10.息子、邪竜の作った飯でパワーアップする【前編】
お世話になってます!今回も前後編です!
イージーモードすぎる初めての討伐クエストを終えた翌朝。
家のリビングにて、リュージは朝食を食べていた。
テーブルの上には、朝からステーキにパン、シチューという、とてつもない重いメニューだ。
「母さん、今日は家でじっとしててねっ」
濃厚チーズのクリームシチューを、ずず……と啜って、リュージが言う。
チーズの酸味とクリーミーな口当たりが実においしい。
鶏肉がごろっと入っており、かむと肉汁がじゅわっとあふれ出す。
寝ぼけた身体に、【活力】がみなぎる。
「ダンジョンに先回りとか、しないでよねっ!」
昨日の段階で、昨日の母の犯行は、リュージにばれてしまっている。
「えー」
「えーじゃないよまったくもう!」
「わかりましたよぅ」
カルマは、リュージがシチューを食い終わったタイミングを見計らい、2杯目を皿に注ぐ。
ちょうど欲しいと思っていたところだったのだ。
こういうところは、ちゃんと空気が読めるのに、どうして息子の安全面において、空気の読み方があさっての方向へ行ってしまうのだろか……。
とリュージはため息をつく。
「本当にわかったの?」
「本当にわかりましたよ」
リュージは、今度はガーリックトーストを食べる。
ぱりっぱりに焼いたトースト。焼くときにバターとニンニクをおろしたものを一緒にぬったのだろう。
かむとサクッ。咀嚼するとじゅわ……っとバターとともにガーリックのうまみが広がる。
身体がぽかぽかしてきて……なんだか【元気があふれ出てくる】感じだ。
母はリュージが食事する様を、じっと見ている。
不服そうな顔をしていた。
ややってふと、カルマが視線を、リュージから外す。
彼の隣でばくばくとご飯を食っていた獣人シーラに、目を向けて言う。
「母親が冒険についてくのって、そんなにおかしいことですか?」
「えと、えっと……」
シーラはもごもごと口を動かした後、こう答える。
「確かに……お母様がリュージくんのこと、心配だって気持ちはよくわかるのです。しーらのお母さんも、しーらが上京するとき、一緒についてく~って泣いてました。ただ……」
ただ、と続けようとしたのだが、
「ほーーーーーーら!! りゅー君聞きましたかぁ!」
鬼の首を取ってやったぜぇ! とばかりに、輝く笑顔を息子に向けるカルマ。
「親は子供を心配するのは当然っ! よそのうちでもほらこのとおり!」
んふー! と鼻息をあら言うカルマ。
「もういいよもう……」
はぁ~……と深くため息をつくリュージ。
最後にメインディッシュのステーキを食べる。
じゅうぅうう……っと小型鉄板の上で、
丸く切られた肉が焼ける。
肉汁がとめどなくあふれ、鉄板の熱であぶられ蒸発している。
香ばしいにおいが鼻孔をついて、食欲を増進させる。
ナイフを肉にいれると、すっ……と驚くほど簡単に肉が切れる。
バターを切ったような手応えのなさだ。
フォークで刺して肉を口に運ぶ。
かむたび……じゅわっ、じゅわわ~……っと甘い油が、赤身から漏れてくる。
身体がそのたび、ぽかぽかして……心なしか【身体が軽くなった】ようだ。また【腰のあたりがポカポカする】
……しかし、なんだろう。
これ、美味しいのだが……なんだろう。
牛の肉では、ない。豚でもないし、鳥でもない。
食べたことのない、動物の肉だった。
「母さん、これ、何の肉?」
するとカルマは、「ああっ、息子の血肉になってます。しあわせぇ~……」
と恍惚の笑みを浮かべている。
……とんでもなく嫌な予感がした。
「母さん……ねえっ、これ何のお肉なのっ?」
尋ねるリュージだが、母はまだ夢見心地の表情だ。
「りゅー君の血となり肉となり、やがてりゅー君と一体化するのです。すばらしい……。天使と融合できるなんて……もう生きてて良かったぁ……」
……猛烈に嫌な予感がする。
「母さんってば!」
強く声を張ると、母があっちから戻ってくる。
「これ何のお肉なの!?」
「お口に合いませんでした?」
「いや美味しかったけどさ……」
「なら良かった」
にっこり笑って、母は答えた。
「ドラゴンの尻尾です」
「………………………」
リュージは、聞き間違えかなと思った。
「え、もう一度」
「だからドラゴンの尻尾です。ドラゴンステーキです。王都じゃよく食べられるんですよ」
……へ、へぇ、と引きつった顔になるリュージ。
Q.これは何の肉ですか?
A.ドラゴンのお肉です。
Q.どっから取ってきたのですか?
「…………」
怖くて、母に聞けなかった。
なんかもう、いろいろ、怖かった……。
それはさておき。
母の料理を食べた後、リュージたちは冒険に出発することになった。
玄関先で母に見送られる。
「本当についていってはだめなのですか?」
「だめ。おとなしく家で待ってて」
「むぅ……」
「先回りするのもなしだからねっ!」
「ちっ」
母に釘を刺しまくるリュージ。
「わかりました。ではお母さん、りゅー君の帰りを家で待ってます」
と、割合あっさり引いた母。
それを見てリュージは、とてつもなく不安になる。
この超絶過保護お母さんが、あっさり引きすぎじゃないだろうか……。
「ホントについてくるのだめだからね」
「わかってますよ」
「ダンジョンに先回りもだめ」
「心得てますって」
「アイテムも返すからっ」
「しかたありませんね」
釘を刺せば指すほど、違和感が浮き彫りになる。
母はついてこないのに、超レアアイテムももってないのに、リュージを冒険へ送りだそうとしている。
……とんでもなく怪しかった。
【そんな危ないことさせられませんよぉ! どうしても出て行くのならこの星ぶっこわしますからあ!】
くらい、言ってくるのがこの規格外だ。
……疑念はある。しかしじゃあ母が何をしたのかまでは、わからない。
この母は、あまりに行動が読めなさすぎる。
「……行ってきます」
「はい、いってらっしゃい。シーラも、気をつけてりゅー君を守ってくださいね」
「はい、はいなのですっ!」
……かくしてリュージは、今度こそ、普通の冒険にでかけたのだった。