70.邪竜、息子の交際を認める【前編】
お世話になってます!
今回は前中後編です。
後編のあとがきで発表があります!
ベルゼバブによる襲撃から、一夜が明けた。
朝。リュージは目を覚ます。窓の外からは、柔らかな秋の日差しが差し込んでいた。
「ここは……?」
見上げているのは、よく知った、自分の部屋の天井だ。
「! そうだっ!」
昨日の出来事が思い出される。昨晩、魔王四天王ベルゼバブが出現。母の中に眠る力を奪おうとしてきた。
リュージも応戦しようとしたが、ベルゼバブの攻撃より睡眠状態に陥ってしまった。
シーラと母を逃がすことには成功した。だがそれ以降の記憶が無い。
「母さん……! シーラ! だいじょぶ……って、え?」
バッ……! と半身を起こすと、そこには……。
「シーラっ。ああシーラっ。ケガはありませんかっ?」
ベッドの側で、母と、そして恋人がイスに座っている。
母が心配そうに、ウサギ獣人の体をぺたぺたと触っている。
「はいっ! 大丈夫なのですっ! カルマさんがかけてくれた回復魔法のおかげで、しーらとっても元気!」
にぱーっと笑うシーラ。
「本当ですか? 無理してませんか? あなたはとても優しいから、お母さんに気を使って平気なふりをしてるんじゃあないかと、とても心配です!」
母がシーラをだきぃっ! とハグして、ぎゅーっと抱きしめる。
「えへへっ。大丈夫なのです! 気なんか使ってないのです。でも心配してくれて、ありがとーなのです!」
「ああシーラ……。あなたは本当に良い子ですね。天使の【つがい】にふさわしい女の子です……」
よしよし、と母がシーラの頭を撫でる。えへへと嬉しそうにシーラが笑う。
「ど、どうなってるの……?」
リュージが眠る前、カルマは赤んぼうだった。それが今や、大人の、元の姿にもどっている。
それだけじゃなく、なにやらやたらと、母とシーラが仲良くなっているではないか。
母がシーラをむぎゅっと抱きしめると、シーラも嬉しそうにむぎゅーっと抱きしめ返す。
実に仲の良い……本当の親子のようだった。……ちょっぴり、むっとしてしまう自分がいて、自己嫌悪する。
「! リュージくんっ!」
シーラがリュージに気付いて、笑顔を浮かべる。
「りゅぅううううううくぅうううううううううううううううううん!!!!!」
母カルマがシーラを離し、そのままびょんっ! とリュージに向かって、跳んできた。
そのまま母に抱きつかれる。柔らかな乳房の感触。蜂蜜とミルクを混ぜたような甘いにおいに、頭がくらくらとした。
それと同時に、懐かしい思いと、そして嬉しい気持ちになる。母が、元の姿になって、帰ってきてくれたのだと。
「あ゛ーーーーーーー! 良かったぁーーーー! りゅー君が目を覚ましてくれてぇえええええ! 良かったぁ! よかったぁよおおおおおおおおお!!!!」
カルマが子供のように、わんわんと泣いている。リュージはホッとした。うん、いつも通りの母だ。
「母さん。昨日の晩はどうなったの?」「うわああああああああん! 息子がめをさましてくれてよぉおおおお!」「だからあの昨日は」「わーーーーーーーーん!」
あかん。
母は息子の言葉が、耳に入ってないようだった。
「シーラ。昨日何があったのか教えて?」
「はいなのですっ」
シーラが端的に、昨晩の出来事を話してくれた。
「そっか。でも……良かった。みんな無事で」
シーラが話し終える頃には、カルマは冷静さを取り戻していた。
だがリュージのベッドに一緒に寝転んで、ぎゅーっとハグされている。
「えへへ~♪ 息子とベッド~。ひさしぶりですよぅ~♪」
にっこにこしながら、カルマがリュージを抱いて笑う。恋人の前と言うこともあり、ちょっと勘弁して欲しいという気持ちが半分。
そして残り半分は、母が元通りになってくれて、本当に良かったと安堵する気持ちが半分。
「それで……ええっと、母さんはシーラとその、すっごく仲良くなってるような気がするんだけど」
リュージの問いかけに、カルマが「そうです!」と大きくうなずいた。
「お母さんとシーラは、強い絆で結ばれたのですよ! ね、シーラ?」
「はいなのです! ね、カルマさんっ」
ねー、と仲よさそうに笑うふたり。
「シーラの勇士をりゅー君にも見せてあげたかったのです。ああっ! 記録に残さなかったこの罪深きお母さんをお許しください!」
カルマはリュージから離れる。ベッドの下で跪く。
「カルマさん! そんな立ち上がってなのです。跪くなんてしないで」
ぺちょーん、とウサギ娘が耳を垂らす。
「ああっ! シーラ! あなたは本当に優しい子! お母さんの自慢の義理の娘です!」
カルマがびょんっ、と飛び上がって、シーラの頭をぎゅーっとハグする。えへへと笑うシーラ……。
「って、……え? 母さん……今、なんて……?」
先ほど、母が妙なことを言っていた。自慢の、義理の……娘?
「それってどういう……」
するとそのときだ。
がちゃっ、とリュージの部屋のドアが開いたのだ。
「ぱぱー」
娘であり、元魔王四天王の1人、ルシファーのルコが、入ってきたのだ。
「ルコっ。良かった、無事だったんだね」
ほぅっと安堵の吐息を付く。ルコがててて、とリュージに近づいて、ぴょんっ、とベッドの上に乗る。
「うん。るぅ。ぶじ。げんき。もりもり」
むんっ、とルコが両腕を曲げて力こぶを作る。
「でもベルゼバブに何かされてたんじゃなかったっけ……?」
「それは大丈夫よ、リュー」
ルコの後から、長身のエルフが入ってくる。
「チェキータさん!」
「ハァイ、リュー。元気?」
ニコニコと笑いながら、監視者エルフのチェキータが、リュージに近づいてくる。
「はい、おかげさまで。チェキータさんは、どうですか? 体のお加減」
「うん、お姉さんもるーちゃんもばっちりよ。あなたと同じ眠りの毒を注入されてたみたい。けどもう体からはきれいさっぱり消えてたわ」
よかった……とリュージは心から安堵する。大事な人たちが、傷ついてなかった。そして大切な母も、元通りになった。
これにて一件落着だった。
……が、その前にひとつ、母に確認しておきたいことがあった。
「あのね、母さん。ちょっと確認しておきたいんだけど」
するとカルマが口を開く前に、「リュー。悪いけどちょっとカルマ借りるわね」
そう言って、監視者エルフは、母を連れて、部屋を出て行ってしまった。
残されたのはシーラ、ルコ、そしてリュージ。
「リュージくん。確認しておきたいことって?」
シーラがルコを抱っこして、よしよしと頭を撫でながら尋ねる。
「僕とシーラが、付き合って良いかってこと。ほら、ホテルでのときは、言い寄っていったけど、そのあとすぐに石化しちゃって大変だったでしょ?」
前回、王都でのこと。シーラとともに泊まりでデートに出かけた。その際母に見つかって一悶着会ったのだが、最終的に母はシーラとの交際を認めた……。
のだが、その直後に石化。赤ちゃん化、と立て続けにイベントが起きた。そのせいでシーラとの交際の件が、結構うやむやになっているところがある。
リュージとしては、そこはハッキリさせておきたいところだった。
「母さんが帰ってきたら、ちゃんと確認する。そしたら、ちゃんと、シーラにもう一度、告白するから」
シーラが目を細めて、「うんっ!」と元気よくうなずいて、「えへへ」とはにかんだ。
彼女の笑顔がたまらなく可愛らしくて、リュージは顔を赤らめてうつむいたのだった。