87.邪竜、息子が友達と遊びに行くからついて行く【後編】
休みの日を、友達と遊んでいるリュージ。
ところ変わって、リュージは今、自分の家にいた。
「リュージくんっ。お帰りなのですー!」
ウサギ獣人のシーラが、帰ってきたリュージを、玄関先で出迎える。
「「「キャ~~~~♡ かわい~~~~~~~~~~♡」」」
冒険者の友達が、シーラを見て、黄色い声を上げた。
イボンコたちがシーラの元へ行き、わしゃわしゃと撫でたり、抱きしめたりする。
「この子すっげーかわいいじゃん!」
「ふわふわで~かわいいんだなぁ~♡」
「持ち帰りたいくらいのかわいさ……お嬢さん、私と一緒に住まないかい? お姉さんって呼んでも良いよ?」
わぁわぁ、と同級生たちが、シーラを囲んで騒ぐ。
「あのあの……えと、りゅーじくん。これはいったい……?」
「ごめんねいきなり。彼女たちは学校の友達。遊びに来たんだ」
「「「おじゃましまーす!」」」
ここに来た経緯を語ると。
王都にて、お昼ご飯を食べようとした。
だがどこの見せも、とんでもなく混んでいた。
母が客を、邪魔だからと蹴散らそうとして、リュージは慌てて止めてた。
王都で食べるのは難しい。
そこでカルマが、こう提案したのだ。
【りゅーくんの家で食べるのはどうでしょう? お母さんの手料理、振る舞いますよ!】
これに対してリュージは大反対。
しかし満場一致で賛成が取れた。
結局、断り切れず……カルマの転移スキルを使って、みなでリュージの家に来た次第だ。
さて。
場所はリビングへと移る。
大きなテーブルには、所狭しと、豪勢な料理が並んでいた。
カルマが万物創造スキルで、一瞬にして作ったのだ。
「さぁさぁりゅーくんの友達がた! じゃんじゃん食べなさい!」
「「「いっただっきまーす!」」」
食卓につく同級生たちが、笑顔で声を張った。
その場にはシーラに、ルコ・バブコの娘たちもいた。
「く~~~~~~! やっぱリュージのかーちゃんの料理は最高じゃん!」
「ほんとなんだなあ~♡ まいにちでもたべてたいんだなぁ~♡」
「まったく、リュージ君は幸せ者だ。かような美しく料理上手なご母堂がいるのだからな」
「えっへへ~♡ もうっ! みなさんってば褒めすぎですよぅ~♡ さぁさぁどんどんお食べなさい! たっくさんおかわりありますからねー!」
カルマが楽しそうに、新しい料理を用意する。
いつもにまして上機嫌だった。
ややあって、食後。
「へぇ……! シーラはリュージの彼女じゃん!」
「ほぅ……リュージ君には恋人がいたのか」
「うらやましいんだなぁ~♡ 良いなぁ~♡」
リビングにて、同級生たちと雑談にふけていた。
「は、はい……その……りゅーじくんが、いつもお世話になってますのです」
ぺこっ、とシーラが頭を下げる。
うさ耳がペちょっと垂れる。
「「「か~~~わ~~~いい~~~♡」」」
同級生たちは、シーラを気に入っているようだった。
「しかしリュージよぉ。未成年と付き合うのってどうかと思うじゃん?」
「あう……えっと、しーらは15歳なのです……」
「「「うっそー!?」」」
確かにシーラは童顔なので、よく子どもに見間違えられる。
「そうですよ皆さん。シーラは立派なりゅーくんの! そしてお母さんの嫁なのですからね!」
カルマはシーラの後ろに立ち、肩を抱いて笑う。
「よ、嫁だなんて……そんな……」
「かあさんっ! 余計なこと言わないでよっ!」
ただでさえ、同級生たちが自分の家にいることが、恥ずかしいのに……。
母は同級生たちに、嫁や、そして……。
「そしてこちらがルコとバブコ。りゅーくんの立派な娘です」
「「「はぁああああああああ!?」」」
「かーさーん! もうっ! もうっ! 黙ってて!」
ルコとバブコが、同級生たちにわしゃわさなでなでされる。
「おいおいリュージ……おめー……すげーじゃん!」
「うむ、さすがに驚いたぞ。5歳児が二人も……やるな」
「だからもー! 違うんだってばー!」
リュージは顔を真っ赤にして、慌てて首を振る。
その端っこで……ぽそりと、半巨人のノックスが言う。
「いいなぁ~……。温かい家族、うらやましいんだなぁ~……」
「…………え?」
リュージはノックスを見やる。
「ノックス。今のって……?」
「あははぁ~。何でもないんだなぁ~♡」
先ほどまでのさみしそうな顔からいっぺん、ノックスはいつもの、ぽわぽわとした笑みになる。
気になったがそれ以上追求しても、なんでもないの一点張りだった。
……その後。
リュージ一家と同級生たちとで雑談したり、おうちの探検をしたりして過ごした。 気付けば夜になっていた。
「今日は皆さん、泊まっていきなさい。お母さんが明日、皆さんを学校に送り届けましょう」
「「「あざーーーす!」」」
カルマの提案に、同級生たちが笑顔でうなずいた。
リュージは母の身勝手にため息をつきつつ、了承。
友達とお泊まりが初めてだったことと、そして母が楽しそうだったことが決め手だった。
リュージの家には空き部屋が多い。
そこをイボンコたちに使ってもらうことにした。
またも豪勢な夕食をカルマが振る舞う。
そしてみなお風呂に入った。
「ふぅ……楽しかったけど、疲れる一日だったなぁ……」
先に男湯から(カルマが一瞬で作った)でてきたリュージが、独りごちる。
リビングに戻ろうとした……そのときだ。
「…………」
「あ、ルットラ」
廊下に山小人がいた。
肌から湯気が出ている。
どうやら風呂上がりのようだ。
「他のみんなは?」
「……まだ入ってる。あいつら長風呂すぎるよ」
「あはは。女の子だからしょうがないよね」
「…………」
じっ、とルットラが、リュージの顔を見てきた。
「どうしたの?」
「……いや、別に」
ふいっ、とルットラがその場を去ろうとする。
「あ、えっと……待って!」
リュージは駆け寄る。
ルットラとは、普段ではまったく話す機会がなかった。
だが今、こうして話すチャンスが到来している。
「……なに?」
「えっと……その、何か言いたげだったからさ。何言いたかったのかなって」
ルットラがリュージを見上げる。
「……たいしたことじゃないし」
「言ってよ。僕ら友達じゃんか」
「……あ、そ。じゃあ遠慮なく言うよ」
ルットラはリュージを、じっと見つめて言ったのだ。
「……あんたさ、どうして冒険者なんて、やってるの?」
その言葉に……リュージは戸惑う。
「えと……どうしてって?」
「……言葉通りの意味だよ」
ルットラはこの家を、そして奥の風呂場を見て言う。
「……あんた、こんなに裕福じゃん。それに何でもしてくれる優しいお母さんいるでしょ? 家も金もある。満たされている……あんたに、冒険者として、働く必要性、ないじゃん」
言われ、リュージはそんなことない……と答えようとした。
だが彼女の言い分は、確かにそうだと思う面もあった。
リュージには、何でもできる母がいる。
何でも手に入る。満ち足りている。
働く必要性は、ないと言える。端から見ればだ。
けど……違う。
リュージにはリュージの事情があるのだ。
「そんなことないよ。僕は、現状にまだ満足してない」
「……嘘つけ」
「ほんとだよ。……だってね、家も食事も、全部母さんが用意してくれるんだ」
「……それでいいじゃん。何が不満なんだよ?」
若干いらだったように、ルットラが言う。
「良くないよ。今は、結局母さんの庇護下にいる。いつまでもそれじゃダメなんだよ。母さんにいつまでも、おんぶに抱っこじゃダメだ。僕は、早く一人前になりたいんだ」
決然と、リュージはルットラに、思いの丈をぶつける。
「……なんで一人前になりたいのさ」
「……母さんに、早く恩返しがしたいんだ」
「恩返し?」
リュージは自分の生い立ちを語った。
自分は、捨て子だったこと。
カルマに拾われて、大事に育てられたこと。
「……あんた、拾われ子だったんだ」
ルットラが目を丸くする。
「うん。母さんがいてくれたから、なんとか今日までやってこれた。僕は……母さんに早く立派になって、恩返しがしたいんだ。今まで、育ててくれて、ありがとうって」
改めて、自分の思いを口にするのは、恥ずかしかった。
それも同級生の友達、異性に言うのは、特に。
さて。
リュージの言葉を聞いたルットラはというと。
「……ごめん」
ぺこっ、頭を下げたのだ。
「ど、どうしたのっ?」
リュージが慌てる。
ルットラは頭を上げて言う。
「……あんたのこと、誤解してた」
「誤解?」
「……金持ちで強い母親に過保護に育てられた、甘ちゃんのボンボンだって思ってた」
「うう……」
確かに端から見れば、そう映ってしまうのはしょうがないだろう。
「……けど、見直したよ」
ふっ……とルットラが淡く微笑む。
「……あんた、結構気合い入ってんだね。あんたも、頑張ってるんだ」
慌てて、ルットラがいつもの、仏頂面に戻る。
「……なに?」
「いや……ルットラが笑ってるところ、僕初めて見たなって思ってさ」
「……あ、そ」
「笑うとかわいいね」
「は、はぁ……? な、なにそれ……わけわかんないっ!」
そう言うと、ルットラは不機嫌そうにそっぽ向く。
ずんずん……とリュージを置いて、その場を後にしようとする。
「あ、待ってよ!」
「……っさいな。ついてくんなっ」
……その後は、みんなでわいわい楽しんだ。
ルットラも、リュージとの会話以降、仲間たちとの輪に入ってきた。
そんなふうに、最後の休日は、和気藹々と過ごしたのだった。
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