74.邪竜、息子の仕事の邪魔しないよう邪魔者を排除する
お世話になってます!
孫2号がごねて、息子の冒険についていこうとなってから、1時間後。
息子、義理の娘(予定)、そして孫×2ともに、カルマは街の外にいた。
リュージたちが住んでいるのは、人間の住む大陸中央やや南よりの街。
王都が北端にあることを考えると、この街は王都から離れた、いわゆる田舎や辺境と言った扱いになる。
街の名前をカミィーナと言った。
カミィーナは辺境とは言え、周囲にダンジョンが多いことから、この街には人が人が多く訪れるのだ。
さてカルマたちがいるのは、カミィーナから南に下った先にある草原だ。
息子は、カルマたちからちょっと離れた場所にいる。
身をかがめて、息を殺している。
その様子を見ているカルマ。
「はぁ~~~~~………………♡ 息子が仕事に真剣に挑む顔……素敵……尊い……♡」
うっとり、とカルマが頬を染めて、息子の勇士を見やる。
「かるま。ぱぱ。まだ。なにも。してない」
「息を潜めてるじゃあないですか。見てくださいあの立派な息を潜めっぷり! 【全国・息を潜め大会】があったら優勝するレベルですよ!」
「なんじゃいその妙な大会は……」
カルマの両隣には、褐色金髪の幼女。そして緑色の髪をした幼女がいる。
それぞれ息子の第一子【ルコ】、第二子の【バブコ】だ。
「おいデカ女。りゅーじは何をしておるのじゃ?」
バブコがカルマを見上げて言う。カルマの身長は170くらい。大してバブコは120~130。なるほど確かにデカ女だろう。
「あーん、お母さんには【お母さん】っていう立派な名前があるんでよう。だから遠慮無く、気軽に、お母さんって言ってくださいよぅ」
「お母さんはおぬしの名前じゃないだろうが……」
バブコはルコを見やる。
「おいルシファー。この女はいつもこんなアホアホなのか?」
ルシファーとは、ルコのことだ。彼女は実は、大悪魔ルシファーの転生体だったりする。
「おおむね。こんな」
「そうか……」
するとルコが、ぷくっ、と頬を膨らませる。
「なんじゃ?」
「るぅ。るぅ」
「は……? 何を言っておるんじゃ、おぬし?」
ルコがぷくっとしたまま、ペンペンとバブコを叩く。
「るぅ。るぅ!」
「だから何を言っておると……。なんかおぬし幼児退行しておらぬか?」
「してない。るぅ。おおむね。こんな」
「前はもっと知性を感じられたぞ……」
そんな孫たちの微笑ましいやりとりを、バッチリと録画するカルマ。
「はぁ~…………自慢の息子の、自慢の孫たちが仲むつまじくしてるよぅ~……。とっても仲良しさんだよぅ~…………」
「おぬしの眼窩にはビー玉でもつまっておるのか……?」
あきれたように、バブコがため息をつく。
「それよりもおいデカ女。りゅーじたちはいったい何をしてるのじゃ?」
バブコがリュージたちを見て言う。
「りゅー君たちは冒険者のお仕事をしてます。今日は草原に出現するモンスターの討伐ですね」
「ふぅむ……。モンスターなどおぬしが魔法で殲滅すれば良いではないか。なぜ息子のりゅーじにやらせて、おぬしは後にいるのじゃ?」
するとカルマが、キュピーンッ! と目を輝かせる。
「聞きたいですかっ!?」「あ、いいや面倒そう……」「聞きたいんですね! 説明しましょう!」
バブコが「いや別に」とかなんとか言っているが、カルマには聞こえなかった。
「ふふ、いいですかバブコ。あれは息子のお仕事なのです。それを横からお母さんがじゃましちゃあ、ダメでしょう?」
ふっ……と母性を感じさせる(とカルマが思っている)笑みを浮かべるカルマ。
今の私最高にお母さんっぽい-! と心の中で絶叫し、その場でタップダンスを踊る(心の中で)。
「やけに普通のことを、さもすごいことのように言うなおぬし……」
「それ。な」
うんうん、とバブコとルコがうなずいている。何を言ってるのか、ちょっとワカリマセンネ。
「ああっと! 今回の討伐目標である、ワイルド・トードを発見しましたね!」
視線の先。息子から少し離れ場所に、人間ほどの大きさの、カエル型モンスターが出現した。
「今回はあのでっかいカエルを倒すのが、りゅー君たちのクエストです!」
「おぬしやけに説明口調だの……」
「かるま。ろくが。してるから」
「録画?」
バブコがカルマを見てくる。その手には手のひらサイズの水晶玉が握られている。
これは【記録の水晶】という。映像を取り、記録として残しておくことのできるアイテムだ。
ちなみに結構なレアアイテムであり、これを売るだけで家が買えるほどである。
「さぁ2人とも! 息子を応援しましょう! がんばれーと!」
「お、おう…………」
バブコがカルマに気圧されていた。
「さぁ! まずは魔法で先手を打つようですよ! うちの息子の、かわいいお嫁さんが、精神を集中して魔法の準備をしています!」
かわいいお嫁さんとはシーラのことだ。
彼女は魔法使いの杖を構えて、精神を集中させる。魔素を体内に取り込んで、魔力へと変換している。
「どうやら【雷剣】でカエルをしびれさせ、その間に倒す作戦のようです!」
「お、おぬしどうして、あの小娘が使う魔法がわかるのだ?」
バブコが目を剥いて尋ねてくる。
「え、そんなの普通にわかりますよね?」
「いやわからんて……。なぜわかる?」
「なんかこう……なんかわかるんです」
……ちなみにカルマの知らないことであるが。カルマの持つ幾千のスキルの中に、【魔法感知】というスキルがある。
これは、相手(敵)が何の魔法を使うのかを、魔法が発動する前に知ることのできるチートスキルだ。
これは常時発動型スキルである。カルマが使おうと思って使っているスキルではないため、彼女は【なんとなくわかる】と言ったのだ。
さらにくわえると、カルマは自分の持っているスキルを全て把握し切れてない。邪神王を倒し、カルマは星の数ほどあるスキルを手に入れた。
あまりに数が多すぎるので、本人はその全容を把握してないのだ。
それはさておき。
「さぁ! シーラが魔法を発動させます! 大きな雷の剣が、ワイルド・トードの脳天に突き刺さる! お見事……! FU~♪ うちの娘は息子同様TENSAI! 完全無欠の息子ジーーーーニアスっ!」
カルマがイェイイェーイ! とはしゃぎまくる。
「…………」
一方で、カルマの姿を見て、バブコが顔を引きつらせていた。
「ばぶこ。わかる」
ぽん、とルコがバブコの肩を叩く。
「でも。これ。かるま」
「お、おう……そっか」
孫たちが何かとっても仲よさそうにしていたので、その様子も記録しつつ、カルマは息子たちの方を見やる。
「さぁワイルド・トードは」しゅばっ! ばびゅん! ざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅ「動けないぞ! りゅー君チャンスだ! 頑張れー!」
カルマはキャアキャア! と黄色い声援をあげる。
「え? あれ? おいルシファー。いまこの女、超スピードでどっかへ行かなかったか?」
「いった。それが?」
「いやそれがって……」
「よくある。あるある」
「はぁ?」
バブコがなんか首をかしげている。
「さぁりゅー君が」しゅばっ! しゅばばばっ! ざしゅざしゅざしゅ!
「カエルに近づいた!」ばしゅっ! ざしゅざしゅざしゅ!
「上段に剣を構えて」しゅばばばっ! ざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅ「カエルに一撃を食らわす-! きまったぁああああああああああああああああああああ!!」
カルマは【万物創造】スキルを使って、大きな筒を作る。
「なんじゃそれ……?」
首をかしげるカルマ。ルコはスッ……と自分の耳を両手で押さえる。
「ばぶこ。みみ。おさえる」
「は?」
「いいから」
バブコが同じように耳を押さえる。カルマはそれを確認した後、
「着火!」
「は? おい何を……?」
ひゅ~~~~~……………………………………。
どどおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
ぱらぱらぱらぱらぱら………………!
「な、なんじゃあ!?」
バブコがびっくりして、その場に尻もちつく。筒の中から煙が出ていた。
「ああバブコごめんなさい! うるさかったですね? ごめんね~~!」
カルマはワンワン泣きながら、バブコをぎゅーっとハグする。
「ええい離せ暑苦しい!」
逃げようとする孫がめっちゃ可愛い。じゃなかった、逃げたがっていたので離す。
「さっきの筒から出たアレは何じゃ?」
「あれは祝砲です」
「祝砲?」
ええ、とカルマはうなずく。
「りゅー君がモンスターを見事撃破したので、そのお祝いの花火を打ち上げました。えへへっ♪」
万物創造スキルで、花火を作って、息子を祝福したのだ。なんと母親っぽい! とひとりご満悦のカルマ。
「お、大げさすぎるじゃろ……」
「そんなことないですよぅ。祝砲1発くらいじゃ、りゅー君が成し遂げた偉業をお祝いしきれないです。もっとスターマインとか作っておかないと」
「? まあ……おぬしがドがつくほど親ばかなことはわかった。それともう一つ聞きたい」
カルマはパァッ……! と晴れやかな気持ちで笑みを浮かべる。孫が! 孫が! お母さんに(お婆ちゃまに)興味を持ってくれてるヘイヘイヤッホー! と思いながら、
「へいへいやっふ~♪ なんですかっ♪」
「気色悪っ……! ……さっきのざしゅざしゅって動きのことじゃ」
バブコの言っていることに、心当たりのあるカルマは、ああアレのことねと合点がいく。
「あれはなんじゃ? おぬしが超高速で移動して、どこかへ行ってるように思えたのじゃが?」
「ええ。ちょっと邪魔者を排除してきました」
「邪魔者?」
「まあ実際見ればわかると思います」
カルマはそう言うと、「変身!」邪竜の姿になる。
孫たちを背中に乗せて、邪竜は飛び上がる。
眼下の様子が見えてくる。
「な、なんじゃ……!? ワイルド・トードの他に、フィールドモンスターたちの死骸が山のように!」
草原にはモンスターが動かなくなって、大量に倒れている。
【フィールドに出現するのは、なにもあのカエル1匹だけじゃありません。他のモンスターも当然出現します】
カルマは得意げに言う。
【息子が仕事している最中に、ああいうモンスターたちがやってきたら、邪魔ですからね。だからお母さんが、超高速で移動して、倒してきたんですよぅ】
うふふ~♡ いま最高に母親っぽい~♡ 今の私さいこうに母親~♡ と思いながら、カルマは得意げに言う。
「…………」
それに対して、バブコが言う。
「なあ、それ……何の意味があるのじゃ?」
【意味? そんなの決まってるじゃないですか!】
カルマは自信満々に言う。
【りゅー君たちの身の安全のためです! あの子たちが安全安心にクエストをこなすための、必要な配慮! 気遣い! 忖度! です!】
ああやっべ……。今の私、めっちゃ母親……かつて無いほど母親ってる(動詞)わー……。
と思いながら、カルマが楽しそうに言う。
さて、それに対して、孫はと言うと。
「お、おう……」
なんか、どん引きしてた。
「ばぶこ。これ。かるま。ふつう」
「お、おう……そうか……りゅーじは、大変なんじゃなぁ……」
あきれたように、ルコ。バブコは息子に、なんか同情していた。
なんだろう? わからん!
かくして息子は無事・完璧に、仕事をこなしたのだった。偉い! 帰って祝杯だ!
次回もよろしくお願いします!