81.邪竜、息子と一緒に学校へ行く【中編】
自分の力不足を痛感したリュージは、冒険者学校に通うことを決意した。
学校は王都シェアノにあるらしい。
リュージがすんでいるカミィーナの街からは、だいぶ離れている。
本来なら学校に通うためには、カミィーナを出て、単身赴任的な感じで、一時的にそこで暮らす必要があった。
しかしカルマには、遠く離れた場所へも、一瞬で飛べる【最上級転移】というスキルがあった。
カルマの【転移】を使って、リュージは王都へと、一瞬にして到着した。
王都に来るのはこれで二度目だ。
前に一度、大陸東の未踏破ダンジョンへの調査へ行くとき、立ち寄ったことがある。
リュージは相変わらずの人の多さに圧倒されながら、王都のメインストリートを歩く。
「りゅーくん大変大変! 迷子になったら大変! だからお母さんとおててつなぎましょうそうしましょう!」
「や、やだよ……恥ずかしい……」
ニコニコ笑顔のカルマ。リュージは顔を赤らめて首を振る。
「なにをおっしゃる! みなさいこの人ゴミを。迷子になったら最後、かえってこれませんよ! ああ大変だ! というわけで手を! お母さんと手をつないでいきましょう! それなら安心安全!」
ふんすふんす……と母が興奮気味に言う。 どうやら母は、息子と手をつないで街を歩きたいらしい。
というか……なんで学校に直接送ってくれなかったのかと思ったら、そういうことだったのか……。
「わかったよ……もう……はぁ~……」
リュージは渋々と、母と手をつなぐ。
【えへへぇ~……♡ 息子と久しぶりにおててつないで街を歩く……しあわせ~……♡ 天に昇るぅ~♡】
「か、母さん! 出てる! 魂的なやつが! 頭から!」
死にかけたカルマを元に戻し、リュージは母とともに、冒険者学校を目指す。
途中、母があっちへ行きましょうこっちへ行きましょうと邪魔しまくったが、なんとかたどり着いた。
やってきたのは王都の東の端。
人通りは少なくなっており、また建物の数も中央と比べて減っていた。
広いグラウンドと、そして木造の建物。これが冒険者学校らしい。
「ふぅーむ……ここが冒険者学校ですが。学校というわりに、なんだかぼろいですね」
「古い冒険者ギルドの建物を再利用しているらしいんだ」
「お母さんの超ウルトラ愛しい息子が通うことになる学校が……こんなぼろいですって……? 許せません」
カルマはそう言うと、パチンッ! と指を鳴らす。
すると突如として、学校のグラウンドに、王城にも負けないほどの豪華で巨大な城が出現した。
「母さん! 何やってるの!?」
「息子にふさわしい学校を用意したのです……。ふむ、ちょっと地味すぎますかね」
母には【万物創造】というスキルがある。
文字通りあらゆる物をゼロから、意のままに作れるという規格外のスキルだ。
「今すぐ消して! 他の人に迷惑でしょッ!」
「でもりゅーくんがあんなぼろい学校に通うの、お母さん許容できませんっ!」
「だからってグラウンドにいきなりお城建てたらみんな迷惑するから! だからやめてっ!」
リュージの必死の説得により、母は渋々了承。
グラウンドのお城は、カルマの持つ【万物破壊】のスキルにより、跡形もなく消滅した。
「な、なんだったんだ……?」
「お城が急にできたと思ったら消えたぞ……?」
「いったいどうなってやがる……?」
グラウンドには、リュージと同じなのか、若い冒険者たちがいた。
彼等はみな、カルマの所業に驚きを禁じ得ないようだった。
「あの女性がやったのか……?」
「すごい人だ……」
「あの女性と一緒にいる彼はいったいなにもの……?」
「ああもうっ……また変に目立ってる……」
リュージはその場で頭を抱えて、しゃがみ込む。
いっぽうカルマは、息子がなぜそうなってるのかわからない様子だった。
「どどどど、どうしたのりゅーくん!? 風邪!? 病気!? それとも怪我!?」
カルマが回復魔法を、次々とリュージにかける。
相変わらずの過保護っぷりに、リュージはため息をついた。
「大丈夫だって……母さん、おとなしくしてて」
リュージは母にそう言って、グラウンドの一角へと向かう。
そこでは受講者の受付をおこなっていた。
リュージはその列に並ぶ。
息子の後に、カルマがそわそわしながら立っている。
「りゅーくん。お母さん心配です。学校でちゃんとやっていけるでしょうか……って」
「大丈夫だよ。もうっ。僕もう子どもじゃないんだよ?」
「しかしけれどだけれどもっ!」
カルマが顔を真っ青にさせながら言う。
「学校といえばイジメ。イジメといえば学校みたいなところあるじゃないですかッ! お母さんのウルトラ大事な息子がイジメに遭ったら!」
「大丈夫だって……」
「お母さん怒りでこの星を滅ぼしてしまうかも知れません!」
「大丈夫だからほんとやめてよね……」
美しい見た目をしていても、母は最強の邪竜カルマアビス。
この星を破壊することなど、容易くできる最強のドラゴンなのだ。
母はやるといったらやるドラゴンだ。気をつけないと……。
ややあって、列が進み、リュージが受付にたどり着く。
リュージはギルドカードを提出し、受講料を払う。
「はい、リュージさんは剣士科となります」
「剣士科ってなんでしょうか……?」
受付の人にリュージが尋ねる。
「クラスは剣士、魔法使い、僧侶、戦士……と職業ごとに分かれていて、それぞれ別の教室で授業を受けてもらうんです」
教員もそれぞれ、受講生と同じ職業のひとらしい。
つまりリュージを教えるのは、剣士の職業を持った人らしい。
「手続きは以上です。では受講生は建物の中へ移動してください」
リュージはうなずいて、受付を離れる。
ちょっと離れた場所で、カルマが待機していた。
そして……。
「うう……ぐす……ふぇええ……」
「ど、どうしたのっ。何泣いてるのっ?」
カルマがハンカチで、目元を抑えて泣いていた。
リュージが慌てて尋ねる。
「ぐす……息子が……息子が立派にぃ……受付を済ませていたよぅ……」
「…………」
「あの小かった息子が。一人じゃトイレに行けなかったあの息子が……いまや立派に、ひとりで受付を済ませられている……うう……感動だぁ……」
「母さん……やめてほんとそういうの……」
「くすん……今夜はお祝いですね!」
「しなくっていいからもうっ!」
リュージがため息をつく。さておき。
「これで手続き終わったから、授業受けてくるね。夕方には終わるみたいだから、それでまた迎えに来て」
送り迎えは母に任せている。
母に頼るのはかなり気が引けた。自立できないからと。
それでも母が送り迎えしないと、この星を壊す(王都で一人暮らしすると母がさみしさで星を壊す)。
だからこうするしかないのだ。
「りゅーくんファイトですよ! ふぁいとっ、ふぁいとっ、RYUJIー!」
カルマはいつのまにか、チアリーダーの格好になっていた。
ふれふれっ、とボンボンを振っている。ミニスカートから母の美しいおみ足が覗いていた。
「だからそういう大げさなのやめてってば!」
母は美女だ。そんな美人が太ももをさらしているため、大変目立つ。
「がんばれりゅーくん! 虐めてくるやつがいたらすぐにいってね! 滅却するから!」
「大丈夫だから! もうっ、いってきまーす!」
リュージは母と別れ、冒険者学校の校舎へと向かったのだった。
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