82.邪竜、教壇に立つ【前編】
冒険者学校・剣士科の教室へとやってきたリュージ。
同世代の4人の仲間とともに、短けれど、学園生活を送るんだ……と思っていた時期がありました。
木造の教室。その教壇には、黒髪の美女が立っている。
高い身長。豊かなボディライン。
この世の人間とは思えないほどの超越した美貌。
そこにいたのは……リュージの母、カルマアビスことカルマだった。
「こんにちは。お母さんはカルマアビス。このクラスの担任を受け持つことになりました。皆さんどうぞよろしく」
ぺこっと頭を下げるカルマ。
今日の彼女は、普段着とは異なり、スーツにメガネと実に理知的な格好だ。
……格好だけだが。
「おー! きれーなおねーさんじゃんっ!」
同級生の一人、猫獣人のスターチが声を張り上げる。
「お姉さん……?」
ぴくっ、とカルマのこめかみが微細に動く。
マズいと止める前に、カルマが高らかに宣言した。
「私はお姉さんではありません。母親……そちらにおわす素敵な男の子、りゅーくんのお母さんですよ!」
……リュージはその場で、頭を抱えた。
「……ああぁあああぁああ」
やってしまった。
さよなら、平穏な学園生活……とリュージは凹む。
「お、お母さんだぁ!?」
スターチがびっくり仰天する。
「おいおいリュージ。おめーさんすげーな!」
「ふむ……。そういえばリュージくんのご母堂は、さきほど校庭で【万物創造】スキルを発動していたような……」
青髪の少女イボンコが、冷静につぶやく。
「マジで!? あの超レアスキル使えるの!? すげー! おれたちすげーひとに剣術教えてもらえるんじゃん? すげーじゃんっ!」
「ああ、光栄だ」
スターチおよびイボンコは、カルマが教師としてやっていくことに好意的な様子。
残り二人はよくわからない。
「母さんッ! 何やってるのさッ!」
もう母としてバレてしまったので、リュージはカルマにそう尋ねる。
「何って見てのとおり、りゅーくんの先生をやってるんです」
カルマが、びしっ、と襟元をただす。
「お母さん気付いたのです。学校では友達からのイジメだけでなく教員からのイジメもあるじゃないですか。そうなったらお母さんもうこの星を滅ぼしてしまいます」
んなおおげさな……みたいな顔をする同級生たち。
いや、ごめん。
これ比喩じゃないんだ……。
「そこでお母さん考えましたッ!」
ぺかーっ! とすごい良い笑顔で、カルマが言う。
「お母さんがりゅーくんの、先生になればいいんじゃないって!」
子どものように、無邪気な笑みを浮かべるカルマ。もうこの人はどうしてこうも、りゅーじに次から次へと災難をふっかけてくるのだろうか……。
「というわけで今日からよろしく。早速ですが皆さんに試験をします」
「テスト……ですか?」
「いったいなんのテストじゃん?」
イボンコとスターチが首をかしげる。
カルマは胸をはって、黒板を向くと、チョークでこう書いた。
【りゅーくん検定】
ばーんっ! と黒板をたたく。
「りゅーくん……?」
「検定ってなんじゃん?」
「文字通りりゅーくんに関するテストを行います。りゅーくんについての100のことを次々と答えていくテストです」
? と生徒たちの頭の上に、疑問符が沸く。
「カルマ先生。そのテストに、いったい何の意味があるのでしょうか……?」
カルマは「良い質問です」とうなずいたあと、厳かに言う。
「あなたたちが息子の同級生にふさわしいか……母親には、見極める必要が……ある!」
「ないよっ! もうっ! もうっ!」
リュージは顔を赤くして叫ぶ。ああどうしてこんなことに……。
これからの学園生活、どうなってしまうんだろうか……と思った、そのときだった。
「なんだ貴様は? ここは私の教室だぞ? 部外者は出ていけ」
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