10.息子、邪竜の作った飯でパワーアップする【後編】
後編です!前編まだなかたはそちらから!
リュージは相棒の獣人、シーラとともに、昨日とは別のダンジョンへと向かった。
……昨日訪れたダンジョンは、母のせいでめちゃくちゃになってしまった。
ちなみにあの迷宮、モンスターがいなくなり人が入りやすくなった。
そしてその迷宮内で、超絶レアアイテムが次々と発見されて、とてつもなく有名なダンジョンになったのだが……。
それはさておき。
リュージはダンジョンに到着。
後ろにいるシーラを見て言う。
「昨日あれだったけど、今日は頑張ろうね」
「はいなのですっ」
ふんすふんす、とやる気十分のシーラ。
「なんだかしーら、いま絶好調なのです!」
「僕も。身体が軽いんだ」
たぶん初めて、自力で冒険できるから、高揚してるのだろう。
やる気十分の若者たちは、さっそくクエストに取りかかることにした。
リュージはギルドから受けた依頼を思い出す。
「えと……今日はホワイト・モンキーの討伐だよね」
「はいなのですっ! 素早くって倒すの難しいだろうって受付のお姉さんが言ってたのです」
ちなみに昨日の受付嬢は、リュージたち専属の受付嬢になったらしい。
人気の冒険者には、そうやって専属でついてくれるのだそうだ。
まだリュージたちはたいした功績を挙げてないのに……。初日で1500匹討伐は、さすがに目立ちすぎた。
「いこうか」
「はいなのですっ」
シーラはリュージの前に出て、ちょこちょこと歩き出す。
「シーラさん。シーラさんは後衛だから後ろにいて」
「はうっ。そうでした……」
しゅん……とウサギ少女のうさ耳が垂れる。
「お母様からリュージ君をまもってって言われてたから……つい……」
どうやら守ってくれようとしていたらしい。素直で優しい子で、リュージは嬉しくなった。
「大丈夫。僕が前でシーラさんが魔法唱えている間、守るから」
リュージの職業は剣士。
皮の盾と、銅の剣を装備している。
母の手がかかってない、普通の道具だ。
ちなみにこれらはギルドから支給されたものだ。
最低限の装備は、ギルド側から用意してくれるのである。
昨日の討伐で得た金は……いっさい手をつけてない。あんなの母から金を恵んでもらったのと変わりないからなとリュージ。
……彼はちゃんと金を稼ぎたかった。自分の手で。
そして……母さんに……。
と、そのときだった。
「ききっー!!」
ダンジョンの岩陰から、白い猿が飛び出てきたではないか。
「あれがホワイト・モンキーか! さがってシーラさん!」
「はいっ!」
シーラはリュージから離れて魔法詠唱。
「いくぞぉおお!!」
リュージは剣をぬいて、そしてモンキーに向かって一歩、踏み出す。
バビュンッ…………!!!
「へ?」「ききっ?」
リュージは、間の抜けた声を出す。
前方にいたはずの、モンキーが、一瞬にして消えたのだ。
「ど、どこ行ったっ?」
辺りを見回すが、モンキーの姿は見えない。
素早いと聞いていたが、ここまで素早いとは……!!
「リュージくんっ!」
背後でシーラの声がする。
しまった……!
「シーラさん!!!」
モンキーがシーラを襲っているのだろう。くそっ、前衛の自分が対象を見失うとは!
慌ててリュージが振り返ったのだが……。
「すっごーい! はやいのですー!」
さっきまで、ちょっと離れた場所にいたはずのシーラが、……とてつもなく遠くにいた。
「は?」
そして自分とシーラの間には、モンキーがいた。
いな、胴体を真っ二つに切られたモンキーが、その場に倒れていた。
「ど、どういうこと……?」
剣を抜いて、モンキーに向かって突っ込んだだけだ。
剣を振り下ろしてすらいない。
「リュージくん……すごすぎるのです-!」
……何が何やらわからなかったが。とりあえず、後ろで見ていたシーラは事情をわかってるようだ。
リュージはモンキーの死体を尻目に、シーラの元へ行く。
「シーラさん。何があったの……?」
するとシーラは説明する。
「リュージくんが稲妻のごとくスピードで突っ込んでいったのです! モンキーの脇をすり抜けて、そしたら真っ二つになっていたのです!」
……どうやら、自分は。
ものすごく素早く動いていたらしい。
「リュージくん達人さんなのです! あんなに早く動いていたのに、剣をしゅんっ! って振るってたのです!」
……剣を振った記憶は、ない。
「…………」
もう、いい加減わかっていた。
自分のみに、何かが起きている。
そして間違いなく、あの過保護オブ過保護なお母さんが、何かを仕組んだのだ。
そのときだった。
「ききーっ!!」
と、リュージの背後に、いきなりモンキーが出現した。
どうやら仲間がやられたのを、物陰で見ていたようだ。
気配を消して、リュージに不意打ちを仕掛けてきたのだ。
が。
シュコンッ……!
と、小気味よい音。
そして気づけば……モンキーが、胴体を真っ二つにされて、倒れていた。
「え、え、ええっ?」
モンキーの出現に、リュージは完全に気づいていなかった。
完璧に、モンキーに不意を打たれた。
だのに……敵をリュージは撃退していた。
否……。
「りゅ、リュージくんっ!? 後ろっ、後ろっ!!」
目を大きく見開いたシーラが、リュージの背後を指さす。
「後ろ……? って、ええええ!? 何これぇー!!」
リュージが背後を振り返ると、自分のおしりのあたりに……。
尻尾が、生えていた。
ドラゴンの、尻尾だった。
「な、なんじゃこれえええええ!!」
大声で叫んだそのときだ。
「ききっー!」「ききっ!」「うきょきょっ!」「うっきー!!」
四匹のホワイトモンキーが、大挙してリュージに突っ込んでくる。
リュージは剣を構えようとしたのだが……。
シュンシュンシュンシュンッ……!!
スパパパパパパパパパッ……!!!
……と、リュージが動くより早く。
神速で……尻尾が自動的に動いて、敵を真っ二つにしていた。
「…………」
あまりのことに愕然とするリュージ。
ドラゴンの尻尾が生えたことにも驚きだったが、その尻尾が勝手に動いたことも驚きだ。
尻尾は鱗に包まれている。鱗は鋭利なとげとげが生えていて、それが刃の役割をしたのだろう。
「すごいのですリュージくんっ! 尻尾で倒すなんてっ!」
というか尻尾が生えたことに突っ込んでよ……とリュージ。
しかしよく考えれば、シーラから見れば、リュージは竜の息子。
竜の尻尾が生えていてもおかしくないと思っているのだろう。……そういえば人間であるとは彼女に言ってなかった。
「あのね……シーラさん。実は……」
と、説明しようとした、そのときだ。
「うごごごっ! ウホーッ!!!」
……さっきのホワイト・モンキーの、10倍はあろうという、巨大な白い猿が、天井から落ちてきたのだ。
ずしぃいいいいいん!!!
「な、なんだぁ?」
「きっとお猿さんたちのボスなのですっ!」
お猿さんという表現にほわんと癒やされたのもつかの間。
ボス猿が子分たちのかたき!
とばかりに、リュージに突っ込んでくる。
「ウホォオオオオオ!!」
尻尾が素早く動くが、ボス猿はそれを手で払う。
ボス猿の巨大な腕が振るわれ、シーラに襲いかかる!
危ない!
「う、うわああああ!!」
自分ではかなわないとわかっていても、リュージはシーラの前に躍り出る。
皮の盾を構える。
……こんなので、あんな化け物にかなうはずない。
とやられるのを覚悟で目を閉じた、そのときだった。
ガキィインッッ……!!
ドッッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!
何かがぶつかる音、そして、何かがとてつもないスピードでぶつかる音が、連続して起きた。
「はぁ!?」
目を開けると、ボス猿はいなかった。
遙か向こうの壁に、猿は埋まっていた。
「え、ええっ? えええええ!?」
いったい何が……と思っていると、
きゅっ。
と、背後で、誰かが抱きついてきた。
見やると、シーラがえぐえぐ泣きながら、「ありがとぉ……」と感謝してきた。
「ぐす……すごい……かっこいいのです……」
「えっと……シーラさん? 何があったの?」
シーラによると、
リュージが盾を構えた。その盾にボス猿がぶつかる。
リュージがぐいっ、とその場でふんばると、猿はすごいスピードで、吹っ飛ばされたのだそうだ。
「ぐす……ふぇええ……。リュージくん、ありがとぉ……」
「…………」
きっと、母だ。
母のせいで、なんかめちゃくちゃ早く動けたし、おしりから尻尾が生えたし、とんでもなく頑丈になったのだろう。
でもいったいいつ、何かされたのか……?
思い当たるのは、今朝の料理だ。
ドラゴンの尻尾とか出てきたし、きっとあの料理に何かが仕込まれていたのだ!!
……ちなみに、帰って母に問いただすと、
【神牛のミルク】(素早さが上がる)
【ドラゴンの肉】(竜の血肉を食べれば、その一部を手にできる)
【仙人のニンニク】(防御力があがる)
……以上の超レアアイテムが、朝食に含まれていたらしかった。
お疲れ様です!
次回もお昼頃更新しようと思ってます。
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今日もまた皆様のおかげで二回の更新頑張れました!
ではまた!