87.邪竜、息子が友達と遊びに行くからついて行く【前編】
学園生活も、3週目に突入したある日の午後。
リュージは、実技の授業で、学校のグラウンドにいた。
メニューは組み手。
学生同士で、模擬戦を行っていた。
「やぁッ……! たぁ……!」
リュージの相手は、青髪の少女イボンコだ。
細身の彼女に、リュージは剣を振る。
その速度は、前よりも早く、そしてキレが良くなっていた。
イボンコは細剣を構えている。
リュージの剣を、紙一重で避けていく。
「まだまだっ……!」
リュージは丹田に力を入れる。
体内で魔力を練りあげ、それを脚力に以降。
ぐんっ……!
だんっ……!
思い切り踏み込み、リュージはイボンコの懐に潜り込む。
「せやぁああああああああ!」
ひゅっ……!
がぎぃいいいいいい!
「やるじゃないか、リュージ君」
リュージの片手剣と、イボンコの細剣がぶつかる。
ぎりぎり……とつばぜり合いが続く。
「やった!」
「しかしリュージ君。気が緩んでるぞ」
イボンコもまた魔力操作を行う。
右足に力を入れて、リュージの足を払う。
バランスが崩れるリュージ。
イボンコが細剣で、リュージの体に一撃を入れてくる。
「やぁッ……!」
体勢が崩れた状態で、リュージはまた魔力を練る。
それを剣に乗せて、そのまま衝撃波として飛ばす。
「くっ……!」
衝撃波がイボンコの腹に当たり、後に吹き飛ぶ。
リュージは体制を立て直し、彼女との間合いを詰める。
「やぁああああああああ!」
「はぁああああああああ!」
リュージの上段斬りと、イボンコの下からの突きがぶつかり合う。
がぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!
二人の武器がぶつかり合い、そしてはじかれる。
「あいたっ……!」
リュージはその場に尻餅をついた。
素早く立ち上がろうとした、そのときだった。
ちゃき………………。
「私の勝ちだな、リュージ君」
細剣を回収したイボンコが、剣先をリュージに向けていた。
リュージの剣は離れたところに落ちている。
「それまでだ。勝者イボンコ」
そばで見ていたデルフリンガー先生が、戦闘終了を宣言する。
「「おおー!!!!」」
観戦していた生徒たちが、リュージのそばまでやってきた。
「やるじゃんリュージ! おれらのクラス最強のイボンコ姐さんと互角に張り合ってたじゃん!」
猫獣人のスターチがとなりにやってくると、リュージの肩をバシバシとたたく。
「スターチ。姐さんは辞めろといっているだろ」
「へいへいさーせん」
スターチが離れる。イボンコがやってきて、手を差し伸べてくる。
「リュージ君。ありがとう。良い勝負だったよ」
「こっちこそ……ありがとう。全力で戦ってくれて」
イボンコの差し出した手を握り、リュージはよいしょと立ち上がる。
「リュージくんすごいんだなぁ~♡ とっても強くなったんだなぁ~♡ やらましいんだなぁ~」
半巨人のノックスが、ニコニコしながら、手をたたく。
「……強く、なってる。ちゃんと強くなってる」
リュージはグッ……! と拳を握りしめる。
この3週間の訓練の成果が、実を結び始めていた。
「リュージ。よくやった」
デルフリンガーが厳しい表情のまま、リュージを褒める。
「クラス最弱だった貴様が、よもやここまで強くなるとは。意外だったぞ」
「ありがとうございます! 先生の指導のおかげです!」
デルフリンガーの厳しい訓練に、何度もリュージはくじけそうになった。
それでも諦めなかったのは、周りに諦めずに訓練を受ける同級生がいたから。
そして何より……。
リュージの脳裏に、カルマの笑顔が浮かぶ。
母に、もう弱いからと心配させたくないという意気込みがあったからだ。
「これなら来週の試験も難なく通るだろう。貴様やイボンコ、スターチ、ノックスはな」
来週でここに来て1ヶ月となる。
最後の日、卒業試験が実施されるのだ。
試験は筆記と実技のふたつだ。
それに通れば卒業が許される。
卒業すればランクが1つ上がり、中級冒険者の称号を得る。
しかしそれに落ちると留年決定。
そこで辞めても良いが、ランクは上がらない。
「……問題はルットラ。貴様だ」
デルフリンガーが、山小人のルットラをにらみつける。
「…………」
「なぜ貴様はもっと真面目に訓練に励まない? このままでは落第するぞ」
「……わかってる」
ルットラは反抗するように、デルフリンガーを見やる。
「貴様? なんだその態度は……」
デルフリンガーがにらみ付ける。
ルットラは彼女から目をそらしたままだ。
ややあって……はぁ、とデルフリンガーがため息をつく。
「まあいい。今日の授業はこれで終了だ。明日は休養日だ。しっかり体を休めろ。試験前最後の休養日だからな」
デルフリンガーはきびすを返し、校舎へと去って行ったのだった。
「そうかー、もう最後の休養日じゃん。早いじゃん」
授業の期間は1ヶ月。
6日は授業で、1日休養日を設けてあるのだ。
来週の最後の日はテストになっているので、実施的に、明日が最後の休養日となる。
「もう再来週には、みんなと会えなくなるんだな。さみしいんだなぁ~……」
しゅん……とノックスが暗い顔をして言う。
おのおの、別のパーティに所属する身だ。
学校を卒業したら、もう二度と会えなくなるかもしれない。
せっかく仲良くなってきたのに……とリュージが思った、そのときだ。
「そうじゃん! 良いこと思いついたじゃん!」
スターチが勢いよく手を上げる。
「明日みんなで遊ぼうじゃん!」
みんなで……遊ぶ?
「いいねっ! それ、すごくいい! 賛成!」
リュージは真っ先に手を上げて、スターチに賛同する。
学校の友達と遊ぶなんて、穴蔵暮らしの長いリュージには、今までなかったことだから。
「そうだな。私も賛成だ」
「おいらも大賛成だな~」
イボンコ、ノックスもうなずく。
「…………」
そそくさと逃げようとするルットラの肩を、スターチががしっとつかむ。
「おめーもくるじゃん」
「……なんでだよ?」
「大勢で遊んだ方が楽しいに決まってんじゃん!」
「……遠慮する」
ルットラが、パシッ、とスターチの手を振りほどく。
そのまま背を向けて、歩き出す。
「……ま、待って!」
リュージはルットラを呼び止めた。
不機嫌そうに顔をしかめるルットラ。
たじろぎそうになるリュージだが、意を決して言う。
「その……一緒に行かない? 最後になるかも知れないし……僕、みんなと、ルットラと遊びに行きたいんだ!」
ルットラが目を丸くする。
口を開いて、閉じて、開いて……。
「……好きにすれば」
そう言って、ルットラはその場から離れようとする。
「あれってどういうことなんだな~?」
「わからないが、少なくともノーではないみたいだな」
「おーい! ルットラ! んじゃ明日10時に校門前集合じゃん! 遅れんじゃねーじゃん!」
スターチがルットラに声をかける。
山小人は振り返らず、そのまますたすたと歩み去って行った。
「では我々も寮に帰ろうか」
「んじゃリュージ、明日じゃん」
「ばいばいなんだなぁ~」
「うんっ! また明日ッ!」
リュージは友達たちと分かれて、軽い足取りで帰路につく。
「友達と遊びに行くなんて……すっごい楽しみだなぁ!」
と、ウキウキしながらそういった、そのときだ。
「ええっ! お母さんもとっても楽しみですよ!」
……リュージはピシッ! と表情を固まらせる。
となりを見ると、そこには、ニコニコ笑顔の母、カルマがいた。
「……か、母さん? もしかして、明日のこと、聞いてた?」
「もちろんばっちり!」
「……も、もしかして……ついてくるの? 明日?」
いやまさかね。
そんなことない。
そんなことないって、言ってくれ……と祈りもむなしく。
「もちろん、ついてきますよ!」
カルマは大きく、うなずいて、そう宣言したのだった。
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