76.邪竜、ドラゴン・ステーキ(自家製)を息子たちに出す
お世話になってます!
海で新鮮な魚介類(S級モンスター)を手に入れた後。
カルマはスキルを使って、孫たちとともに、家へと戻ってきた。
「おうちー」
「つ、疲れたわい……」
ベルゼバブの化身、バブコがげっそりと吐息をつく。
「どーした。ばぶこ。おつかれ?」
「ああ……誰かさんのせいでな……」
バブコがため息をつく。それを見たカルマが……。
「だぁああああああああれその不届きものはぁああああああああ!!!!」
くわっと目を見開いて、口から火を出しながら叫ぶ。
「ウチのかわいい孫を疲労困憊させるとは良い度胸だなぁ! お母さんがビームで灰にしてあげますよ! 出てこいごらぁ!」
半狂乱で叫ぶカルマ。何人たりとも、うちの孫を傷つけたり、嫌な思いをさせるやつは許さないのだ。
「おぬしというやつは……はぁ~…………」
「かるま。ばぶこ。へーき。みたい」
「あらそうなのですか」
怒りのオーラを引っ込めるカルマ。ルコがうなずく。
「ばぶこ。つかれてる。るぅ。一緒。おふろ。はいる」
「わかりました。二人だけで入れますか?」
「ばっちり」
ぶいっ、とルコがピースサイン。とととっ、とバブコに近づいて、両手をつかむ。
「ばぶこ。おふろ。ゆっくり。からだ。いやす」
「る、ルシファー……おぬし、われを気遣って……」
「どーきょー。よしみ」
「ありがとうルシファー」
ルコはバブコと手をつないで、その場を後にする。ふたりは並んで、仲良くお風呂へ行った。
さて。
一人残されたカルマ。
「よぉおおし! りゅー君が帰ってくる前に、お夕飯をつっくるぞー!」
とは言ってもだ。カルマにとって料理とは、
「ほっ、よっ、ほいっと」
ぱちんっ、ぱちんっ、と指を鳴らし、【万物創造】スキルで事足りる。
テーブルの上に、スープやサラダが並ぶ。コンソメのスープに、しゃきしゃきのサラダ。
あとは今日とってきたリヴァイアサンとやらの切り身を薄くスライス(素手で)して、
「刺身よーし! サラダよーし! スープよーし」
テーブルに並ぶ料理。これで完璧……かと思ったのだが、
「ううむ……足りない。足りないなぁ……」
うむむ、と考える。
「りゅー君は冒険者。明日の仕事に備えて、なにか力のつくものを食べさせてあげたい。刺身も良いですが、これだけでは足りない……」
どうしよう、と悩むカルマ。でも夕飯の献立を考えるのって、めっちゃ母親! とうれしくなる。
「魚だけじゃだめ……。お肉、そうだお肉だ。お肉をステーキにしましょう。それだ」
カルマはさっそく行動に出る。ちょっと外に出て、【用事】を済ませて、戻ってくる。
手には食材。
「よぉし! つっくるぞー! 待っててりゅー君! シーラ! 孫たち! いまお母さんが最高においしいもの作りますからー!」
と意気込んで、カルマは調理スタート。フライパンに肉をおき、調味料を垂らしながら、じっくりと焼いていく。
ステーキは肉を焼くだけの料理? そんなことない。これにだって手間と暇がかかるのである。
ややあって。
カルマがステーキを焼き終わった頃、
「ただいまー」「カルマさん、ただいまかえったのですー」
息子と義理の娘(予定)が、冒険者ギルドから帰ってきたのだ。
もちろん息子が帰ってくるのはわかっていた。なにせ、遙か上空から、監視映像をゲットしているのである。
天空に浮かぶ城から、カルマは息子たちの安全を見守っており、何かあったときはすぐに迎撃できる準備が整っている。
まあそれは今、関係ない。
「おかえりなさい、りゅー君っ♪ シーラ♪」
カルマはパタパタと歩いて、息子たちを出迎える。ンばっ……! と大きく腕を開いて、カルマは息子たちをむぎゅーっと抱きしめる。
「か、母さん苦しい……」
「えへっ♪ カルマさんのハグ、しーらだぁいすき♪ 柔らかくて暖かい、お母さんのハグなのです」
リュージはやや困り顔で、シーラはニコニコ顔で、それぞれカルマを出迎える。好き。大好き。
「お夕飯の用意ができてますよ! お風呂も沸いてます。どちらにします?」
「お腹すいたからご飯が良いかな。ルコたちは?」
「今お風呂に……あ、帰ってきましたね」
風呂場から、ほくほく顔のルコとバブコがやってきた。
「りゅーじっ!」
バブコはリュージに気づくと、全速力でダッシュ。そのままリュージに飛びつく。
「ただいま、バブコ。なにかあった?」
「ありまくりだ! 死ぬかと思ったぞ!」
「そ、そこまで……? いったい何があったの?」
「恐ろしくてわれの口からはとてもとても……」
ぞぞっ、と背筋を震わせるバブコ。
「るーちゃん、ばぶちゃん何があったのです?」
「とくに。なにも。かるま。いつもどおり。ばぶこ。びっくり」
シーラがルコを抱っこして尋ねる。ルコはシーラの胸にスリスリしながら答えた。
「初めてだとびっくりするよねー」
「ねー」
仲よさそうな義理の娘と孫の姿を、【記録の水晶】でばっちりと録画するカルマ。
「さ……! みんな、ご飯ができてますよぅ!」
く~~~~~~~! 今のセリフ、お母さんっぽいー! と内心小躍りしながら、カルマが言う。
「僕おなかぺこぺこ」
「しーらも!」
「るぅもー」
「……ふんだ」
息子たちを連れて、カルマはリビングへと移動。
「わぁ……! お夕飯、今日も豪華なのですー!」
シーラがぴょんぴょんっ、と跳ねる。それを見たルコが、まねするようにぴょんぴょんする。
「ばぶこ」
「なんじゃい」
「ばぶこ。も。ぴょんぴょん。する?
「せぬわ!」
「のり。わるい」
「われはそんなガキくさいことせぬ」
「ばぶこ。がき。くせに」
「なんじゃとっ!」
「ああ孫同士が仲良くしてる~……尊ぇ……尊ぇ……」
感涙にむせるカルマ。
さておき。
テーブルの前に座る子供たち。
「お刺身にステーキって……すごい豪華だね、今日」
「ええ! おさしみだけじゃ力がつかないかなーっと! 思って」
「そっか。ありがとう母さん」
にこーと笑う息子の姿を見て、カルマは気を失いそうになった。
「あーーーーーーーーー♡ すきっ♡ 息子すきーーーーーーーーーーー♡」
「ど、どうしたの母さん急に……?」
「はぁ……! しまったぁ! 心の声が漏れてましたよー!」
ああああ! とカルマが叫ぶ。
「カルマさんは今日も元気いっぱいなのです!」
「かるま。うるちゃい。しょくじ。おしずかに」
ニコニコと笑うウサギ少女。褐色幼女はもくもくと刺身を食べていた。
さてその一方で、バブコはというと……。
「…………」
ステーキを前に、バブコは固まっていた。
「おやどうしたのです、バブコ?」
「……おいデカ女。なんじゃこれ?」
「何と言っても、普通のステーキですが」
「……本当に?」
「ええ」
じーっとバブコがカルマを凝視する。
「さっきこれ、ひとくち、食った。のじゃが、われの魔力が、とんでもなく回復したのじゃ」
バブコが腕を組む。
「つまりこの肉には、魔素、つまり魔力のもとが多量に含まれていたことになる。……いったい、これは何の肉じゃ?」
そんなこと意識したことまるでなかった。やはりりゅー君の娘は父に似てかしこい! と思いながら、カルマは答える。
「ドラゴンのステーキですよ」
「ドラゴン……?」
こくっ、とカルマ。
「ドラゴン?」
「ええ、ドラゴン」
「いつとったのじゃ?」
「ついさっきです。あなたたちがお風呂に入ってるとき、ちょんぎったのです。尻尾を」
「へ~………………はぁ!?!?!?」
バブコが瞠目する。
「い、いまおぬし、なんと申した!」
「え、だから尻尾をちょんぎったと」
「はぁあああああああ!?!?!?」
バブコが叫ぶ。
「ばぶこ。うるちゃい」
ルコは顔をしかめながら、もくもくとステーキを頬張る。
「る、ルシファー! そんなばっちいの吐き出せ! 病気になるぞ!」
バブコはルコの隣へ行くと、ルコからステーキを取り上げる。
「や。るぅ。どらごんてーき。好き」
ルコはバブコからステーキを奪い返す。
「うまい。うまい」
「ルコ!」
「うまい、うまいのです♪」
「シーラ!」
ふたりとも平然と、カルマの作ったドラゴンステーキ(自家製)を食べる。
「お、おぬしらおかしいんじゃないのかっ?」
震えながらバブコが言う。
「そうなのです? おいしいのです♪」
「そう。おいしい」
「「ねー♪」」
嫌そうな感じをさせず、ふたりはカルマのステーキ(文字通り)をおいしそうに食べてくれる。好き♡
「りゅ、りゅーじぃー……」
バブコがリュージのそばへ行く。息子もまた普通に、ステーキを食べていた。
「こやつらおかしいよお~……」
「あ、あはは……初めてだと戸惑うよね」
苦笑するリュージ。
「けど母さん、悪気があってやってないから」
「ほんとか? 自分の肉を切って食わすとか、嫌がらせにもほどがあるじゃろ」
ちがうよ、とリュージが笑いながら首を振る。
「母さんは不器用なひとなんだ。ステーキも、食べた僕らが元気になるように、ってただそれしか思ってないんだよ。いやがらせなんて思ってないよ」
「そう……なのか?」
「うん、そうだよ」
即答するリュージに、カルマは倒れそうになった。
「……この女を、やけに信用してるのだな」
「うんっ。だってその……僕の母さんだもん」
にこやかに笑う息子を見て、そのセリフを聞いて、カルマは……。
「……………………」
「カルマさんが灰になったのですー!!!」
シーラが叫ぶ。カルマは真っ白な灰になっていた。うれしすぎて。
「か、母さん! 大丈夫!? かぁさあーーーーーーーーん!!!」
「はぁあああああい♪」
すぐに復活するカルマ。息子に呼ばれたらすぐに復活お母さんなのである。
「さあみんな、お夕飯を続けましょう♪」
「「はーい♪」」
「うん」
「…………ふん」
和やかに、しかし騒がしく、夕食の時間は過ぎていったのだった。
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ではまた!