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71.息子、第二子を出産する

お世話になってます!




 ベルゼバブの事件から、一週間が経過した、ある日のこと。


 季節は秋も深まってきた頃。

 朝。寝室にて。


「ふぁあ……むにゃむにゃ……よく寝れましたね」


 ベッドに横たわっていたのは、黒髪の乙女だ。長く艶のある髪。真っ白な肌に、豊かな乳房と尻。


 黒目にぱっちりとした二重まぶた。顔の作りは恐ろしく整っている。顔のパーツは、どれも神が自らの手で作ったかのように、完璧なバランスで配置されていた。


 すくっ……と彼女が立ち上がると、身長が高いことがわかる。170ほどあるだろうか。


 この美しい女性こそ、邪竜カルマアビス。その人間に変化した姿である。

 

「今日も快眠です。ふふ……それもこれも、私の作った【抱き枕】のおかげですよぅ」


 そう言ってカルマアビス……カルマは、ベッドを見やる。ベッドの上には、ひとつの【抱き枕】が置いてあった。


 その抱き枕には、最愛の息子、リュージの全身が印字されているではないか。


「ふふ……等身大サイズりゅー君抱き枕です♪ これは売れる……流通に出したら大ヒット間違い無しですよ!」


 それはそうだろう。作った本人カルマが万単位で購入しそうだから。


「りゅー君抱き枕のおかげで、私は今日も心地よい眠りを堪能することができました。やはりりゅー君は神……。抱き枕になってもお母さんをいやしてくれるのですからね!」


 いや息子は別に抱き枕になってない。単にプリントされているだけだ。しかもこれを作ったのはカルマであり、そのことはリュージは知らない。


「さてっ! お着替えして、息子たちのために朝の準備をしないとですね!」


 カルマはグイッと伸びをすると、ぱさ……っと身につけていたパジャマを脱ぎ捨てる。


 大きく突き出た乳房。きゅっと引き締まった腰。なだらかなヒップライン。男なら垂涎物の極上の肉体を、カルマは惜しみなくさらす。


「よっと」


 パチンっ! とカルマが指を鳴らす。すると次の瞬間、カルマの体に、新しい衣服が出現した。


「ほいっと」


 カルマが指を鳴らすたび、スカート、ブラウス、エプロン……と次々と衣服が、どこからともなく出現する。


 これこそが、カルマの持つ【スキル】のひとつだ。


 邪竜カルマアビスは、100年前、世界の破壊をたくらもうとした邪神王ベリアルを、偶然倒した。


 それにより、カルマは【神殺し】という称号を得た。それと同時に、邪神王が所有していた最強の力、および無数のチートスキルを身につけたのである。


 さっきのは【神殺し】のスキルのひとつ、【万物創造】。あらゆるものをゼロから作り出すという、チート級のスキルだ。


「さっ、お着替え完了! 次はお掃除ですよ!」


 カルマは寝室を後にする。その前に【りゅー君抱き枕に】「ん~~~~ちゅっ♪」とディープキスして、部屋を出て行く。


 やってきたのはリビングだ。テーブルや食器棚など、ありふれたもので溢れている。

「さ、料理を作る前にパパッとお掃除です♪」


 カルマはそう言うと、左手を顔の前で開く。すると……バリバリバリバリ! と、手のひらに、黒い雷が出現。


「はぁああああああ!!!!」


 カルマは左手を、さっ! となぎ払う。


 ぱっきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!


 すると黒い雷がリビングを疾走。雷が当たったところにあったものが、全て消失した。


 先ほどまであったはずのイスやテーブル、食器棚といった家具が全て消えた。更地となったリビングに、


「よっと」


 ぱちん! とカルマが指を鳴らす。すると更地に、新しい家具が出現。新品の、ぴかぴかと輝く家具類を見て、


「よし、お掃除完了!」


 ……先ほどの雷は、カルマの持つスキルのひとつ【万物破壊】だ。文字通り雷が触れた物体を全て消滅させる恐るべきスキルである。


 これを使えばダンジョンボスであろうと、魔王四天王であろうと、魔王本人であろうと、消し飛ばすことが可能だろう。


 ……しかしカルマがこのスキルを使うのは、おもにこの【掃除】のときだけである。あとは息子の身に危険が及んだときだけである。


「息子が朝ご飯を快適に食べられるように、常に家具はぴっかぴかにしておく……。くぅ~~~~~! とっても【母親】っぽいですよー!」


 少女のように無垢な笑顔を浮かべながら、えへへと笑うカルマ。


「さぁてお次は朝食の準備です!」


 とは言っても、カルマにとっての食事の準備は、指ぱっちんひとつで事足りる。


 テーブルの上には、美味しそうな食事が並ぶ。ポタージュスープに焼きたてのパン。新鮮なサラダに果実。コーンフレークに牛乳。ヨーグルト。


「本当なら朝からお肉を焼きたいところですが、しかしそれでは栄養バランスが悪いです。それに寝起きでは胃の動きも活発ではありませんからね。……ふっ、その辺を考慮して朝食を作る私……とってもお母さんっぽい」


 うっとりとした表情のカルマ。そこには母性は感じさせられず、どちらかと言えば夢見る少女のようなあどけなさがあった。


「さーて朝の準備が完了しました! あとは息子を! 愛する天使を! おこしにいくだけですよぅ♪」


 るんるんるん、とスキップしながら、カルマは階段を上り、二階へと向かう。


 二階にはいくつも部屋がある。そのうち三つが埋まっている。息子と、その恋人と、そして孫の三名だ。


 だが孫はいつも、息子のベッドに入っているので、実質的に部屋は二つしか使われていない。


 カルマは息子の部屋の前に行く。ドアノブを勢いよく開けようとして……止まる。


「おっといけないいけない。思春期の息子の部屋に入るときは、まずはノックが必要だって、この本にも書いてありましたからね」


 にゅっ、とカルマが異空間から、1冊の本を取り出す。【母子クラブ】とかかれた育児専門雑誌だ。


「ええっと……なになに。ノックは必ずしましょう。中で息子がナニをしているのかわかりません。ナニの最中にのぞかれると息子さんの不興を買うことでしょう……か。くぅ~~~~~! ためになるなぁ【母子クラブ】!」


 ところで【ナニ】とは何なのだろうか? とカルマは首をかしげる。この邪竜、実は未だに処女だったりする。


 それはさておき。


「では母親らしく、優雅に、静かに、けれどきちんと中にいるりゅー君に聞こえるように、ノックしましょう」


 カルマはドアに、ノックしようとしたそのときだ。


【うわぁあああああああああああああああああああああ!!!!】


 ドア向こうから、息子の悲鳴が「どうしたりゅーーーーーーーーーくーーーーーーーーーーーーーーーん!!!!」


 どごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!


 力加減を忘れて、カルマが思い切りドアをぶち抜く。(※軽くノックしたつもり)


 壁に大きな穴を開け、カルマはシュバッ……! と中に入る。


「どうかしましたかっ!? 不届き者か!? 侵入者か!? 息子の寝顔をペロペロしようと入ってきた変態か!? おのれ息子に手を出すとはいいどきょうだなぁああああああ! ぶち殺してやるぞぉぉおおおおおおおお!!!」


 邪竜に変身して、不届き者をドラゴンブレスで消し飛ばしてやろう……と思っていたのだが。


「か、母さんっ!?」


 ベッドの上に天使が降臨なさっていた……じゃなかった。息子が半身を起こして、びっくり仰天していた。


「りゅーーーーーーーーくん!」


 びょんっ! とカルマが息子に向かってダイブ。その体の上に着地し、そのままぎゅーっと抱きしめる。


「大丈夫です! お母さんが来たからもう安心ですからね! 不届き者は指先一つで消し飛ばしますから!」


 むぎゅー! と息子を力一杯、胸に抱く。合法的に息子にハグできてラッキー☆ とは思ってない。決して。


「それでりゅー君。侵入者はどこですか?」


「えっと……あそこ?」


 リュージが壁を指さす。部屋の壁には、何かが埋まっていた。


「ぐぬぬ……。なんてバカげた威力じゃ……。規格外すぎるパワーなのじゃ……」


 よく見ると、壁には幼女が埋まっていた。体が壁にめり込んでいる。


「あの侵入者は壁に埋まるのが趣味なのですか?」

「か、母さんが吹き飛ばしたんだよ……」

「おやそうなのですか?」


 どうやら先ほど、カルマがドアを吹き飛ばした際、その幼女も一緒に吹き飛ばされたそうだ。


「それであの幼女は何者でしょうか?」

「さ、さあ……? 気付いたらその、僕の隣で寝てたんだ」

「なぁあああああんと羨ましい!」「え?」「なぁああああんとけしからん! 夜這いとはけしからん! よし今すぐぶっ殺すか」


 カルマが殺気を漂わせながら、幼女に向かって歩き出す。


「ま、待って待って!」


 息子が立ち上がると、カルマの細い腰に抱きついて止めてくる。


「相手は子供だよ!?」

「だとしてもりゅー君の貞操を奪おうとする物は、滅っしなければ」


 左手に破壊の雷をまとわせながら、カルマが幼女に近づく。


「ダメだって! 子供をいじめちゃだめだよ。そんなことしたら……僕、悲しいよ」


 しゅん、と表情を暗くするリュージ。


「はぁああああああああ! ごめんなさぁああああああああい!!!」


 びょんっ! とカルマが飛び上がると、空中で土下座の体勢をとり、そのまま頭から地面に激突する。


 びしぃいいいいいいいいいいいい!


 と地面にひびが入り、


 ばぎぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!!



 と、衝撃でリュージの部屋の床が崩れる。

「うわぁああああああ!!!」


 息子が落下しかけたので、カルマはすかさず、


「変身!」


 そう叫ぶと、カルマの体が、人間から邪竜へと変化する。見上げるほどの大きな、漆黒のドラゴンが出現。


 息子を背中に乗せて、落下を防ぐ。


【りゅー君だだだだだ、大丈夫!?】


「う、うん……。ありがとう、母さん」


 カルマは人間の姿にもどり、万物創造の力を用いて、壊れた床を修理。


 息子とともに二階へ行くと、そこにはさっき壁に埋まっていたはずの幼女が、ベッドに仁王立ちしていた。


「なんですかあなたは?」


 ぎろっとにらむカルマ。


「よくぞ聞いた!」


 幼女はバッ……! と両手を広げる。


「わが名はベルゼバブ……! まおー四天王がひとり、ちゅーおーベルゼバブであるぞ!」


 とか、なんとか。幼女が自称した。


「魔王四天王?」

「ベルゼバブって母さんがこの間たおしたやつ……だよね?」


 先日、虫使いの魔物が、カルマの力をもとめて、この家を襲撃した。


 その名はベルゼバブ。虫を操る能力を持った、魔王四天王の1人だ。


「でも倒したのにどうして……?」


 ハッ! と息子が何かに気付いたような顔になる。


「ま、まさか……ルコのときと、同じなのかな?」

「ルコのとき……。ああ、あのときもルシファーを倒したら、りゅー君がルコを出産したのでしたね」


 以前、ダンジョン内で、同じく魔王四天王の1人、ルシファーと遭遇した。


 そのときもカルマがブレスで消し飛ばし、撃破したはずだった。だが数日後、リュージがルシファーの転生体である幼女を、その身から生み出したのだ。


「ということは今回も……ということでしょうか?」

「自覚無いけど……そうなんじゃない?」


 それを聞いて、カルマは。ぱぁああ……! と顔を輝かせる。


 その一方で、ベルゼバブが偉そうに腕を組みながら、カルマたちを見下ろして言う。


「ふはは! またあったなぬすっとども! きょーこそは我が王である、じゃしんおーベリアル様の力をかえしてもらうのじゃ!」


 なんか妙なことを言っているけど、カルマは無視して、


「おめでとぉおおおおおおおおお!!!」


 と、ベルゼバブに向かってダイブ。そしてその大きな胸に、幼女となったベルゼバブを抱く。


「こ、こらぁ! はなせ! はなさぬかっ!」

「はぁああああああ! 第二子! 第二子ですよおおおおお! 息子が第二子を出産しましたぁああああああああ!!」


 大喜びで、カルマはベルゼバブを胸に抱いて、えへへと笑うのだった。

次回もよろしくお願いいたします!

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[一言] タイトルで察していましたが、まさかベルゼバブをも幼女にしてしまうとは…
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