73.邪竜、家族総出で出勤する【中編】
息子が孫と風呂に入っている、その頃、カルマはと言うと。
「ああ……りゅー君りゅー君。早く出てこないかなぁ~」
カルマはリビングにて、息子たちの帰りを待っていた。
「かるまー」
2階から、とととと、と幼女がこちらへ向かって歩いてきた。
「ルコ。おはようございます!」
褐色の幼女だ。短い金髪。眠たげな半眼。華奢な体つきにゴスロリ服。
この子はルコ。ルシファーの転生体だ。かつてカルマがルシファーを倒した後、この幼女が息子の体から出てきたのである。
「かるまー。だっこー」
「良いでしょう! へいへいかもーん!」
凄い笑顔で、カルマは両手を広げる。孫はその胸にぴょんっ、と飛びつく。そしてカルマの豊かな乳房に、ぐにぐにとほおずりする。
「ああルコ。今日もあなたはりゅー君に似てかわゆさ抜群ですね!」
よしよしよーし、とカルマは笑顔で、孫の頭を撫でる。
「かるま。ぎゅー。して」
「ばっちこーい!」
ぎゅーっ、とカルマがルコを、強く抱きしめる。
「るぅ。すき。かるま。ぎゅー。ほどよい。だかれごこち」
「おほー♪ そんな嬉しいことを言って……! もう! ルコはお母さんを喜ばせる天才ですな! りゅー君の次にですが!」
えへへ~♪ と笑いながら、孫とカルマは、その場でくるくると回っていた。
そのときである。
「カルマさんっ♪ おはよーなのです!」
2階から今度は、別の女の子が降りてきた。うさ耳の少女だ。
小柄で、丸顔。童顔。ともすればルコと同じくらいの年代に見えなくもない。
しかしその実態は、息子と同い年の少女。名前をシーラという。
「シーラ! おはようございまぁす!」
にっこー! と笑顔になるカルマ。この子は息子の恋人であり、カルマの義理の娘(予定)なのだ。
「!」
ルコはシーラに気付くと、ぐいーっとカルマを押しのける。
「かるま。はなせ」
「あーん。どうしてですかー?」
ルコがカルマの腕から逃げる。そしてぷいっとそっぽ向く。
「べたべた。しない」
「さっきまでべたべたしてたじゃないですか?」
「してない。るぅ。べたべた。してない」
ぷぷいっ、とルコがそっぽを向く。
「しーらー」
ととと、とルコはウサギ少女へ向かって歩いて行く。
「るーちゃん。おはよーなのです♪」
シーラがルコをよいしょと抱っこする。ルコが胸にスリスリとする。
「ああん。お母さんともっとスリスリべたべたしましょうよぅ」
「しない。るぅ。そんなこと。してない」
ぷーい、とルコがそっぽ向く。
「るーちゃん恥ずかしいんだよねー? カルマさんのこと大好きだけど、人前だとはずかしんでしょー?」
「ちがう。そんな。こと。ない」
頬を染めて、ルコがそっぽ向く。シーラが笑ってルコを頭を撫でる。
それを見たカルマが、
「ふぁぁあああああああああああああああああ!!!!」
と奇声を上げる。
「なんと美しい! 孫と娘との愛! 愛! 美しい愛情ぅううううう!!! 尊いよぉおおおおおおおおお!!!!」
カルマはスキルで、【記録の水晶】を作る。映像情報を記録できるアイテムを作成した後、それを使って、シーラたちの様子を撮影する。
「ほらほらこっち向いて! お母さんにその美しい親子愛の姿を見せてぇえええええええ!!!」
「うるちゃい」
ルコが不快そうに顔をゆがめる。
「はぁあああああ!!! ご、ごごごご、ごめんねルコぉおおおおおおお! うるさくしてごめんよぉおおおおおおおお!」
「だから。うるちゃい」
「今日もカルマさんは元気なのですー」
和やかに娘たちと過ごしていたそのときだ。
「母さん。出たよ」
息子が孫(2号)を連れて、風呂場から出てきた。
「りゅーーーーーーくん!」
記録の水晶を放り投げて、カルマがびょんっ! と飛び上がる。息子の体に抱きついて、ちゅっ♡ ちゅっ♡ と額にキスをする。
「孫のおもらしのためにお風呂に入れるなんて! ああ偉い子! うちの子のなんと偉いことか! りゅー君偉い子賢い子ですよぉおおおおお!!!」
ちゅ♪ ちゅっ♪ とキスの嵐を、カルマがリュージに浴びせる。
「や、やめてよ母さん……。恥ずかしいよ」
「恥ずかしがってる姿もまた最高です! ああ息子可愛いうちの息子が世界一可愛いことを世界中の人に知らしめたい! 写真集だそうかな」
「やめてってばもうっ」
息子とスキンシップを取った後、カルマは孫2号である、バブコを見やる。
「バブコ」
「な、なんじゃいっ。やんのかっ?」
バブコがファイティングポーズを取る。カルマは苦笑して首を振る。
「しませんよ。バブコはもう家族の一員です。我が家へようこそ!」
カルマは嬉しくなって、バブコに抱きつく。
「ああ! 孫がふたり! そして義理の娘に息子がいる! しあわせー!」
心から幸せをかみしめながら、孫に抱きつく。
「ええい! 離せ! 離せデカ女!」
不愉快そうにバブコが顔をゆがめる。ぐいぐいと体を押しのけようとするが、最強邪竜に腕力で叶うはずもない。
「ああんそのちょっとツンツンしてる感じがたまらなく可愛いです! えへへっ、可愛い可愛い♪」
「はなせー! りゅ、りゅーじー! 助けろ-!」
リュージは母と娘のやりとりを見て、苦笑していた。
「母さん。バブコが嫌がってるよ。やめて」
「はーーーい!」
ぱっ、とカルマが手を離すと、ばびゅん! とバブコがリュージの後ろに回る。
「りゅ、りゅーじよ……。おぬし凄いやつなんじゃな」
「僕は別に凄くないよ」
「いいや。あの最強邪竜に言うことを聞かせておる。おぬしはやっぱり、すごいやつだったんじゃ」
感心したように、バブコがつぶやく。リュージは苦笑しながら、「違うよ」と首を振るう。
「そぉおおおおんなこと、ないですよぉおおおおおお!!!」
カルマはババッ! と手を広げて、リュージをハグする。
「りゅー君は凄い男の子です! そのすごさは天地創造をした神を超える! りゅー君が歩けば道に花が咲き、りゅー君が笑えばたとえ嵐の日でも雲が割れて晴れになるのです!」
リュージを胸にだきながら、カルマが力説する。
「そ、そんなことできないよ……」
「いいえできます! りゅー君が本気出せば、ちょちょいぱーでできますよ!」
「そんなことないよ、もう。母さんはほんと、大げさなんだから」
はぁ、とため息をつくリュージ。義理の娘は笑い、孫たちも笑っている。
……ああ、これが幸せなんだなと、カルマは思うのだった。
後編に続きます。