表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

140/383

88.邪竜、テスト前日の息子を支える




 同級生たちと遊んでから、数日後。

 いよいよ、明日最終テストが行われる。

 テスト前日の、夜のことだ。


 カミィーナにあるリビングにて。


「さぁりゅーくん! 明日はテストです! たくさん食べてしっかり栄養をつけてくださいねっ!」


 食卓には、恐ろしいほど豪華な料理が並んでいた。

 とても一人じゃ食べきれない量だし、どのメニューも【重そう】なものばかりだ。


「さぁりゅーくん食べてっ。お母さん、気合い入れて作ったんだから。これとか!」

「なにこのでっかいお肉……?」


「これは牛の丸焼きです!」

「こんなにたくさん食べれないよ……」


 他にも豚の丸焼き、鳥の丸焼き、山羊の丸焼き、ドラゴンの丸焼き……。


 どれも肉料理で、そして油がぎっとりとしていた。(肉料理以外もあった)

 おいしそうではあるのだが、できれば明日は万全の体調で臨みたい。


 リュージは腹八分目にしておいた。


「そんな少なくて良いのですか?」

「うん。十分すぎるよ。母さん、おいしいご飯ありがとう」


 いつも母の料理はおいしい。

 だがとりわけ今日はおいしかった。

 たぶん、母がスキルではなく、自らの手で作ってくれたのだろう。


「えへへ……♡ 息子にほめられたよぉ~……はぁあん♡ 天にも昇る気分~♡」


「か、母さん上ってる! 天に昇ってるから!」


 母がふわふわと、空中を飛んでいた。

 そのまま風船のように、天へ昇っていきそうだった。

 リュージは母の足をつかんで、よいしょと地上に降ろす。


「さて。それじゃ……僕は自分の部屋で勉強するね。明日テストだからさ」


 リュージが冒険者学校に入学してから、明日で1ヶ月。

 明日、卒業試験がある。


 テストは筆記と実技の両方だ。

 どっちも合格点を取って、初めてリュージは卒業証書をもらえる。


「りゅーくんが頑張れるよう、お母さんが気合いを注入します! とうっ!」


 カルマはリュージを抱きしめる。

 母の柔らかな乳房が、顔にむぎゅっと当たる。


 甘い香りと、柔らかい感触。

 母のぬくもり包まれていると……元気になってくる。

 否、母が最上級の光魔法(回復魔法)をかけていた。


 ややあって、母がハグから解放する。


「頑張ってりゅーくん! お母さんウルトラ応援してます!」


「うん。ありがとう母さん」


 そう言って、リュージは自分の部屋へと戻った。

 ドアを閉じて、机の前に座る。


「よしっ! がんばるぞー!」


 リュージは机の上にノートと参考書を広げる。

 明日の筆記試験のための、確認作業だ。


 リュージはしばし、かりかり……とペンを走らせる。


 こんこん……。


「どうぞー」

「失礼しまーす♡」


 ドアを開けて入ってきたのは、母カルマだった。


「母さん。どうしたの?」

「勉強頑張ってるりゅーくんのために、差し入れを持ってきましたっ」


「ありがとう。なんだろう?」


 カルマの手には、お盆らしきものがある。

 布巾がかぶせられていた。

 夜食だろうか……?


 お盆を受け取り、中身を確認しようと、布巾を取り上げようとした、そのときだ。


「アッ……!」


 お盆が、意外にも重かったのだ。

 ぐらりとバランスを崩し、お盆をその場に落としてしまう。


 しまった。せっかく母が作った料理を、無駄にしてしまったか……? と思ったが。


 ばさばさばさばさーーーーーーー!


「……へ? なにこれ? 紙の束……?」


 料理かと思ったのだが、別物だった。

 リュージはしゃがみ込んで、紙のひとつを手に取る。


「【モンスター学・各論。卒業テスト】……ってこれってもしかして!?」


 リュージは辺りを見回す。

 そのすべてに、【卒業テスト】と書いてあった。

 つまりは……。


「母さんっ! これなに!?」

「なにって、明日のテスト用紙ですよ♡」


 にこーっとカルマが笑顔で言う。


「何そんなこともなさげに……どうしたのさこれッ!」


「ふふん、お母さんにかかれば、明日へ時間跳躍して、テスト用紙を持ってくることくらい可能です!」


 そんなことしなくても、職員室にはテスト用紙がありそうだが……。

 問題はそこではない。


「こんなの受け取れないよ! ずるじゃんこれッ!」


「むぅ……そういうものですか?」


「そうだよっ! 返してきてっ!」


 わかりました、といって、カルマはテスト用紙を回収すると、魔法でその場から消えた。

 おそらく未来へ飛んだのだろう……か?


「はぁ……」


 母の所業にため息をつくリュージ。

 勉強を再開しようとしたそのときだ。


「りゅーくんりゅーくんっ」


 またカルマが、となりに出現していた。


「……どうしたの?」

「あのね、お母さん反省しました。テスト用紙を盗み見るのはダメなんですね」


 どうやら母も反省してくれたようだった。

「ということで、これを持ってきました……!」


 カルマの手には、瓶に入った水薬ポーーションがあった。

 空色のポーションだ。


「ポーション? なんの」

「飲むと元気になるお薬です! りゅーくんが勉強頑張れるようにって……迷惑でした?」


 カルマが不安そうにリュージを見やる。

 どんなときでも、リュージのみを案じてくれる、母の優しさが、嬉しかった。


「ありがとう母さん。いただきます」


 リュージはポーションを受け取る。

 蓋を開けて、一口、口につける。


「それを一口飲めばたちまち元気ビンビン! もう一生眠らなくても大丈夫なくらいになります!」


 ぶーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!


「ゲホッ……ゴホッ……な、なにそれ!?」

「【仙人の覚醒薬】というS級アイテムです。眠気吹っ飛び元気百倍! がんぎまりですよ!」


「こんな危ないの飲めないよ!」


 リュージは母にポーションを押し返す。


「ではこっちのポーションはどうでしょう……?」


 今度は赤色の液体の入った瓶を、カルマが取り出す。


「……いちおう聞くけど、それなに?」

「こちらはよく眠れるようなお薬です」


「ふんふん。で、具体的にはどんな効果?」

「飲めばドラゴンでも一発ばたんきゅー。そして永遠に目が冷めることはない。こちらもS級アイテム【夢魔の睡眠薬】です」


 ……どちらの薬も、超レアアイテムだった。

 カルマは自分の【万物創造】スキルを使って、超レアアイテムを、ほいほいと作れるのだ。

 しかもつく理由が、息子がテスト勉強をサポートするために……とは。


「はぁ……」

「他に何かほしいものないっ? お母さん何でも作りますよっ。あなたのためならなんだってするんですからっ」


 にこーっとカルマが笑う。

 リュージは開いた口を、閉じて、ため息をつく。


 ……この母は、悪気があってやってるわけじゃない。

 息子がテストで頑張っているから、それを支えたい。

 純粋に、母はそう思っているのだ。


 そのやり方の幅が、振り切れてるだけで、そこには息子に対する愛情が、確かにある。

「ありがとう、母さん。けどね……大丈夫だから」


 リュージは母に笑いかける。


「僕のこと、見守ってて。僕……明日は、一人で大丈夫だから」

「りゅーくん……でも、でもでもっ」


「母さんがいろいろやってくれるのは嬉しいよ。けど明日は、僕がどれくらい頑張れたかを測る試験なんだ。誰のチカラも借りたくない。自分一人だけのチカラで、頑張りたいんだ」


 リュージはまっすぐに母を見据えて言う。

 カルマは何か言いたげだった。

 もごもごいって、けど最終的には……。


「……わかりました。頑張って!」


 カルマがグッ、と親指を立てる。

 ……本当は、息子をかまいたくてしょうがないのだろう。

 けど息子の意思を、尊重しようとしてくれている。


「ありがとう、明日、頑張るね!」

「はい。りゅーくん、頑張って! 応援してるよー!」


 ……その後母は、なるべく邪魔をしてこなかった。

 リュージはしっかりと勉強できた。


 そして、明日。

 最終試験に、のぞむのだった。

漫画版、「マンガUP!」で好評連載中です!

まだの方はぜひ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ