表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/383

09.息子、ギルドで賞賛(誤解)されまくる

お世話になってます。



 スモールバットの討伐に成功したリュージは、相棒のシーラと一緒に、ギルドへと戻った。


 ギルドの受付へ。


「おかえりなさい! どうでした?」


 受付嬢に成果を聞かれる。


「えっと……その……」


 どう答えるべきだろうか、と悩むリュージ。


「りゅ、リュージ君……」


 シーラも困り顔だ。


 それを見た受付嬢が、ははぁ、と得心顔になる。


「あらー、だめでしたか?」


 えっ? と驚くリュージとシーラ。


 そんな二人をよそに、受付嬢が続ける。


「でも、しょうがないです。駆け出し冒険者なんて、最初はそんなものですよっ! 元気出してくださいっ!」


 受付嬢は、リュージたちがクエストに失敗したと思ったらしい。


「そうだぜ坊主!」


 ちかくでリュージたちの様子を偶然見ていた男が、近づいてきて言う。


「おれも一番最初のクエストには失敗したさ。だがその失敗も今は良い経験だったと思うぜ!」


「ですよねー! だからうん、ふたりとも落ち込まないでっ! 元気出して、ねっ?」


 うんうん、と受付嬢ともども、男がうなづいている。


 ……どうやらこのふたりは、失敗して凹んでいる若手を、慰めようとしてくれているみたいだ。


 どうしよう、めちゃくちゃいい人。


 だからこそ、リュージはどうしよう……とさらに額に汗をかいた。


「はわわ、はわわ……」とシーラは完全にパニックになっていた。


 まずい……。と、リュージは思う。完全に誤解されていた。


 ここでまさか、クエストは成功していたと言えないし。


 まさか1500匹も倒してきたよ……とは言えなかった。これ


「スモールバット10匹討伐は難しかったわね。次回はもう少し簡単なクエストを紹介します」


「なんならおれが一緒に行って、面倒見てやろうか?」


 受付嬢の言葉を聞いて、男がそう提案する。


「いいですね。Dランクのクラインさんが、スモールバット退治も兼ねて行きます」


「だろう? よし、坊主。明日はおれとパーティを……」


 と、そのときだった。


「りゅー君っ、クエスト達成おめでとぉおおおおおおおお!!!!」


 ばーんっ! とドアを勢いよく開けて、中に入ってきたのは……母、カルマだった。

 こんなときに……!? とリュージは驚愕。


 カルマはすんごい笑顔でスキップしながら、リュージの元へやってくる。


 途中、「うちの息子が見事クエストを達成しましたー!」「うちの子天才なんですよー!」「うちのことってもすごいんですよー!」


 と大声で宣伝するカルマ。


「やめてよぉもぉー!!!」


 ほんと、やめて欲しかった。


 母親の息子自慢は、思春期男子にはキツい。


 カルマがこちらにやってくる。


 母の言葉を聞いて、受付嬢と、そして男が「へ?」と首をかしげていた。


 さもありなん。なぜなら彼らは、リュージがクエストに失敗したと思っている。


 だのに、その母が、クエスト達成おっめでとう-! 良かったな! と最高の笑顔で、大きな声で言って回っているではないか。


 やがて母がリュージのそばまでやってくる。


「りゅー君……ぐす……すごいです……立派におつとめを、果たしてぇ……」


 カルマはハンカチを取り出して、自分の目元をぬぐう。


「クエスト達成おめでとう。お母さん、リュージをここまで育ててきて良かった。本当、立派になったわね、りゅー君……」


「……母さん」


 いや9割9分9厘、あなたの手柄なんですけど……。


 リュージは何もしてなかった。ほんと、母がすごかっただけだった。


 そして……。


「えっと、リュージさんの、お母様ですよね?」


 受付嬢が、カルマにそう聞いてくる。


「ええ、そうですよ。たった今、超難易度のクエストを達成して見事凱旋を果たした英雄りゅー君の母。それが私です」


 ふふんっ! とものすんごい笑顔で、カルマが誇らしそうに胸を張る。


「クエスト?」「達成……?」


 受付嬢と冒険者の男がともに首をかしげる。


 そんなのお構いなしに、息子自慢する母。


「りゅー君の活躍によってスモールバット1500匹が討伐されました。1500ですよ? これはだれにでもできことじゃあないですよねっ?」


 それを聞いて、受付嬢がぽかーん、と口を開く。


「あの……冗談……ですよね?」


 受付嬢が疑いのまなざしを、リュージと、そして母に向けてくる。


「ハッ……! りゅー君が神にも等しい偉業をなしたというのに、それを信じられないとは。やれやれ、とんだ不届き者ですね」


 ふぅ……っとため息をつく母。


「もうっ! やめてよ母さん!」


 もうそれ以上息子自慢を、息子の前でしないで欲しかった。消え入りたい……。


「さありゅー君。証拠を見せてやりなさい。ドロップアイテムと、そしてギルドカードを提出するのです」


 ギルドは、クエスト達成を、2種類の方法で確かめている。


 討伐クエストなら、倒したモンスターの一部分(ドロップアイテムでも可)。そして、ギルドカード。


 ギルドカードには、その人が倒したモンスターの数字が、魔法によって自動的に表記されるのだ。ちなみに自分で倒さなくても、パーティとして何体倒したかがカウントされる。


「うう……」


 嫌だ。提出したくない。だって……申し訳ないじゃないか。

 

 ちらり、とリュージは受付嬢と冒険者の男を見る。


 さっき彼らは、リュージたちを慰めてくれた。


 ……なのに、そこで実は楽勝で達成できてたんだよとは言えない。


「ああもうっ、りゅー君が見せないのなら、お母さんがみんなに自慢しちゃいますねっ!」


 カルマはニコニコ笑顔で、リュージからギルドカードを取り上げる。


「あっ! やめてよっ!!」


「やめませんっ。息子のすごいとこ、みんなにもわかってもらいたいですからっ!」


 カルマに悪気はない。それはリュージにもわかっている。


 ただ空気を、読んでくれ……! と 叫びたくなった。


 カルマからギルドカードを奪われ、彼女が受付嬢にそれを手渡す。


 受付嬢はカードを受け取って、「え……?」


 ぽっかーん……っと口を大きく開く。


 母の鼻がぐぐんっ! と高くなった……ように見えた。


「ど、どうしたんだ?」

「く、クラインさん……すごいわ、この子……!!」


 受付嬢がキラキラとした目を、リュージに向けてくる。


「ど、どうした……っ?」


「この子のカードの……スモールバット討伐数が、1504って!!」


 ついに……ばれてしまった。


 きっと嘘ついたのか! と怒られてしまう……とリュージは首をすくめる。


 だが、「「天才だぁあああ!!!!」」


 予想に反して、受付嬢も、冒険者の男も、リュージを絶賛してきた。


「すごいっ! すごいわっ! 10で良いところを1500って!」


「こ、こりゃぁ……おまえ、とんでもない化け物ルーキーが入ってきたじゃねえか……!」


 キラキラと輝く目をリュージと、そしてとなりで「あぅうう…………」と縮こまっているシーラに向ける。


 どうやらシーラは人見知りらしい。


 リュージの後ろに隠れて、きゅっ、と服を引っ張ってくる。


「すごいぞリュージ君っ! 君は天才だ!」


「ほんとねっ! 百年に……いえっ、2百年に一人の天才かもっ!」


 やんややんや、と絶賛してくる。


 リュージは困惑したし、反論したかった。母がすごい道具と根回しをしたからできたのだ。それにそもそも倒したのはシーラの魔法だと。



「ち、違うんです……。これは……」


 ちらり、と母の方を見やる。


 母は滂沱の涙を流しながら、記録の水晶でリュージの姿をとらえている。シーラはパニック状態から回復してない。


「りゅー君最高です! 輝いている……いまあなたは最高に輝いてます!」


 カルマは涙にむせながら言う。


「息子が期待のルーキー! ああっ! お母さん嬉しくって失神しそうです……!」


「母さん説明してよっ! 僕の手柄じゃないって!」


 しかしカルマは、リュージの手柄であると自慢しまくる。


 近くにいた人たちがリュージに「すげえ!」「天才だ!」「英雄ユートの再来だ!」


 と口々に褒めていく。


「どうして……こんなことに……」


 人々からの賞賛をその身に受けながら、リュージは深くため息をついたのだった。

おつかれさまです。


夕方にまた更新します。全力で頑張ります!


よろしければ下の評価ボタンを押していただけると嬉しいです。さらに頑張れます!


ではまた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ