85.息子、学校の友達と昼食を食べる
冒険者学校に通い出してから、1週間ほどが経過した、ある昼休みのこと。
リュージたちは教室で、昼食を取ろうとしていた。
「はーい! りゅーくんお母さんがお昼ご飯持ってましたよ~!」
すぱーんっ! と教室のドアが開く。
この教室、授業中は生徒以外はいれないよう、結界が張られているのだ。
カルマはこうして、昼休みになると、速攻で教室に顔を出す次第。
初日から授業参観をかまして、どうなることかと思った学園生活。
しかしカルマは、チェキータが説得してくれたことで、ある程度邪魔するのを我慢してくれている(何度か乗り込んできたことはあったけど)。
「お昼ですよぅ♡ りゅーくんのために、スペシャルなランチをご用意っ!」
ぱちんっ!
カルマが指を鳴らすと、リュージたちのテーブルの上に、満漢全席もかくやというほどの豪華な料理が並んだ。
「「「すげー……」」」
クラスメイトたちが、感心したように呟く。
「あなたたちもどうぞ♡ なにせりゅーくんの、我が愛しき息子の学友ですからね♡」
だから、カルマはイボンコたち生徒を、大事にするらしい。
「「「ありがとうございまぁす!」」」
イボンコたちは笑顔で言うと、料理に飛びつく。
「ささっ、りゅーくんも食べて食べてっ!」
ニコニコ笑顔のカルマ。
リュージはため息をつきながら、着席する。
「ばくばく! うんめーじゃん!」
「おいしーんだなぁ~♡ りゅーじくんのお母さんは、料理の天才なんだなぁ~♡」
「こんなに上手い料理を毎日食べれるなんて、リュージくんは幸せ者だね」
うんうん、と生徒たちがうなずく。
「えへ~♡ んも~♡ お世辞が上手な子どもたちですねッ! じゃんじゃん食べなさい! もりもり食べなさい!」
気をよくしたカルマが、ぱちんぱちんっ、と指を鳴らしまくる。
いずこから大量の料理が出現。
生徒たちの歓声が上がる。
「おいリュージ。まじすげーじゃんおまえの母ちゃん」
猫獣人のスターチが、口元を汚しながら、バクバクと料理を食べる。
「うむ。強く美しくそして料理上手ときた。すごいよ、君のお母様は」
「りゅーじくんのおかーさんは、天才なんだなぁ~♡ 素敵なんだな~♡」
口々に、生徒たちが母を褒める。
「えへへっ♡ ねえねえ聞いた? りゅーくん聞いたっ? お母さんすごいって! 素敵だって! えへへっ、りゅーくんのクラスメイトに、りゅーくんのお母さんすごいねって褒められたっ」
子どものように、母が無邪気によろこんでいる。
「りゅーくんが自慢に思えるような母親に、お母さん一歩近づけた気がする……えへへ♡ うれしいなぁ~……♡」
母がいることで、恥ずかしい思いはする。
けど母が、こうして笑顔でいてくれて……リュージは嬉しかった。
多少の恥ずかしさは、我慢しよう。
「…………」
さてその一方で。
部屋の片隅で、もそもそと、自分のサンドイッチを食っている少女が一人。
「おいルットラ! おめーもこっちくるじゃん!」
スターチがぶんぶんっ! と手招きする。
部屋の片隅にいるのは、山小人の少女、ルットラだ。
彼女はチラリ、とこちらを見たが、ふいっとそっぽ向かれる。
もそもそ……と自分のサンドイッチにかじりついていた。
「えっと……ルットラ、さん。一緒に……その、どうかな」
リュージは立ち上がって、山小人のそばへいく。
ルットラがジッ……と自分を見上げる。
リュージと、そして後で「追加料理ですよぅ!」ご機嫌なカルマを見やる。
「……いらない。あんま話しかけてこないでよ」
ルットラが不機嫌そうに顔をしかめると、手元に目を落とし、こちらを見てくれなくなった。
「ご、ごめんね。何か気に障るようなことしたかな?」
冷たい態度に、リュージは慌てた。
なにか不興を買うようなことを、してしまったのじゃないかと。
「……別に」
それだけ言うと、ルットラは黙ってしまった。
リュージはどうしたものか迷ったが、結局なにもできず、元の席に戻ることにした。
「……妬ましいよ、あんたが」
「えっ? ど、どうしたのっ?」
去り際、ルットラが何かを呟いた気がした。
聞き返したが、彼女は答えてくれなかった。
「さぁさぁりゅーくんっ! 食後のデザートはいかが! はいっ、控えめなケーキっ!」
ぱちんっ。
「どこが控えめなのさっ! ウエディングケーキじゃんこれー!」
見上げるような高さのケーキが、教室に突如出現した。
「「「おおー! すげー!」」」
「みんなも感心しちゃだめだよっ! 母さん調子に乗っちゃうんだから!」
「「「いやでもすげー!」」」
「だからそれがもうっ!」
母のおかげ? だろうか。
友達たちと、だいぶ打ち解けられてきた気がする。
ただ……あの山小人の少女だけは、心を開いてくれいない。
どうしたら、仲良くなれるんだろうか……?
このあとすぐ、お母さんドラゴン第2話が更新されます!
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