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80.息子、冒険者学校に通う【後編】




「だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーめ!!!!」


 息子が犬人コボルトを倒した、その日の深夜。


 無駄肉エルフことチェキータに、カルマは起こされた。


 話があるといって、チェキータがカルマをリビングに連れて行く。


 イスに腰を下ろした後、チェキータが言ったのだ。


 リュージが、学校に通おうとしている……と。

 それに対しての返答が、冒頭のそれだ。


「カルマ、駄目よ大きな声を出しちゃ。みんな寝てるわ」


 しーっ、とチェキータが口の前に指を立てて言う。

 その余裕のある態度と、仕草が、母親っぽくってむかつく。


「むぐぐ……」


 しかしチェキータの言うことももっともなので、カルマは音量を抑える。



「それで……りゅーくんが学校に通いたいって、どういうことなんですか?」


 カルマがチェキータに尋ねる。


「リューが言ってたのよ。もうちょっと強くなりたいって」

「むぅ~~~~~~~~~~~…………………………」


 カルマは、不満げに頬を膨らませた。

 ずるい。

 それ、聞いたことない。


 息子はカルマに、強くなりたいなんて、一言も言ってなかった。

 この女にだけ、言ったのだ。

 それがずるい。うらやましい。


「たまたまよ、たまたま。聞く機会があったから」

「………………そうですか」


 ちっ、と舌打ちするカルマ。

 次は絶対、この無駄肉より先に、リュージの相談を聞くのだ!


「強くなりたいのなら簡単です。私は付与魔法をかけまくります。それか強くなる料理を作っても良いですね。伝説の武器を作るのもありですよっ!」


 腕が鳴る。

 息子が強くなりたいだと?


 よぉうし、母の出番だ!

 腕によりをかけて、お母さんが息子を、強くしちゃうぞ!


 しかしそれに対して、チェキータが首を振る。


「違うのよカルマ。あくまで自力で、リューは強くなりたいのよ」

「え~~~~~~~~? どうして?」


「カルマ。リューが前に言っていたでしょ。あの子は、自立したいの。自分で、生きていく力を身につけたいのよ」


 チェキータの説明を聞いて、カルマは不満げに頬を膨らませる。

 自力で生きていく。

 それが、わからない。


 だって母は息子を守るものじゃないか。

 母は息子を、いつまでも守ってあげられるものじゃないか。


 親子の絆は、絶対に、死ぬまで切れないじゃあないか。

 母の元を離れて、一人で生きていく必要なんて、ないはずなのに……。


 どうしてだろうか、息子は、自分一人で生きていこうとする。

 母のチカラを、借りないで、自分の足で立とうとする……。


 ……嫌われてるのかな?


 すると心の中を見透かしたように、チェキータがほほえむ。


「大丈夫よカルマ。あんたのこと、リューは嫌いになってないわ。男の子が、そう言う生き物ってだけよ」


「…………その感じ、むかつくので辞めてください」


 その何でもわかってますよ、みたいなやつとか。余裕のある態度が、むかつく。


 ほんと、いつまで経っても、この女の前で、自分は母親ぶれない。


「ふんだ。りゅーくんのことは、私の方がよ~~~~~~~くわかってますよ! だって母親ですもんっ! わかってますー、男の子はそういうもんなんでしょー!」


 とはいうものの、そう言う物ってどういうもんなのだろうか……?


「そ。じゃあ改めてお姉さんが言う必要ないわね」

「あ、いや、そこは言いましょうよ」


 チェキータは苦笑して続ける。


「つまり男の子はね、いつかは誰かとむすばれるわけでしょ? リューだったらしーちゃんと」

「そうですね、早くカリューとルーマの顔が見たいです」


「誰よそれ……」


 以前空想した、リュージとシーラの息子の名前だ。


「ともかく。男の子は、いつか父親になるの。自分の家族を持ち、その家族を支えていくようになるの。それなのに、いつまでも親から自立できなかったら、困るでしょ?」


「う~~~~~~~~ん………………そういうものですか?」


「そういうものよ。あなたは例外だけど、人間の場合はね、確実に親の方が、子供より先に死んじゃうの」


 チェキータは目を伏せながら言う。


「親が死んでしまったとき、困るでしょ。支えなきゃいけない家族がいるのに、支え方がわからなかったら」

「まあ………………そうですね。でもっ」


「でも、あなたは例外。自分の方が長生きするから。そう言いたいのね?」


 チェキータが、また見透かしたように言う。

 カルマは口をつむぐ。


「でもねカルマ。人生何があるかわからないの。長く生きる種族だからって、子供より長く生きられるとは限らない。何があるか……わからないの。いつまでも……子供のそばにいられるとは、限らないわ」


 やけに実感がこもっているように、チェキータは言った。


「だからね。親が死んだとき困らないように、年頃の男の子は自立しなきゃって思うよう、本能ですり込まれているの」


「嫌な本能ですね」


 顔をしかめるカルマ。

 チェキータは苦笑して、そう言う物なのよと言う。


「まあ……いちおうは理解しました。納得はしませんけどねっ!」


 ふんすっ、とカルマが鼻息をつく。


「そもそも冒険者学校って何なのですか?」


 カルマの問いかけに、チェキータが答える。


「冒険者ギルドが管轄している機関の一つよ。初級冒険者が、中級冒険者になるために、冒険の技術や、戦い方を教える学校」


「ふぅん、そんなのがあるんですね」


 知らなかった。

 しかしこの女が、どうしてそんなことを知っているのだろうか。


 まあ、無駄肉は、無駄に長生きだから、無駄な知識も知っているんだろう。


「教師は引退したベテランの冒険者が多いわね。しっかりと指導してくれるから、安心して通わせて良いと思うわよ」


 なるほど。

 素性のわからないやつが教師をするんだったらふざけんなだが。

 ベテランがそのワザを教えてくれるのなら、任せても良いかもしれない……。


「学校って言うと、あれですか。一年間くらい通わせる感じになるのですか?」


 そうなったら駄目だ。

 一年も学校に通わせたくない。


 だって学校行ってる間、一緒にいられないじゃないか。そんなのさみしい。


「いや、一ヶ月単位で受講できるの。一ヶ月ごとに実力試験があって、それに合格すれば卒業。駄目なら継続。けど辞めたいならいつでも辞められるわ」


「ふぅむ……あんまり学校って感じしませんね」


 どちらかと言えば、個別指導の塾とか、そんなイメージだろうか。


「一ヶ月くらいなら通わせてもいいんじゃない?」

「でも……りゅーくんがそばいにいないと、私が爆死しますよ?」


 文字通り爆発して、この星を道連れにして死ぬかも知れない。


「学校は日中だけだし、夜には帰ってこれるわ。その学校は王都にあるんだけど、ま、あんたなら【転移】が使えるんだから、大丈夫でしょ」


「なるほど! そうでしたねっ!」


 自分が学校まで送り迎えすれば、息子が王都に1ヶ月いるという事態にはならない。

「しかし……ぐぬぬぅ……。学校って良いイメージ無いんですけど。いじめとか大丈夫かな?」


「さっきも言ったけど、学校と言うより訓練所みたいなものよ。いじめなんてあるわけないでしょ」


「いじわるな教官がいるかも……」


 チェキータは苦笑して続ける。


「厳しいひとは多いけど、いじわるな人はいないわよ」

「ほんとですか?」


 むぅ、とカルマが唇をとがらせる。


「ほんとよ。お姉さんが言うんだから、間違いない♡」

「…………」


 むかつくが、しかし確かに、この女が嘘を言うことはない。

 むかつくけど、そこは信頼している。むかつくけど。


 チェキータは、珍しく真剣な表情で、言う。


「カルマ。リューは強くなりたいって、本気で悩んでいたわ。息子の本気を、くんであげるのも、母親の役目よ?」


 チェキータの言葉に、カルマは確かに……と納得する。

 と、同時に、腹が立った。


 母親とは何かを、この女に教えてもらったことが、むかついた。

 チェキータは、自分より母親として格上である。

 その事実を、突きつけられているみたいで。


「……わかりましたよ」


 はふん、とため息をつくカルマ。


「りゅーくんの意思を尊重します。……本当は、嫌ですけど」


 息子には、自分のそばから、片時も離れて欲しくないのだが。


「ふふっ♡ えらいわカルマ。ちゃんと我慢できたわね♡ えらいえらい♡」


 チェキータがほほえみながら、頭をなでる。

 カルマは、それをぺしっとはねのける。

 

「じゃあリューが学校に通うの、許してあげるのね」

「ええ。入学の手続きとかはどうするんですか?」


「今度お姉さんが王都行くとき、案内をもらってくるわ」

「助かります。お願いします」


 さて話が一段落したので、カルマは寝ようと思った……そのときだ。


「ところでカルマ。ちょっとお願いがあるんだけど」


 とチェキータ。


「なんです?」

「お姉さん、ちょっと1週間くらい、お休みいただいてもいいかしら?」


 カルマがチェキータを見やる。

 いつも通り、ニコニコほほえんでいた。


「いいですけど、なんでです?」

「お姉さんね、上司から有給取れって言われてるのよ~」


「はぁ……。そう……」


 死ぬほどどうでも良かった。


「働けくことも休むことも強要されるんだもの。ほんと、組織で働くって大変だわ~」

「けっ……。あ、そうですか。休むんだったら勝手にどうぞ」


 そもそも監視役なんて、こちらから頼んでつけてもらっているのではない。

 国王側が、お願いだからつけさせてくれと言うから、仕方なくつけているだけだ。


 監視が解かれようがそうでなかろうが、カルマには何一つ関係の無いことだった。


「てゆーか、あなたが休んでいる間の監視って誰がやるです?」

「それは問題ないわぁ」


 チェキータが立ち上がると……。


 ブンッ……。


 と、彼女の姿がぶれる。

 そして……。


「ふ、二人いる……」


 その場には、チェキータが二人いた。


「これ、お姉さんの分身。お姉さん【暗殺者アサシン】のスキル持っているの」


「ああ……【影分身】ってやつですか?」


 確か実態のともなった分身にせものを作るスキルだったと思う。


「そうそう。分身にあなたの監視させるから、問題ないわ♡」

「あ、そ」


「分身とは言ってもお姉さんのようにいろいろ考えたり複雑な命令は送れないんだけど、黙って見張りくらいはできるから安心ね♡」

「毛ほども心配してないので、どーぞご勝手に」


 一通りしゃべった後、チェキータが立ち上がる。


「それじゃカルマ。お姉さん、ちょっとお姉さん、王都へ行って、学校の案内取ってくるわね」

「はいはい。とっとと行ってくださいよ」


 しっし、と犬を追っ払うように手を振る。

 すると気付けば、チェキータは煙のように消えていた。


「……学校、かぁ」


 そういえば息子を、学校に行かせたことはなかったな……。


「ハッ……! 子供を学校に通わせるのって、なんだかとっても、母親っぽいー!」


 と喜ぶカルマ。


「ハッ……! でもでもっ、りゅーくんがクラスになじめなかったらどうしよう……」

 

 あああ! ともだえるカルマ。


「…………。よぅし」


 カルマは決意めいた表情を浮かべて、うなずいた。


 ……まあ、ろくでもないことになりそうなのは、火を見るよりも明らかだろうが。


 かくしてカルマは、息子を学校に通わせることにしたのだった。

そんな感じで8章「学校に、ついてこないでお母さん」編です。


りゅーくんが学校に通うことになります。

モンスターお母さんの、文字通りモンスターペアレントっぷりを楽しんでいただけると嬉しいです!

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