81.邪竜、息子と一緒に学校へ行く【後編】
母と別れ、リュージは冒険者学校の校舎へと入った。
中には自分と同じく、年若い冒険者たちがあふれていた。
廊下を歩きながら、リュージは自分のクラスを目指す。
「学校かぁ……初めてだな」
リュージは洞窟で15年過ごした。
学校には通ったことがない。今回が初めてであり……緊張していた。
「…………」
リュージの顔色が曇る。母の言葉が、脳裏をよぎったからだ。
『学校と言えばイジメ。イジメと言えば学校みたいなところがありますからね』
「……大丈夫、かな」
リュージは不安そうに呟く。
あのときは母に、大丈夫だと答えたが……。
内心では結構気にしていた。
「怖い人ばかりだったら……どうしよう」
ぴたり、とリュージの足が止まる。廊下を何人もの若い冒険者たちが、歩いて、リュージのとなりを通り過ぎていく。
「……ええい。ダメだリュージ。弱気になるなっ」
リュージは自分を鼓舞する。
そう、もう自分は成人したのだ。弱い子供のままじゃない。
クラスに怖い人がいないかどうかだって……? そんな子どもっぽい理由で、歩みを止めるなんて。
そんな、弱気ではいけないのだ。自分は、一人前の男を目指すのだから。
「いこうっ!」
リュージは気合いを入れて、目的地である【剣士科】の教室前までやってきた。
「…………」
リュージは深呼吸する。
自分の胸に手を当てる。ドキドキとする心を、鎮める。
「……よしっ。し、失礼しますっ!」
ガラッ。
……中は、そんなに広くはない。
家のリビングより、やや広いくらいの教室だ。
木でできたイスと机がある。
その数は5つ。
そして自分以外の生徒たちは、すでに席に着いていた。
彼らの目が、いっせいにリュージに集まる。
リュージは「あ、あの……」と口を開こうとしたそのときだ。
「おーっ! きみもこのクラスの生徒じゃん?」
短い黒髪の少女が、素早くリュージに近づいてくる。
ガシッ! と腕を首の後ろに回してくる。
「おれ、スターチ。猫獣人じゃん。よろしくじゃんっ!」
にかっ! と猫獣人の少女が笑う。
頭には猫耳、おしりには猫のしっぽがついていた。
「よ、よろしく……僕はリュージ」
「あん? 女なのに変な名前じゃんね?」
「あ、いや……僕、男……」
「へぇ! あんた男なのっ? 顔かわいいから女の子だと思ったじゃん。どれさっそく」
そう言って、スターチはリュージの股間を、手でパンパンとたたく。
「ちょっ、ちょっと! 何するんですかっ?」
リュージは顔をあらかめて吠える。
「おー、ほんとーじゃん? あんじゃん」
「スターチ。そのくらいにしないか。リュージ君が困ってるんじゃないか」
猫獣人を止めたのは、長い青色の髪をした少女だった。
目元がキリッとしている。腰には細剣が刺してあった。
「へいへい。イボンコ姐さん」
「姐さんは余計だ」
ぱっ……とスターチが離れる。
青色髪の少女が、リュージの元へとやってくると、ニコッと笑う。
「始めまして。私はイボンコ。君と同じ剣士科の生徒だ。よろしく」
「は、はいっ。よ、よろしくお願いします!」
リュージは青髪少女と握手する。
「そこの小さい彼女がルットラ。大きい彼女がノックス」
イボンコがそれぞれ指さす。
「……ども」
ぺこっ、と頭を下げるのが、どうやらルットラのようだ。
まだ子どもなのか……と思ったが、どうやら彼女は【山小人】であるらしい。
「こんにちわ、なんだなぁ~。おいら、ノックスなんだなぁ~。よろしくだなぁ~」
大柄な少女はノックス。
半巨人らしい。
女の子なのだが180くらいある。大きい。
そして胸もおしりもびっくりするくらい大きかった。
「君を入れた5人が、今期の剣士科のメンバーだ」
「よろしくじゃんリュージ! 仲良くやろーじゃん?」
イボンコもスターチも、好意的だ。ルットラはちょっと無愛想だが敵意は感じない。ノックスもおっとりしていて話しやすそうだ。
「それと敬語はやめよう。私たちどうやらみな同い年みたいだからな」
「そうじゃん! いいぜタメ語ばんばんつかってこーじゃん?」
「そ、そうだね……うんっ。よろしくね、みんなっ」
「「「よろしくー!」」」
心配していた、クラスメイトたちだが、どうやら大丈夫そうだ。
よかった……と安堵したそのときだ。
ガラッ……!
「はい皆さん! 席についてください。授業を始めますよッ!」
どうやらクラス担任の先生が入ってきたようだ。
リュージたちは慌てて、自分の席に着く。
さてどんな人が、リュージの担任になったのだろうか……?
リュージは教壇の方を見やる。
そして……。
「今日からこのクラスの担任になりました。カルマアビスです。りゅーくんの母親です!」
……リュージは、頭を抱えたのだった。
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