77.邪竜、孫二号を必殺技で寝かしつける【後編】
夜、孫たちを寝かしつけようとしている。
孫一号のルコは、簡単に寝てくれた。
だがしかし、孫二号・ベルゼバブのバブコは、寝ましょうという提案に対して【いや!】と拒否。
寝室にて。
「どうして嫌なのですか?」
「まずもって……なぜおぬしの命令にしたがわねばならぬのかっ!」
バブコは寝室のベッドの前に立ち、びしっ! とカルマを指さす。
カルマはベッドに座り、となりで寝ているルコの頭をなでている。
「別にお母さん、あなたに命令など出してないですけど?」
「だしたではないかっ! われはベルゼバブ! 魔王様に使える身! おぬしのようなまがい物の命令にしたがう義理はない!」
孫二号が、よくわからないことをおっしゃる。これはどういうことだろう?
ちょっと考えて、なるほどとうなずく。
「わかりました」「そうかわかってくれたか」「まだ眠くない起きていたいってことですね?」「全然わかっておらん!?」
あれ違うのだろうか?
まだ眠くないから、ベッドに入りたくない! と駄々をこねているのだとばかり思っていた。
「駄目ですよぅ、睡眠は大事です。寝ないと大きくなれませんよー」
うふふー♡ とカルマが笑う。あ、やっべ今のセリフすっごくお母さんっぽいー! とウキウキするカルマ。
「うるさい! われはおぬしと寝るつもりはない! ふんっ!」
バブコはそっぽむくと、寝室から出て行こうとする。
いけない……夜更かしは美容の天敵! そして寝不足は成長を妨げる!
「駄目ですよー」
カルマは、超高速でベッドから出る。そして魔王四天王が反応できない超スピードで、バブコを後から補足した。
「い、いつの間に!?」
「さ、バブコー。お母さんと一緒に寝ましょうねー」
よいしょーっとカルマが孫を持ち上げる。
「は、離せぇ! あほー!」
じたばたと暴れるバブコ。カルマはうふふと笑いながら、しかし決して孫を離そうとせず、ベッドへ向かう。
「な、なんじゃこれは!? 強く抱擁されてないはずなのに……全然逃げられない!? どうなっとるんじゃ!」
「そんなもの、母の愛が発動してるからに決まってますよ♡」
どやぁ……と得意げな顔になるカルマ。
……まあ、そんな【母の愛】なんてあやふやな物は発動してない。
カルマはすごいチカラで、バブコを抱きしめている。下手したら人体を真っ二つにしかねないチカラだ。
しかしここに、カルマが無意識に【防御】スキルを発動させ、バブコの体を守っている。
バブコは防御鎧を着ているような状態。その上から、すさまじいチカラで抱きしめられている。
結果、すごいチカラで捕縛されているのに、本人に肉体的なダメージがない、という状況ができている次第だ。
「はなせー! はーなーせー! あほー!」
陸地にあがった魚のように、バブコが暴れまくる。
「夜更かしNG。さっ、寝ますよぅ」
カルマは孫二号を連れて、ベッドへ向かう。バブコをベッドに寝かせる。
「くっ! 逃げられない! 片手で押さえられてるだけなのに!」
カルマはバブコのお腹に、軽く手を乗せている状態だ。すさまじいパワーがかかっているのだが、上述した防御スキルのおかげで、身体にダメージはない。
ちなみにこの防御スキルがない場合、いくら魔王四天王だからといって、内臓破裂程度で住まないレベルの損傷を受けることになる。
だがそれを、バブコはもちろん、カルマ自身もよくわかってなかった。無自覚チート過ぎる母。それがカルマである。
「はなせー! はーなーせー!」
「こらこら。ルコが起きてしまいますよぅ。さ、安らかに眠りなさい」
「いやじゃーーーーー!」
バブコが大声を上げ、抵抗する。となりで寝ているルコが、うう……とうるさそうに顔をしかめた。
いけない……それは、いけませんな!
「しかたありません。あまり使いたくない手ではありますが……必殺技を使うときが来たようです」
カルマの言葉に、バブコがビクゥッ……! と体を過剰に萎縮させる。
「な、なんじゃ! われにいったい、何をするつもりじゃ!?」
身構えるバブコに、カルマは安心させるよう微笑みかける(つもり)。
……しかしバブコは、さらに体を萎縮させ、「ひぎ……!!」と恐怖した。
なにに怖がっているのだろう。不思議!
……まあ勝手にバブコが、カルマに対して【こいつこのタイミングで笑うとか……何か企んでるに違いない!】と思っているだけである。勘違いである。
「お母さんの必殺技の一つ……【お母さん子守歌】!」
くわっ! とカルマが目を見開いて言う。
「お、お母さん子守歌……だと? なんじゃその頭の悪そうなネーミングのワザは?」
さらっと罵倒されたが、気にせずカルマは言う。
「このワザはすごいんですよ。聞いただけで深い眠りの世界へ、一秒で誘われるんです」
カルマが得意げに言う。
「ゾウさんだって一秒でばたんきゅーですよ」
「それ人体に影響ないんじゃろうなぁ!?」
「え、たぶん」
「たぶん!?」
さぁ……っと青ざめた顔で、バブコが叫ぶ。
「嫌じゃー! 死にたくないー! われは邪神王さまの! 魔王様の悲願を達成するまでは死ねぬのじゃー!」
逃げようとするバブコ。カルマは早く寝かしつけないと、とお母さん的使命感にかられる(謎)
「死にませんよ♡ 安心なさい……いざっ!【お母さん子守歌】!」
きゅぃいいいん……! とカルマがスキルを発動させる。
「嫌じゃー! 死にたくないー!」「るー♪ らー♪」「ぐぅー…………」
カルマの歌声により、バブコは一秒で、深い眠りの世界へと落ちていった。
カルマはやり遂げた女の顔で、額の汗(※かいてない)を拭う。
「ふぅ……さすがお母さん子守歌です……母の子守歌は、孫を眠りの世界へいざなう魔法の歌です……すげえ……お母さんすごいです……!」
ちなみに。
カルマが使ったのは、別に【お母さん子守歌】とかいう、妙ちきりんなワザではない。
カルマが使ったのは、【人魚姫の子守歌】と呼ばれる、魔法スキルの一つだ。
いかなる相手だろうと、聞かせた相手を、即時眠らせるという恐るべきスキルだ。
これはレベル差を無視して発動するスキルである。相手がいくら格上の超強力な敵であろうと、一瞬にして強制的に眠らせるスキルだ。
……かように危険極まりないスキルだが、カルマは無意識にスキルを発動。無意識に加減し、バブコを眠らせた次第だ。
何度も言うが、カルマは自分の力を完璧に把握してないが、しかし無意識下で、スキルを制御している。
ここには確かに、相手を傷つけないようにという、カルマの優しさが反映されてはいる。
彼女が言うところの【母の愛】があるからこそ、超強力なスキルを使っていても、相手を傷つけることはないのだ。
とはいえ。
無意識でこんな超強力なスキルを使われても、周りは良い迷惑である。
だがリュージを始め、この家の住人は、優しい性根の持ち主ばかりだ。カルマの行き過ぎた行為を、笑って流せるだけの度量を持ち合わせている。
……まあ、もっとも。
新しく入ってきた、この孫二号は別だろうが。
とにもかくにも、カルマは孫二号を無事寝かしつけることに成功。
寝る前に【お休みりゅー君♡ ん~~~~~ちゅっ♡】と息子が寝ている部屋に向かって、エアキス(相手が居ないのにするキス)をして、安らかに眠るのだった
今年もカルマお母さんを、よろしくお願いします!