83.邪竜、入学初日から授業参観する【中編】
冒険者学校生活、1日目にして、カルマが授業参観にやってきた。
リュージは反対したのだが、意外なことに、デルフリンガー先生が了承したのだ。
かくしてリュージは、入学初日から、母親が見ている前で、授業を受ける羽目になったのだった。
最初の授業は、モンスター学だった。
モンスターの生態やくせ、弱点など……モンスターに関わる知識を教えてくれる。
モンスター討伐と冒険者とは切っても切れない関係にある。
十二分に、役立つ授業と言えよう。
授業開始から数十分後。
「ではこれから、私がモンスターに関する質問する。貴様らは手を上げて答えを述べろ。いいな?」
「「「はいっ!」」」
デルフリンガーの言葉に、リュージら生徒たちはうなずく。
「がんばれりゅーくーん! お母さん見てますからねー!」
教室の後には、黒髪の美女が立っている。
バッチリお化粧を決めて、びしっとしたスーツに身を包むのは、リュージの母カルマだ。
カルマは【記録の宝珠】(映像を記録できる特別な水晶。超レアアイテム)を手にしていた。
きっとリュージの活躍を、ばっちりと録画するつもりだろう。
「……はぁ」
リュージは先ほどのことを思い出す。
教室に、突如として乗り込んできた母。
授業参観をさせろと要求してきた。
当然リュージは、母が断られると思った。
しかし意外なことに、デルフリンガーは了承。
かくしてカルマは、リュージのいる教室の後で、授業を見ていくことになった次第だ。
「では最初の質問だ」
教壇に立つデルフリンガーが、生徒たちを見回し言う。
「モンスターとは何だ? 定義を簡潔に答えよ」
基礎中の基礎の質問だった。
リュージは答えようと、ばっ……! と手を上げる。
だが当然のように、他の生徒4人も、手を上げていた。
「ではイボンコ。答えてみろ」
「はい。モンスターとは……」
とそのときだ。
「ちょおおおおおおおっと、待ったぁああああああああああああああああ!!!!」
後ろに立っていたカルマが、すさまじい形相で、デルフリンガーをにらんで叫ぶ。
「なんだ?」
冷静に返すデルフリンガー。
カルマは怒りの表情を浮かべながら、気炎を上げる。
ずんずんずんっ、と教室の前へ、デルフリンガーの前に到着する。
「なぜ! なぁあああああぜッ! 息子に当てないのですかッッッ!!!!」
カルマはビシッ……! とリュージを指さして、デルフリンガーにくってかかる。
「や、やめてよ母さんっ!」
「息子が手を上げてたのにっ! どうして他の子に当てるのですっ!? これは差別です! 大問題です! 学校側に言いつけてやるー!」
うがー! とカルマが叫ぶ。
清々しいまでの毒親っぷりだった。
リュージは恥ずかしくなって、立ち上がって母の腕をつかむ。
「母さん落ち着いてっ」
「いやですりゅーくん! この女はっ! あろうことかりゅーくんを差別したのですよ! 極刑に値します! ギルティー!」
エキサイトするカルマ。
その一方で、デルフリンガーが冷ややかにカルマを見下ろす。
「差別はしてない。イボンコが一番早く手を上げていた。だから当てた。それだけだ」
「なぁあああにを言ってるんですかっ! りゅーくんが一番に手を上げてましたっ!」
ふんすっ! とカルマが鼻息荒く言う。
リュージは、もう辞めて欲しかった……。
イボンコたち生徒の視線が、リュージの背中に突き刺さってきたからだ。
ああ、恥ずかしい……。
「ほう。では貴様が持っていた、その記録の宝珠を見返してみるが良い。誰が一番早かったか、それに記録されてるだろ?」
「むっ……! 確かにそうですね」
カルマはそそくさと、記録の宝珠に魔力を込める。
これは映像を記録し、自由に再生できる機能がついてるのだ。
「……………………」
映像を見返したカルマが、苦い顔になる。
「その様子だとイボンコが一番だったのだろう?」
「う、うるさいっ! 今回は偶々りゅーくんが出遅れてしまったんですよ! こんなことだってあります!」
母そう言うと、怒りを収めた。
教室の後ろへと移動する。
「はぁ………………」
どうかお願いだから、カルマにはおとなしくして欲しかった。
今、教室にはたくさんの同世代の子たちがいる。しかも女子だ。
ただでさえ、母親がいるというだけで恥ずかしいのに……。
落ち込むリュージをよそに、デルフリンガーが授業を続ける。
「イボンコ。答えろ。モンスターとは?」
青髪の少女イボンコが立ち上がる。
背筋をピンっとのばし、デルフリンガーをまっすぐに見て言う。
「この世界に住む動物が、魔素と呼ばれる魔力の【素】を、過剰に摂取したことで、凶暴化した獣のことです」
よどみなくイボンコが答える。
教科書に書かれていることと、一言一句違わぬ答えだった。
それをそらんじれるなんて……すごいなとリュージは感心した。
「正解だ。座れ。では次の質問だ」
「りゅーくん次だって次! 次は頑張ってね! お母さん応援してますっ! がんばー!」
カルマが両手を振り上げて言う。
リュージは振り向いて、
「わかった、わかったから母さん……もうちょっと静かにね」
ね? とカルマに落ち着くよう言う。
だが母は息子の言葉が耳に届いてないようだ。
目がらんらんと輝いている。
息子の活躍を、今か今かと待ちわびているのだろう……。
「では次だ。モンスターの強さのランクについて、説明してみろ」
これもまた基本の質問だった。
リュージは素早く手を上げる。
だが他の生徒たちも、全員が挙手していた。
これはまた、イボンコが答えるだろうか……と思っていたそのときだ。
びたぁあああああああああああん!
激しい音を立てて、イボンコたち生徒の手が、下げられたのだ。
「な、なんなんだなぁ~……?」
「急に手が重くなったじゃん! いったいなにがあったんじゃんっ!?」
生徒たちが困惑している。
手が急に、重くなった……?
リュージが周りを見渡す。
イボンコたちの手が、机のテーブルの上に、めり込んでいるではないか。
まるで魔法によって、無理矢理押しつけられているような……?
ハッ……! とリュージは合点がいったように、後ろを振り返る。
「…………(ばちーんっ☆)」
カルマが、とっても良い笑顔で、ウインクした。
その顔はまるで、投げたボールを取ってきた、子犬のような笑みだった。
褒めて欲しくてしょうがない。そんな顔をしていた。
「ま、まさか母さんッ……!」
「へぇ~? なんのことですかぁ~? お母さんなぁにもしてませんよぉ~?」
白々しく、母がそう言う。
母の態度から、リュージは悟った。
おそらくカルマが、重力魔法を使って、生徒たちの手を無理矢理下げているのだろう?
なぜそんなことをするのかって?
答えは単純だ。
今、手を上げているのは、リュージしかいない。
つまりは、まあそういうことだ。
カルマがリュージに、質問に答えさせようとしているのだろう。
「母さんッ! 余計なことしないでっていってるのっ!」
リュージが注意する。
カルマはあさっての方向を向いて、口笛を吹いていた。
しらを切るつもりらしい。
「騒がしい。静かにしろリュージ」
デルフリンガーが、カルマではなく、リュージを注意してきた。
「あ、あの先生……母さんがその……」
「騒いでいるのはあの女ではなくリュージ、貴様だけだ」
「あ、はい……わかりました」
いやそうなんだけど、母が元凶なのは明らかなのに……。
どうしてデルフリンガーは、母を注意しないのだろうか……?
「ではリュージ。答えろ。モンスターのランクについてだ」
釈然としない気持ちになりながら、リュージは質問に答えるのだった。
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