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86.母と息子の学園生活【息子編】


 冒険者学校に通うようになり、2週間が経過した、ある一日の出来事だ。


 朝。

 リュージは身支度を調え、母の転移スキルで、王都にある学校まで送ってもらう。


 教室にダイレクトで行くことはできない。

 なぜなら、カルマが毎度邪魔するので、教室には【カルマ避け】の結界が張られているのだ。


 なので学校の校門前に、転移する。


「それじゃ、母さん。いってきます」

「りゅーくんっ♡ 教室まで送りますよっ♡」


 リュージが校舎へ行こうとすると、その手をカルマがガシッ! とつかむ。


「校舎で迷子になったら大変です。なので教室まで、お母さんが送りましょう」

「い、いいよっ! 一人で行けるから!」


 カルマの手を振りほどこうとするが、謎の腕力を発揮し、振りほどけない。

 結局諦めて、リュージはカルマとともに、校舎へと向かう。


「はぁん♡ 息子とおててつないで登校なんて……ちょっと前じゃ考えられなかったですよぅ♡」


「もうっ……! ただでさえ目立っちゃうんだから……ああ、恥ずかしい……」


 絶世の美女がとなりにいるだけで、学生たちの目を引く。

 そして母と息子とで手をつないで登校することで、より目立つ。


 リュージはカルマとともに廊下を渡り、教室へと到着。


 ガラッ……!


「おはよう、みんなっ!」

「おー! リュージ! おはようじゃんっ」


 教室にはすでに、自分以外の全員がそろっている。

 他の四人はリュージと違って、この学校の近くの学生寮で寝泊まりしてる。

 だからリュージよりも、来るのが早いのだ。


「リュージの母ちゃんもおはようじゃん!」

「おはよう皆さん。今日も息子と仲良くしてくださいねっ」


 カルマがニコニコーっと笑って、イボンコたち同級生に言う。

 おそらく母は、このセリフが言いたくてしょうがなかったのだろう。

 花が咲いたような笑みを浮かべていた。


「これ、つまらないものですけど、受け取ってください」

「ん? なんじゃんこれ?」


 カルマがスターチに、何かを握らせる。

 リュージが見やると……。


「ちょっ!? 母さん!? なに金塊わたしてるの!?」


 でかい金の延べ棒を、カルマがどこからか作りだし、スターチに握らせていた。


「なにって、息子と仲良くしてもらっているので、そのお礼です」


「やめてよそんなの渡さないでよっ!」


 まるで母が金で、友達を買っているいるように見えて嫌だった。


 リュージは延べ棒を回収。

 母を教室の外に追い出して、一息つく。


「今日もりゅーじくんのお母さんは変わってるんだなぁ~……♡」


「あ、あはは……ごめんねみんな」


「いや気にするな。もう慣れたさ」

「逆にリュージのかーちゃんみねーと、学校来てる感じしなくなってきたじゃん」


 同級生たちは、すっかりカルマの奇行に慣れている様子だ。

 とはいえカルマのおかげ? で、同級生たちと早くに打ち解けられた。怪我の功名? というやつだろうか。


「…………ちっ」

「あ、ルットラ。ごめんね、うるさくしちゃって」

「…………べつに」


 しかし全員と友達になったわけじゃない。

 まだルットラからは、なぜか嫌われている。

 どうしてなのか誰もわからず、結局、仲良くなれないままだった。


「騒々しいぞ。席に着け」

「「「はいっ!」」」 


 デルフリンガー先生が入ってきて、授業が開始される。

 授業の最初は、小テストから始まる。


 主に昨日やった授業の内容から出題されていた。

 この学校では……というかデルフリンガーの授業では、小テストをものすごい量かせられる。

 すべての授業で、授業のまとめ小テストをやるのだ。

 

 朝の小テストが終わったあと、授業スタート。

 今日の1限目は校庭で実技授業だ。


「いちっ! にっ! いちっ! にっ!」


 何をやっているかというと、筋力トレーニングだ。

 腹筋や腕立て伏せなど、基礎的な訓練が繰り返し行われている。


「いいかっ! 冒険者に必要なのは己の肉体だ! 極限まで自分の体をいじめ抜け! そうすれば結果は必ず帰ってくる!」


「「「はいっ!」」」


 筋力メニューのあとは、持久力アップのメニュー。

 だだっ広い王都の街を、全員でマラソンするのだ。


「りゅーくーん! がんばってー! ほら、こっち向いてー!」


 マラソンをしていると、確実に、母が併走してくる。

 その手に横断幕をもって、リュージの真横をぴったりついてくるのだ。


「母さんっ! ぜえ……はぁ……恥ずかしいからかえってよ!」


「きゃ~~~~~♡ 一生懸命はしってる息子の姿かぁっこい~~~~~~♡ 世界一かっこいいよ~~~~~~♡」


「だからもー!」


 マラソンを終えると、母は帰っていく。

 校庭に戻ったら、いよいよ木刀を用いての訓練だ。


「いいか? たとえ魔法の使わない剣士であろうと、魔力操作は必須になってくる」


 デルフリンガーが木刀を持って、そう言う。

 

「魔力は人間なら誰でも持っている。その魔力はなにも魔法を打つためだけに使うんじゃない。肉体に巡らせることで、より強靱な肉体へとランクアップさせることも可能だ」


 そう言うと、デルフリンガーは目を閉じる。

 薄ぼんやりと、先生の体が光り出す。


「魔力は丹田……へそからひねり出す。全身に行き渡らせ、それを腕へ」


 魔力の光が、デルフリンガー先生の腕に集まる。

 先生は目を開ける。

 剣を軽く、ひゅっ、と振る。


 すぱぁあああああああああああああん!


 校庭の端っこに生えていた木が、軽々と、真っ二つになった。


「このように魔力を使えば、攻撃力が上がったり、衝撃波を飛ばして遠くの物をキレるようになる。魔力操作は奥深い。これができるようになれるかどうかが、中級冒険者になれるかの分水嶺だ」


 リュージたちはうなずく。


「よしっ、では魔力を練り、それを体にとどめておく訓練だ。チャイムが鳴るまで続けろ……はじめ!」

 

 校庭での実技授業が終わった後、昼休みになる。

 母のすさまじい量の昼ご飯を食べた後は、つかの間の遊び時間だ。


 リュージたちは教室で、トランプをしていた。


「よーしリュージ! 勝負だ! おら、フルハウスじゃんっ!」


 今やっているのはポーカーだ。

 スターチが、机の上にカードを並べる。


「いいの? ……じゃあ、はいっ! ロイヤルストレートフラッシュ!」

「「「おー!」」」


 同級生たちが、歓声を上げる。


「っかー! まーたリュージの一人勝ちじゃん!」

「いやしかしリュージ君、本当にポーカー強いなぁ」

「へへっ。昔から運だけは良いんだっ」


 友達とトランプ勝負に興じるリュージ。

 その様子を、廊下からのぞき見る邪竜が1匹。

 廊下の窓ガラスに、カルマがびたーっと顔をくっつけていた。


『ああ……尊いよぉ……りゅーくんがお友達と遊んでる姿……実に尊いよぉ~……』


 カルマが記録の宝珠を用いて、その様子を盗撮している。


『貴様なにをしている?』

「出たな暴力教師!」


 デルフリンガーがカルマのとなりにやってきて、母を注意する。


『部外者は出ていけ』

『いーーーーえ! 私は部外者などではなくりゅーくんのお母さんですもん! てこでもでていきませんからね!』


『ウルサい黙れ』


 ぶんっ!


 ぱりいいいいいいいいいいいん!


 デルフリンガーが剣を振り、それがカルマに当たると、そのまま母が窓の外へすっ飛んでいく。


 デルフリンガーは邪魔者を排除した後、

教室に入ってくる。


「貴様ら、いつまで遊んでいる。午後の授業を始めるぞ」

「「「はーい」」」


 午後1発目は座学だった。


 ちょうどご飯の後で、天気も良いこともあり、リュージはウトウトとしてしまう。


「こら。リュージ」


 ひゅっ。

 こつんっ。


「あいたっ」


 リュージの額に、チョークが飛んできて、それが当たったのだ。


「寝るな。授業中だ」

「ご、ごめんなさい」


 ぺこっ、とリュージが頭を下げる。

 デルフリンガーは、よし、とうなずくと、授業を続行……しよとしたそのときだ。


「ちょおおおおっと待ったぁあああああああああああああああああ!!!!」


 どがぁあああああああああああああああああああん!!!


 教室の天井が破壊され、母が降りてきた。

 華麗に着地を決めると、デルフリンガーの前にずんずんとやってくる。


「今あなた! うちの息子に暴力振るったでしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 完全にぶち切れたカルマが、デルフリンガーに詰め寄る。

 その右手には【万物破壊】の雷が出ていた。

 あらゆる物を破壊スキルを、母が使おうとしていた。

 リュージは慌てて、母を羽交い締めにする。


「止めないでりゅーくん! あいつ殺せない!」

「殺しちゃダメだってば!」


「ダメです! あろうことかあの女! うちの愛する息子に手を上げやがった! 滅却! 滅却! 滅却だぁああああああああああああああ!!!」


 カルマが大暴れする。

 デルフリンガーは冷静に、カルマのそばでやってくると。


「ウルサい。帰れ」


 カルマの胸ぐらをつかんで、そのまま天井に向かって投げる。

 そして剣を取り出して、剣でまたホームランをかます。


「おーーーーーぼーーーーーーえーーーーーーーてーーーーーろーーーーーーーーーーーーーーー…………」


 カルマが雑魚敵のように、オオ空へ向かって吹っ飛んでいった。

 その際、カルマが万物創造スキルを使い、壊れた天井をあっという間に修復して帰って行った。


 騒ぎをいとも容易く起こすくせに、きちんと後始末はする母である。


「では、授業を再開するぞ」

「「「はーい」」」


 2週間も経てば、カルマが起こす騒動に、生徒たちも慣れていた。

 何事もなく、授業が再開される。


 そして時間が進み、夕方。


 今日一日のまとめの小テストが行われた。

 採点した結果。


「今日のトップはリュージだ」

「「「おおー!」」」


 生徒たちから歓声が上がる。

 クラスの中で1番になれて、リュージは誇らしかった。


「リュージ。しっかり予習復習ができている。いいぞ、その調子で頑張れ」

「はいっ!」


 デルフリンガーから褒められると、無性に嬉しくなる。

 普段厳しい先生だけど、褒めるべき時には、ちゃんと褒めてくれるのだ。


「はぁあああああああん♡ りゅーーーーくーーーーーーーーん♡ すごいよぉーーーーーーーー♡」


 どこからともなく、カルマの声がするではないか。

 どこだろうか……? と思って見回すが、カルマの姿は見えず。


 デルフリンガーは冷静に、剣を取り出すと、天井に向かって投げる。


 ザシュッ……!


 天井から、カルマが落ちてきた。


「盗撮は犯罪だぞ?」

「うっさいですね! 誰が犯罪者かっ! 私は母親だぞ!」

「だからどうした。もうすぐ授業が終わるから、外でおとなしく待ってろ!」


「へんっ! だーれがあなたの言うことなんて聞くもんですかっ!」

「母さん。外で待っててね」

「うんっ! 外で待ってるー!」


 高速で、カルマが教室から出て行く。

 はぁ……とリュージがため息をついた。


「先生、すみません」

「気にするな」


 その後デルフリンガー先生が、明日の授業の予定を話して、ホームルーム終了。


 授業が終わると同時に、カルマがものすごい勢いで、リュージの元へやってくる。


「さぁ帰りましょっ!」

「うん。じゃあね、みんな!」

「「「ばいばーい!」」」


 クラスで同級生たちと別れ、リュージは母とともに帰路につく。


「お母さん、あの女、どこかで合ったことあるような気がするんですよ」


 ふとそんなことを、カルマが言う。


「なんというか、誰かを思い出すような……」

「母さんも? 実は僕もなんだ」


「ねー。ほんと、誰だろう……?」

「「ううーん……?」」


 そんなふうに話ながら、ふたりはカミィーナへと帰宅する。

 そしてご飯を食べて風呂に入り、今日の復習をして、床につく。


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