなのです!」
ぴょぴょっとうさ耳が羽ばたく。かわいい。
「いえいえ。それでその……シーラ。今日ここに来たのは他でもなくって、その……」
リュージは照れくさくて、頬をかきいきながら言う。
「その……明日休日じゃない? だから……シーラさえ良ければだけど」
リュージは口ごもる。
ダメだったらと失敗のイメージがよぎる。
えいやっと勇気を出して言う。
「僕と……デートしないっ?」
緊張で声がうわずってしまった。
ハーブティを飲んでなかったら、動揺しまくって言えなかっただろう。
さてシーラはというと……。
「~~~~~~!」
うさ耳をぴーん! と立たせている。
顔を真っ赤にして、口元を手で隠している。
「い、嫌だった?」
「嫌じゃないですっ! ぜんぜん嫌じゃないのですっ!」
ブンブンブン! とシーラが首を激しく振る。
「行きたいっ! しーら、リュージくんとデートしたいのです!」
明るい顔で、シーラが言う。
良かった……と安堵するリュージ。
……さてなぜリュージが、唐突にデートに誘ったかというと、理由があった。
冒険者学校に通ってからの1ヶ月間。
リュージは毎日、勉学に励んでいた。
休養日はあれど、ほぼずっと勉強漬けだった。
そのため、リュージは自分の恋人であるシーラのことを、その間さみしい思いをさせてしまったのである。
シーラとリュージは付き合っている。
ふたりは恋人。しかも若い。
二人きりの時間を、もっと共有したいはずである。
だのにシーラは、リュージが頑張っているからと、遠慮してくれていた。
リュージは申し訳なかった。
自分の恋人をかまってやれず、さみしい思いをさせてしまったことを。
だからリュージは、自分から、シーラにデートを申し込んだのである。
「しーら、すっごい楽しみー!」
「僕も楽しみだよ」
ふふ、と笑い合った……そのときだった。
「お母さんも楽しみですよ!」
……と。
背後から、若い女性の声がする。
くるっと振り返ると、そこには笑顔の母がいた。
「か、母さん……いたの?」
そこにいたのは、赤みがかった黒髪の、美女だった。
20代くらい。身長は高め。
すらりと伸びた手足に、ふっくらとした乳房。
彼女こそがリュージの母。
カルマだ。
「ええ、りゅーくんのいるところお母さんあり。ふたりの会話も、ばっちりと聞いてましたよ!」
……リュージは、猛烈に嫌な予感を抱いた。
デートに誘った息子。
その会話を聞いていた母。
そして母は「楽しみ!」といった。
まさか……いや、まさかね。
さすがに……ね?
嘘だよね……?
祈るような思いで、リュージはカルマに問いかける。
「もしかして……ついてくる気? 僕らの……デートに?」
リュージの言葉に、カルマは言う。
大きくうなずいて、元気いっぱいに。
「もっちろん! お母さん、ついていきますデートにね!」
……リュージがその場で、頭を抱えたのは、言うまでもなかった。
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