87.邪竜、息子が友達と遊びに行くからついて行く【中編】
リュージは学校の友達とともに、休日遊びに行くことになった。
……母親同伴で。
朝。王都にある冒険者学校。
校門の前には、すでにイボンコたちが来ていた。
「おー! リュージ! ……っと、あれ、リュージのかーちゃんもいるじゃん?」
「カルマさん何してるんだなぁ~?」
猫獣人と半巨人が、はてと首をかしげる。
その疑問はもっともだ。
同級生で遊びに行くのに、母親がいたらおかしいと思うだろう。
リュージが答える前に、カルマが堂々と言う。
「愛しい我が子が、ちゃんと友達とあそべているか……確認しに来ました」
「あぁああああ………………」
リュージは羞恥で顔を真っ赤にした。
その場にしゃがみ込んで、頭を抱える。
「なんだよ……ちゃんと遊べてるかって……恥ずかしすぎる……」
変な子だとまた思われてしまう……と思ったのだが。
「はっははー! いやぁ、リュージの母ちゃんは、相変わらずじゃん!」
「面白い女性だね、リュージ君」
スターチもイボンコも、拒否反応は起こしてなかった。
いつも通り、あっさりと受け入れてくれていた。
ちょっとみんな、おおらかすぎない……?
「リュージ君と、予定にはないがご母堂が来られたね。あとはルットラだけだ」
「あいつおせーじゃんっ。ったく~」
リュージは辺りを見回す。
山小人の姿が見えなかった。
やっぱり、来ないのだろうか……。乗り気じゃなさそうだったし……。
「おっ! 来たじゃん!」
「……来ちゃ悪い?」
ルットラが、最後に遅れてやってきた。
「良かった。来てくれたんだね」
リュージはルットラに近づいて言う。
「……まぁ。てゆーか、なんであんたの母親いるわけ?」
「そ、それは……その、ごめん。ついてくるって聞かなくて」
昨日の帰り際、カルマはリュージたちの会話を聞いた。
その日から夜遅くまで、説得した。
だがカルマは頑として首を縦に振らず、結局ついてくる羽目になった次第
「……友達と遊ぶのに母親が普通ついてくる? おかしいって思わない?」
ルットラが小馬鹿にするように、鼻を鳴らす。
一方でリュージは、ぱぁっと顔を明るくする。
「……な、なによ?」
「いや、僕のこと友達って思っててくれたんだって、嬉しくてさ」
彼女はさっき友達と遊ぶ、としっかりそういった。
リュージは、てっきりルットラに嫌われているかと思っていた。
だからこそ、嬉しかった。
「……な、なに変なこといってんだし」
ふいっとルットラがそっぽ向く。
「さぁさぁ皆さん! いつまでももたついてないで遊びに行きましょう!」
「母さん! 少し控えてっ!」
なにゆえ母がしきるのだろうか……?
しかしイボンコたちは、「「「了解!」」」と結構のりが良い。
リュージは、この空間になじめてない自分が、異分子のように思えてならなかった。
なにこれ、間違ってるの僕なの……?
それはさておき。
疑問を抱えながらも、リュージは友達(+母)をつれて、王都の街を歩く。
休日と言うこともあって、とてつもない量の人であふれていた。
「歩きにくいんだなぁ~」
半巨人は他の人間・亜人と比べて歩幅が異なり、広い。
ゆえに実に歩きにくそうだった。
「そんなときはお母さんにお任せあれ」
カルマは素早く【万物創造】を使うと、簀子巻きになった赤絨毯を取り出す。
ばさぁあああ……!
カルマが赤絨毯を、王都のストリートに広げる。
「さぁりゅーくんとそのお連れの皆さん! このレッドカーペットを歩いてください!」
カルマがキラキラ、とした目をリュージたちに向ける。
イボンコたちが感心したように声を上げる。
リュージは頭を抱えたくなった。
「歩かなくて良いから! 母さん! いいからしまって!」
「さぁさぁ遠慮せず♡」
「母さん少しは遠慮してッ! 周りの迷惑考えてってばっ!」
母を必死に説得し、赤絨毯を回収させる。
「いやぁ、リュージのかーちゃんって、普段でもこんな感じなんじゃん?」
スターチがリュージのとなりを歩きながら言う。
「うん……。ごめんね」
「気にしなくていいじゃん! ほら、これ食うじゃん! さっき出店で買ったじゃん」
スターチが串焼きを、リュージに差し出す。
ありがたく、リュージはそれを一本もらう。
「はぁああああああん♡ 息子が友達と買い食いしてるよー! 尊い! しゃったちゃーんす!」
カルマが記録の宝珠を取り出し、リュージの様子をばしゃばしゃ取っている。
リュージはあっち行ってて! というと、カルマはおとなしくしたがった。
「騒がしくしてごめん……」
「いいじゃん。楽しくて。それに、うらやましーじゃん」
「うらやましい?」
スターチがうなずく。
「おれっち孤児なんよ。母親の顔も知らなくて、母親ってやつもいまいちわからないんじゃん」
リュージは目を見張る。
「そうだったんだ……ごめんね」
「なに謝ってるんじゃん?」
「いや……辛いこと思い出させちゃって……」
するとスターチは、にかっと笑って、リュージの背中をたたく。
「気にしなくていいじゃん。おれから先に言ったことだしな!」
ははっ! と陽気に笑うと、スターチは先に歩いて行く。
リュージたちが歩いている、王都のメインストリートには、出店がいくつも並んでいた。
床に敷物を引いて、いくつもの商品が並べられている。
「リュージ君。ちょっといいかな?」
「イボンコ? どうしたの?」
青髪の人間の少女、イボンコが、リュージを手招きする。
そこは服の出店らしかった。
「この青いワンピースと、緑のワンピース。どちらが似合うと思うかな?」
二つの洋服を手に、イボンコが尋ねてくる。
「りゅーくん頑張れ! がんばれりゅーくん! りゅーくんにならその二者択一を当てられるよ! がんばっ! がんばっ! リュージー!」
カルマがチアリーダーの格好で、ふれふれと応援してくる。
なんだその応援……何を応援しているんだ!
「母さんッ! 恥ずかしいからいつもの格好に戻って! あと大声もだめっ! いいねっ!」
カルマが不承不承にうなずく。
その様子を、イボンコが実に楽しそうに見ていた。
「それでリュージ君。どうかな?」
「ええっと……緑の方がいいと思う。イボンコ、青い髪がキレイだから、緑は映えると思うよ」
「ふむ……私もちょうどそう思っていところだ。奇遇だね」
「あったり前じゃないですか! 息子のセンスはもうはや芸術の神のレベルを容易く超越してるんですからね! そのセンスは抜群なんですか-!」
えっへんどうだー! とカルマがイボンコに誇る。
リュージは「母さん!」「あ、ごめんなさいりゅーくん」とペコッと頭を下げる。
その顔はにっこにこしていた。
全然反省してないようだった。
「はぁああん♡ 息子が友達と遊んでるよぅ……♡ 友達ができたんだねぇりゅーくん……くすん、お母さん感動です……♡」
ざばぁあああああああああああああああああああああ!!!!
カルマが泣いただけで、辺り一面が水浸しになった。
その場にいたひとたちが、わぁあああ……! と流されていく。
「母さんってば! もうっ! おとなしくできないの?」
「うう……すみません。セーブしてるのですが……」
カルマは邪神王のチカラを取り込んでいるため、人の何百倍も強い。
そしてその強大すぎる力を、カルマは完全にコントロールできていないのだ。
「ふふっ、カルマさんは今日も元気だなぁ。……私の母も、カルマさんのように元気だったらな」
「え……?」
「ああ、うん。なんでもない。気にしないでくれ」
ふるふる、とイボンコが首を振る。
その顔に少しの影が差していたことに、リュージは気付いてしまったのだった。
漫画版、このあと数分後(23日の0時)に、新しい話が更新されます!
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