69.邪竜、魔王四天王を消し飛ばす
お世話になってます!
魔王四天王の1人、ベルゼバブの爆炎虫による攻撃を受けたカルマたち。
直撃をシーラが受ける……まさにその瞬間。
カルマは本来の姿にもどり、守ったのだ。
「か、カルマさんっ……!!」
背後でウサギ娘のシーラが、安堵と歓喜の声を上げる。
くるり、ベルゼバブに背を向けて、シーラの元へと駆ける。
しゃがみ込み、カルマは最上級光魔法(回復魔法)を発動。
みるみるうちに、ボロボロだったシーラの体が、元通りになる。
火傷もダメージも、全てが無かったかのように、完全回復した。
「シーラ」
カルマはウサギ娘のことを、ぎゅっと抱きしめる。
「ごめんなさい」
ぎゅーっ、と強く抱きしめる。
「あなたに失望した……なんて酷いこと言って。その……ごめんなさい」
「カルマさん……。ううん、気にしないで。しーらぜんぜん気にしてないのです!」
元気に明るく、シーラが答える。
その笑顔を見て、カルマの心が晴れやかになる。
「バカな……あり得ぬ。おぬしは我が爆炎虫の最大の一撃を受けたはず……!」
背後でベルゼバブがわめく。
「魔王四天王最弱とは言え……やつは赤んぼうだった。赤んぼうの状態で直撃を受けた。だのになぜ!」
カルマはシーラの元を離れて、ベルゼバブの前に立つ。
「簡単ですよ」
カルマは冷ややかな目で、ベルゼバブを見下ろす。
「それはあなたが虫けらのように弱いからです」
カルマの言い放った一言に、ベルゼバブが怒りに体を震わせる。
「虫けらだと……?」
「そうですよ。虫けら。弱いからこそ群れるのでしょう? 群れないと強者ぶれない。まさに虫けらです」
びき……ビキビキッ……!
と、ベルゼバブの血管が破裂したような音がする。
「調子に……乗るなよこの盗人がぁああ!!!」
ベルゼバブが腕を振るう。
何百、何千という固い殻をもった虫が集って、大剣となり、カルマに殺到する。
「危ない……!」
シーラが叫ぶ。
だがカルマは振り返って微笑み、大丈夫だよとうなずく。
左手を前に出す。
その左手には、黒い雷を纏っていた。
ばきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいん!!!!!!!
カルマの手が触れた瞬間、虫でできた大剣が、粉々に砕け散った。
「万物破壊のスキルか!?」
ベルゼバブが叫び、カルマが冷ややかな表情のままうなずく。
「そうですよ。あなたの主とやらが持っていたくだらない力です」
カルマは雷を引っ込める。
「くだらない……だとぉ!? 邪神王様の最強の力を! くだらないだとぉ……!?」
怒り狂うベルゼバブ。だがカルマはまっすぐに四天王を見つめて言う。
「そうですよ。あらゆるものを壊すスキルなんて、くだらない。壊すだけのくだらない、最弱スキルですよ……」
カルマは決然と言い放つ。
「大切な者を守ろうとする、シーラの持つ強さに比べれば。弱すぎる力です」
かつて息子は言っていた。
シーラの優しさが好きだと。
かつて自分はこう言った。
シーラは弱くて、リュージを守れないと。
「……私が間違っていました。そして理解しました。シーラ。あなたは、強いですね」
本当の強さは、心の強さだ。
たとえ力が及ばないとしても、強大な悪に立ち向かおうとする勇気。大切な者を絶対に守ろうとする、強固なる意志。
それがこの少女の持つ強さだ。
……弱いだなんてとんでもなかった。シーラは、強い女だった。
「ふざ……ふざけるなあああああああああああああああ!!!!!」
ブゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!
ベルゼバブの体が、無数の蟲へと変化する。
数え切れないほどの黒い虫たちが、カルマに一斉に飛びかかる。
虫たちは高速で、カルマの周りを回転する。
虫の持つ甲殻が、カルマの肌を削る。それはつむじ風の中にいるようだった。
「どうだぁ! 無数の我らをどう倒す!? 邪神王様のがいかに強かろうと、数えきれぬ我ら全てを倒せぬだろうがぁああ!」
確かに万物破壊は、触れたものを壊すスキルだ。
逆に言えば、触れられぬならば壊せない。
ベルゼバブは言っていた。
こいつらは全にして一だと。一にして全だと。
すべてを一気に消さない限り、こいつは完全消滅しない。
ブゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!
虫の嵐がカルマの肉を削る。
「はははっ! 手も足も出ぬだろおおおおおおおおおおお!!!」
だが……。
それも……。
「児戯ですね」
カルマはスキルを発動させる。
忌々しい、神を殺して手に入れた最強の力。
【神殺しのスキル】のひとつ。
【強制転移(最上級)】
あらゆるものを、カルマの思った通りの場所に、強制的に転移させるスキルだ。
かつてダンジョン内のゴミを掃除したときに使ったスキルだ。
周囲にある全てを、カルマの意のままに動かせる。
全ては、全てだ。
たとえ何千、何百、何億、何兆。
ベルゼバブを構成する虫の数が、いかに多かろうと。
しかし無限ではない。
限りがあるのなら、その全てを、転移させることができる。
どこへ?
カルマのいる上空。
否……。
遥か、上空。
空を超え、大気圏を突き抜けた先……。
宇宙空間。
そこに……1カ所に、集める。
ベルゼバブを構成する虫たちは、1カ所に集まり球体となった。
それはまるで、夜空に浮かぶ月のようだった。
「逃げようと思っても無駄ですよ。そこに空気はありません。空気がなければ、翅を動かし逃げることはできないでしょう?」
聞こえてるかわからないが。
カルマが上空をにらみながら言う。
月の隣に浮かぶ黒い球体。
ベルゼバブの集合した球体をにらみながら、カルマは言った。
「変身」
カルマの体が、人間から邪竜の姿へと変化する。
見上げるほどの巨体。漆黒の巨竜。禍々しいその威容を前に……。
「きれい……」
と、シーラがつぶやく。
カルマは目を細める。
いとおしさで胸が温かくなった。
【あなたは本当に、優しいのですね。こんな怖い顔の女を見てきれいだなんて】
「ウソじゃないのです! 本当なのです! カルマさんはキレイです! 人間の姿も、そのドラゴンの姿もっ!」
【ふふっ。わかってますよ。あなたがウソなんて、お世辞なんて、言ってないことくらい】
もうわかったのだから。
この子が心から、優しい少女であることを。
カルマはもう、わかっているのだ。
【じゃ、シーラ。お母さんちょっと、アレ倒してきますね】
カルマは言った。
自分の一人称を、お母さんと。
それはリュージに対して、息子に対して、家族に対してだけ、使っていた……一人称だ。
それを、シーラの前で、使った。
つまりはまあ、そういうことだ。
認めたのだ。この子を。家族と。息子の……愛しい、私の愛しい……存在だと。
「はいっ! いってらっしゃい!」
カルマは笑う。
もう恐れはなかった。
カルマは大きな翼を広げて、遙か彼方を目指して飛ぶ。
恐れはない。
恐怖とは、息子の言っていたことを、理解できなかった……怖さ。
息子は言っていた。
シーラを愛していると。
シーラの優しいところが好きだと。
シーラが優しくて……そして強いと。
……かつてのカルマは、わからなかった。息子の言っていることが、まったく、これっぽっちも理解できなかった。
あのちっぽけなウサギの少女が、強いだなんて、思えなかった。
なぜ息子が、母以外の女を愛するのかも、わからなかった。理解できなかった。
けど……。
もう、わかったのだ。
自信を持って言える。
息子はシーラを愛しているのだと。
シーラの優しくて、強いところが、好きだから、恋人になりたいと思ったのだと。
カルマは遥か上空、大気圏を越えた先まで……やってくる。
眼前には黒い球体が、微動だにできずにいる。
【クソ……! あと一歩だった! あと一歩だったのに! あの弱いウサギに予想外に足を引っ張られたせいで!】
ベルゼバブが叫ぶ。
反撃したくてもできない。動きたくてもできないのだ。
空気がないと、翅は動かせても、前へと動けないのだ。
【哀れですね】
【なんだと!?】
カルマは心からのセリフを吐く。
【哀れだ、と言ったのです。あなたは見誤った。シーラを、弱いと見誤った。あの子の強さに気づけなかった。……それが、敗因ですよ。そして敗因に気づけないおまえが、哀れだと言ったのです】
それは自分への戒めでもあった。自嘲でもあった。
シーラの強さに、息子の思いに気づけなかった、愚かなかつての自分へと、投げかける言葉だった。
【あんなちっぽけなウサギのどこが強いと言うのだ!?】
【……もう良いです。あなたを見ていると苛つきます】
かつての自分の、愚かな姿を見ているようで。
息子の恋人の、強さを見ようとしなかった、理解しようとしなかった……自分を見ているようだから。
カルマは体の中の魔力を燃やす。
それは高熱のエネルギーとなって、体の中で燃える。
たとえ酸素がなくても、魔力を燃やしてでできた炎ならば、この宇宙空間であっても使えるのだ。
炎。
ドラゴンの、息吹。
胸を膨らませ、首をのけぞる。
【や、やめてくれえええええええ! 殺さないでくれえええええええええええええええええ!!!】
そして……。
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!
それは、ため込んでいた思いを全てをはき出すような、一撃だった。
ドラゴンのブレスは、破壊の光となりて、ベルゼバブの球体すべてを、一瞬にして消し炭にした。
極太のブレスは、地上で打てば、大変な被害になっていただろう。
だがこの宇宙空間でならば、誰にも迷惑をかけなかった。
ちりも残さず、ベルゼバブは消滅した。
消え去ったベルゼバブに向かって、カルマはつぶやく。
【さよなら、愚かな虫けらベルゼバブ。……さよなら、愚かだった、かつての自分】
次回で6章終了です!
そして、六章終了時に、大切なお知らせがあります!
これがアレになります!そしてなんとアレにもなります!
詳しい話は次回のあとがきにて、ご報告させていただきます!
ではまた!