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73.邪竜、家族総出で出勤する【後編】



 バブコを風呂に入れた後、リュージは母の作ってくれた朝食を食べた。


 食事が済み、いよいよ出勤となる。


「じゃあみんな、行ってきます」


 玄関先にて。リュージは装備品を身につけた状態で立っている。隣には杖を持ち、ローブを身につけたシーラがいる。


「りゅーじ。どこへいくのじゃ?」


 緑髪幼女のバブコが、リュージに問う。


「仕事。冒険者やってるんだ、僕とシーラ」

「冒険者とはなんじゃ?」


 リュージは軽く説明する。依頼を受けて、薬草を採ってきたり、モンスターを倒してきたりする。


 クエストをこなして、お金を得る職業であると。


「じゃあ母さん。ルコ。それにバブコ。行ってくるね」


 リュージが手を振るう。


「い゛っ゛て゛ら゛っ゛し゛ゃ゛い゛」


 それに対して、母が血の涙を流しながら手を振るう。


「母さん。血が。血が出てるよ。大丈夫なの?」

「だい゛じょ゛う゛ぶです゛。こ゛れ゛ト゛マ゛ト゛ケ゛チ゛ャ゛ッ゛プで゛す゛」

「ぜんぜん大丈夫じゃない!?」


 カルマは歯がみして、血の涙をボロボロと流していた。


「か、母さん大丈夫なの?」

「うう……大丈夫じゃあないです。大事な息子と義理の娘かっこかりかっことじを危ない冒険にいかせるなど! ああ! 心配! 心配ですよおおおおおおお!」


 カルマはその場に仰向けに寝る。そして子供のようにジタバタと手を振る。


「心配心配ついていきたい! ついていきたいーーーーー!」

「子供かよ……」


 そう言いつつ、リュージは母の成長を感じた。以前なら、有無を言わさず、母はついてきた。


 だが今はどうだろう。ついていきたいということは、ついていきたいのを我慢しているということだ。


 なんといい成長の度合いだろうか。


「カルマさん。大丈夫! リュージくんが一緒なのです。全然心配じゃないよ」

「ああシーラ!」


 バッ……! と立ち上がる。そしてシーラを胸に抱く。


「あなたの体はもうあなた1人の体じゃないんです! だから危ないクエストになんて行かせたくないのですよ!」

「母さん! へ、変な言い方しないでよ!」


 ちなみにシーラとはキスまでしかしてない。いやなんだその注釈は。別にいいだろそんなもん!


「カルマさん……しーらのこと、そんなに大事に思ってくれてるのです……?」

「当たり前です。あなたは大事な息子の、大事な婚約者なのですから」

「カルマさん……」


 母の気が早いこと早いこと。まだ恋人でしかないのだが。母の中では、もうシーラは義理の娘になることが確定してるらしい。

 別にそれにたいして、リュージは何ら不満に思ってない。この優しいウサギ娘が、自分のお嫁さんになってくれたらとても嬉しいのだから。


「?」目が合う。

「えっと」口ごもる。

「えへっ♪」笑う。かわいい。


「アア嫌だ嫌だシーラもりゅー君もやっぱり冒険に行っちゃいけないですよ! ああーーーーー!」


 とまた地面に倒れて、じたばたと子供のように手足を動かすカルマ。


「かるま。みっともない」


 一方で褐色幼女は、ぬぼっとした表情のまま、あきれたように首を振るう。


「るーちゃんはお留守番できるのです?」

「うむ。るぅ。さいきん。るすばん。できる。しんぽ」


 んふー、と得意げに鼻を鳴らすルコ。


「……りゅー君がいなくなるとさみしくなって泣いちゃうくせに」

「かるま。だまれ」


 ぺちぺちぺち、とルコがカルマの額を叩く。


「りゅ、りゅーじよ」


 すると黙っていたバブコが、焦り顔でリュージに尋ねる。


「どうしたのバブコ?」

「話をきーてる限りだと、おぬしらだけがでていって。このデカ女とわれはおるすばんとゆーことか?」


 リュージがうなずく。するとバブコの顔が、さっ……と青くなる。


「い、嫌じゃ嫌じゃー!」


 バブコがリュージの体に抱きつく。だだっこのように首を振るう。


「こ、こんな恐ろしくて鬱陶しい女と一緒なんて! 精神を病んでしまうにきまっておるじゃろうがー!」


 そんなことない……と言おうとして、しかし否定できないリュージであった。母のべたべたっぷりはよく知っている。


 慣れてないバブコがカルマの猛攻撃を受けて、果たして無事でいられるだろうか?


「われをおいてくなりゅーじ!」


「ええ……。でも僕ら仕事あるし。今日はダンジョン探索だから、危ないよ?」


「この女と一緒にいる方が万倍もあぶないわー!」


 ぶんぶんぶん! と首を振るうバブコ。


「あらあらバブコ。あなたはいったい何を恐れてるのですか?」

「おぬしはだまっとれー!」


 半泣きでバブコが、リュージを見上げてくる。


「なぁわれをおいてくでない。ついていかせておくれ」

「え、ええ……無理だよ危ないよ……」


「ダンジョンに出現するモンスターなど、われの敵ではないわ」


 すると母がピュキューン! と目を光らせる。


「では! 家族みんなで行くのはどうですかー!」


 母が手を上げて、そう提案する。


「みんなでって……?」

「文字通りですよう。ほらほら、バブコがさみしがってついていきたいって言うじゃないですか? けどバブコのおもりが必要じゃないですか? だから、だーかーら!」


 どんっ! とカルマが自分の胸を叩く。


「お母さんが! 不詳このカルマアビスが! かわいい孫のボディガードをつとめさせていただきますーーー!」


 名案思いついた! とばかりに、輝く笑顔を浮かべるカルマ。


「決して、いや決してりゅー君たちにね、ついていきたいんじゃあないですよ。ほらバブコが。バブコがついていきたいって言うから仕方なくね!」


 えへへ~ん♪ と楽しそうに、そんな嘘八百をつげるカルマ。


「……本音は?」

「りゅー君と冒険についてく大義名分できてラッキーうれしー超ラッキー!」


 ……欲望に忠実な母だった。


「こ、こやつまでついてくるのか!?」


「そうですよぅ。ほら、お父さんの仕事の邪魔しちゃいけませんからね♪ お母さんと一緒に、りゅー君の活躍を応援しましょ♪」


 ……いや、本当は、本当に嫌だった。しかしバブコがかわいそうなのと、それに母がさっき悲しそうにしていた顔。


 ……結局。


「……わかったよ」


 かくして、家族同伴で、冒険に出発するのだった。母親同伴冒険から、数ヶ月でこのレベルアップである。

次回もよろしくお願いします!

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