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78.邪竜、孫二号をピンチから救う

お世話になってます。



 邪竜によって強制的に眠らされてから、翌日。


 元・魔王四天王ベルゼバブこと、バブコは、カルマたちのもとを離れ、森の中に居た。


「死ぬかと思ったわ……」


 森の中を歩きながら、バブコがげっそりとする。緑の髪の上に生える、虫の触角のようなものが、ぺちょっとたれた。


「あの盗人女……われをころすきか……?」


 昨晩、カルマのスキルで、眠らされたバブコ。その後妙な圧迫感を感じ、目覚めるとそこには、幸せそうに眠るカルマがいたのだ。


 カルマはバブコを、ぎゅーっと抱きしめていた。


「とんでもないチカラじゃった……死ぬかと思ったわ……ほんと……」


 逃れようと思っても、カルマの腕力にはかなわなかった。結局カルマの腕から逃げられたのは、明け方、彼女が寝返りを打ったときだった。


 そして解放されたバブコは、こうしてカルマの元を逃げてきた……という次第。


「……とんでもない女に、魔王様のチカラが渡ってしまったのじゃ……」


 バブコはここ数日のことを思い出す。


 邪竜カルマのブレスで、消し炭にされたバブコ。身体は分解され、魔素に還った……と思われたが。


 気付けばバブコは、再び受肉していた。邪竜の息子の身体から、生み出された。


 その後あの息子リュージのそばにいて、邪竜カルマの行動を見ていたバブコ。


「魔王様のチカラを、あんなショーもないことに使いよって……」


 ため息をつくバブコ。あの邪竜、主人たる魔王のチカラを、何に使うのかと思ったら。


 すべてあの息子のために、使っているだけではないか。


「宝の持ち腐れだし、魔王様の名に泥を塗っておるわ……」


 街からだいぶ離れ場所へやってきたバブコ。はぁとため息をつく。


「……あそこにいたら、いつまで経ってもあの女からチカラを回収できぬからな」


 確信した。あの無駄に最強の女がいる、あの家に居たら、絶対に魔王のチカラは回収できないだろう。


「姿を消し、やつが油断してる隙をついて、再び魔王様のチカラを……」


 と、思った、そのときだった。


「あ、あれ……?」


 バブコは、その場にぺたん……と座り込んでしまった。


「な、なんじゃ……?」


 立ち上がろうとする。しかしいくら力を込めても、バブコの足に力が入らない。


「た、立てぬ……どうして……?」


 街から離れた森の中。それも明け方。森の中の闇が、やけに暗く感じる。


「ち、力が入らぬ……。これは、魔力が切れてるのか?」


 魔族であるベルゼバブにとって、魔力は身体を動かす力だ。魔力が切れると動けなくなるのは必然。それはわかる。


 だがさっきまであふれかえっていたはずの、体内の魔力が。


 なぜか知らないが、からになっているではないか。


「ど、どうして……? われの体内魔力はどこへ行ったのだ……?」


 わからない。わからないが、このままでは問題だ。


 魔力が無いのなら、バブコはこの場から一歩も動くことはできない。ここはモンスターの住まう森の中だ。


「ど、どうしよう……。いまモンスターに襲われたら、われは……」


 対処できない。戦うチカラはおろか、逃げる力すら無いのだから。


「と、とりあずま、魔力が回復するのを待とう。な、なに森の中とは言え人里が近い。こんな場所にモンスターなんて来ないだろうなっ!」


 と思っていたそのときだった。


 がさっ……!


「ひっ……! な、なんじゃあ!?」


 尻餅ついた状態のバブコ。音のする方を見やる。そこに居たのは……。


「GURUUU…………」


「れ、レッド・ハウンド……!」


 大きな犬型モンスターだった。犬歯がやたら大きい。尻尾が炎になっていた。


「し、しもうた……D級のザコモンスターとは言え、今のわれではッ……!」


 一歩も動けずにいる人間バブコなど、格好のエサにしかすぎないだろう。


「GURAAAAAAAA……!!!」


 ハウンドが吠えながら、バブコに向かって走ってくる。


「ひっ……! く、くるなぁ……!」


 バブコが逃げようとする。だが魔力の切れた身体では、動くことができない。魔法で対処することも不可能。


 ハウンドがどんどん近づいてくる。鋭い犬歯だ。アレにかみつかれたら痛いではすまないだろう。


「た、助けてっ! 助けてーーーー!!」

「GUROOOOOOOOOOOAAAAAAAA!!!!」


 バブコは目をつむる。この貧弱な身体では、あの化け物にかまれただけでぽっくり逝ってしまうだろう。


 バブコは死を覚悟した。目を閉じて、心の中で謝る。


 ……魔王様、ごめんなさい。と謝った……そのときだった。



 ーーがきぃいいいいいいん!!!



 何かとてつもなく硬いものに、硬いものがぶつかったような音がした。


「GUUU…………」

「な、なに……?」


 恐る恐る、バブコが目を開ける。そこにいたのは……。


「大丈夫ですかっ、バブコッ……!!!」


 黒髪をなびかせる、長身の美女。


 邪竜カルマアビスの、人間に化けた姿だった。


「もう心配しましたよっ! 私の天使りゅーくんが産んでくださった天使が朝起きたらいなくなってるんですものっ!」


 カルマがほぉー……っと安堵の表情を浮かべる。眼に涙を浮かべていた。


「でも良かった♡ 本当に良かったです♡ もうっ、お母さんが寝てるときにピクニック行くなんて、いけないこですねっ」


 頬を膨らませながら、カルマが言う。


「お、おぬし噛まれてる! 腕を噛まれておるぞ!」


 今現在、レッド・ハウンドがカルマの腕に、普通にかみついていた。


「え? だからどうしました?」


 きょとんとするカルマ。


「あ、いや……おぬしはそうだったな。むやみに最強だったな……」


 最強のチカラを取り込んだことで、カルマアビスは最強の邪竜になった。


 当然、D級なんていう、下級のモンスターからダメージなど受けるはずもない。


「しかしバブコが無事で何よりです。本当に良かったぁ……。りゅーくんの大事な娘である、あなたに何かあったら、どうしようかと……」


 すんすん、と鼻を鳴らすカルマ。その間にもハウンドは、カルマの腕をかみちぎろうとしている。


「うっとおしいワンちゃんですね。ていや」


 カルマが軽く、ハウンドの額に、デコピンを打つ。


 ずっどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!!!!!!!


 指で軽くはじいただけなのに、爆撃音がした。


 すさまじい衝撃とともに、レッドハウンドが粉みじんに吹き飛ぶ。


 その反動で、バブコも吹っ飛ばされる。


 でこぴんひとつで、この威力……。な、なんちゅうやつだ……。


 バブコは安堵と、そして今の衝撃で、後にひっくり返り、地面に頭をぶつけてしまう。


「うう……」

「あぁあああああああああああバブコごめんねぇえええええええええええええええええええええええ!!!!!」


 気を失いそうになるバブコ。泣き叫ぶカルマの姿を視界に捕らえた。


 すぐに近寄ってきて、治癒の魔法を施してくる。……どうして?


 気が遠くなりながら、バブコは疑問に思う。どうしてこの女は、自分を助ける?


 どうして、こいつはバブコの無事を喜んでいた?


 どうして……どうして……? と思いながら、バブコは意識を失ったのだった。

明日も更新します。

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